好奇心やルーツを自在にぶつけ合うミクスチャー新世代 Kanna、ネガティブな時代に突き詰める“楽しさ”
化学反応の連鎖で広げていくミクスチャーの可能性
――名古屋では『MURDER THEY FALL』というハードコアとヒップホップの祭典のようなイベントが昔からあったり、バンドとヒップホップの距離が近い印象があります。そういった土地柄もKannaに影響していますか?
Nouchi:本当にそういった隔たりがないのは感じていましたね。僕らがライブを始めた頃に対バンした先輩たちも、ヒップホップクルーの人がバンドの人たちと一緒に組んでミクスチャーをやっていたりした人たちで。
Koshi:ヒップホップ側の人たちがライブハウスに対してすごく積極的というか。ヒップホップクルーの人たちも普通にライブハウスに出入りしていて、僕らもそこと関わることも多かったです。ジャンルや形式に縛られていないんですよね。
Nouchi:ライブハウスとクラブの店舗数が東京と比べて少ないのもあって、たぶんここでやるしかないっていう状況もあったと思うんですけど、とにかくみんな音楽に真っ直ぐで貪欲なんだと思います。
――逆に東京では感じにくいところかもしれませんね。そうして形成されたKannaの音楽性はミクスチャーロックをポップに昇華したものになっています。言わば何でもありな音楽だと思うのですが、その魅力と難しさはどこにあると思いますか?
Koshi:今はラップしていなくてもミクスチャーロックと呼ばれるものが多い中で、僕らはラップをしていて、なおかつ今までのいわゆるミクスチャーロックとは違って、打ち込みのサウンドも入れているのはすごく新鮮に感じると思うんです。でもその反面、音数はどうしても増えるので、ラップとギターを目立たせたい場面でも他の音に耳が行ってしまう難しさはありますね。
Nouchi:良いところは、本当に自由で何でもできることですよね。でもそのせいで何を作ればいいかわからなくなる(笑)。手札が無限にありすぎるから、それを全部入れて闇鍋のようにしたときに「良い感じかも!」となるのも良いところだから表裏一体なんですよね。
Koshi:闇鍋だね。「超美味い!」ってなるかどうか、紙一重です。
――そういった音楽性を突き詰めていこうと思った転機と呼べる曲はどれになるんしょうか?
Koshi:「空」ですね。あの曲は打ち込みをがっつり使ってリリースした初めての曲で。大きいフェスのオーディション(『FUJI ROCK FESTIVAL' 22 -ROOKIE A GO GO-』)を通過させてもらった曲でもあります。打ち込みのサウンドをしっかり活かして曲を作れたのがすごく大きくて。個人的な思い入れもあるし、転機になった曲ですね。できたときめっちゃ聴いたよね?
Nouchi:めっちゃ聴いた。「これだったらオーディションも通るでしょ!」って感覚がありましたね。今のスタイルになったタイミングでもあったので。
Koshi:まだやれることがいっぱいあるので、このスタイルはもっと追求したいですね。でもバンドサウンドにしかできないこともたくさんあると思うので、ここからの僕たちの気分で変わっていくかもしれないです。セッションや、その上にラップを乗せるのも好きなので。
――「いいんじゃNight!」には元CHAIのMANAさんとKANAさんが参加していたり、2月にリリースした「Naa Naa Love」にはw.o.d.のサイトウタクヤさん、3月にリリースした「You」にはw.o.d.のKen Mackayさん、中島元良さんが参加しています。そういったゲストの参加はいかがですか?
Koshi:楽しいよね。
Nouchi:そもそも僕とKoshiだけでもだいぶミクスチャーだから、何をやってもいいよねっていう感覚で。だから外部の要素を入れられたらもっと面白いよねっていう考えはずっとあったんです。これまでもレコーディングで地元の先輩のバンドのベーシストに弾いてもらったり、制作の中で自分たちに出せないものはその都度別のアーティストにお願いしていたりします。
Koshi:ベーシストにはベーシストのフレーズがあるし、専門分野の違う人と一緒にやるときの化学反応はやっぱり楽しいです。
「ライブを観て、“カッコいい”より“楽しい”と思ってほしい」
――転機の話をもう一つすると、昨年の名古屋でのワンマンライブは大学卒業のタイミングでもあり、一般的に人生の転機の一つだと思いますが、この1年でどのような変化がありましたか? 拠点を東京に移してもいますよね。
Koshi:僕は3カ月くらいだけ社会人として働いて辞めたんです。なぜかNouchiと、働いていた会社の同期と3人で占いに行って「音楽をやりたいなら今辞めた方がいい」と言われたんで(笑)。だから大学生、社会人、無職、そしてミュージシャンという時期があった去年は激動でしたね。
Nouchi:東京に来たばっかりのときはミュージシャン仲間が減ったなとすごく感じて。でも、逆に名古屋時代はミュージシャン同士で集まってセッションしたり遊んだりしていた部分が、東京では全部自分たちだけで音楽を作る方向に完全にシフトして、デモも増えていったんです。だからそういう意味では、本格的に音楽を頑張らなきゃとより強く思えたかもしれません。
Koshi:のっぴきならなくはなりましたね(笑)。名古屋にいたときは実家だったし、上京して生きるためにはちゃんと音楽をやるしかない状況になったので。それは学生のときも社会人のときもなかったので、より真剣になってきたかもしれないです。
Nouchi:「ワンウェイ」ではまさにそういった上京物語のようなことを歌っていて。あの曲以降はより具体的な表現がリリックの中に増えたと思います。それ以前の僕らの曲はザ・ミクスチャーというか、セルフボーストしてこの音楽業界を変えるんだみたいなカッコいいことをメインに書くことが多かったですけど、それよりも自分という人間を聴く人に共有した方が、より広いところに届くんじゃないかという意識の変化はあったかなと。
Koshi:サウンド面でも今まではロックやハードロックと呼ばれるものへのこだわりが強かったんですけど、音楽に費やす時間が増えて、いろんな音楽を広く聴くようになって。今までは聴いていなかったジャンルの良さにも気づくようになったんです。それを自分たちに取り入れようと思うことも増えて。アレンジの面でもより広がりを意識した考え方が生まれたり、トレンドをちゃんと意識して、その上で自分たちの表現をするにはどうしたらいいかをより深く考えるようになりましたね。
――「ワンウェイ」にはジャージークラブ的なトレンドを意識したアプローチがありますもんね。最近はどんな音楽を聴いているんですか?
Koshi:Apple Musicの「ディスカバリーステーション」がめっちゃ良いです。今まで僕が聴いていたものを元にアルゴリズムでおすすめされていると思うんですけど、最近衝撃だったのは中国のポップミュージック、C-POPで。すごく洗練されているけどどこかに必ず中国っぽさがある。
Nouchi:あれすごいよね。
Koshi:朱婧汐(アキニ・ジン)という中国のシンガーソングライターが良かったですね。ヒップホップっぽさもテクノっぽさもあってすごいんです。あとJ-POPもよく聴くようになりましたね。最近はMrs. GREEN APPLEをめっちゃ聴いてます。もともと良い音楽を作っていてすごいなと思っていたんですけど、あらためて聴くとちゃんとトレンドを意識してMrs. GREEN APPLEとして昇華していることに気づいて。「WanteD! WanteD!」(2017年)は当時流行っていたEDMらしさもありつつ、最近の曲はFX(音響効果や楽器のエフェクター)が多めで派手な音も入っていて、でもちゃんとMrs. GREEN APPLEらしいところがめっちゃ勉強になります。自分たちもちゃんとトレンドを意識しつつ、でもKannaだよねと言われるような音楽が作れたらいいなって。
Nouchi:僕はここ1年くらい、Lawrenceっていうアメリカの兄妹の2人組の曲をめっちゃ聴いてます。兄がピアノを弾きながら妹が歌うスタイルで、R&Bやソウル、ジャズのオーセンティックな感覚がありつつ、今時のハイファイな音も入っていて、すごくポップに昇華されているんです。めっちゃ聴きやすいし、まさに僕らが目指しているような、メインストリームにいるけど自分たちなりの尖り方を持っている人たちなんですよね。
――目指しているアーティスト像について伺おうと思っていたのですが、つまりそういうことなんですね。
Nouchi:そうですね、自分たちのやっている音楽のジャンルの敷居を低くしたいんです。そうやってポップに昇華していった上で、尖る部分も持ち続けたいなと。それこそ僕のルーツになっているSEAMOさん、HOME MADE 家族さん、nobodyknows+さんの世代のヒップホップのミュージシャンたちは、J-POPとして、お茶の間にうまくラップを広げた印象があって。ミクスチャーでそれをやっている人はあまりいないような気がしているんですよね。
Koshi:そこは共通しています。わかる人にわかればいいというより、いろんな人に届けたいんです。長く第一線で活躍してシーンを作ったような人たちって、“棘がありつつオーバーグラウンドな音楽である”というのが根底にあると思うので、自分たちもできるようになれたらいいなと思っています。
――では最後に、Kannaにとってのライブとはどのようなものなのか教えてください。
Nouchi:リリックの移り変わりとも似ているんですけど、最近は特に“カッコいい”を意識しなくなったんです。それよりライブを観ていて“楽しい”と思ってほしいんですよね。ショーケースよりエンターテインメントというか。それは意識的に変えている部分でもあります。
Koshi:もともと4人で始まったバンドが2人だけになって。そこから、ライブをするときはサポートを入れて生ドラム、生ベース、生ギターも含めた5人でやるようになり、今は僕ら+生ドラムっていうスタイルになったんですけど、サウンドが変わるにつれて自分たちのやりたいことを見つめ直す必要が出てきて。そうしたときにオーバーグラウンドでやっていきたいし、そのときに僕らが欲しいのって“カッコいいバンド”という印象ではなくて、遊びに来た人の“楽しい”という感覚で。そのポップさを音源でもライブでも表現していきたいというのがわかったんです。だからカッコつけるのはやめました(笑)。
Nouchi:「カッコいいなアイツら」っていうのは始めたときから言われ続けていたんですよ。言われ飽きたんです(笑)。
Koshi:痛いヤツだ。あんまり自分で言わんよ(笑)。
Nouchi:でも実際、ライブ終わりにフロアから聞こえてくる声が「カッコいい」から「楽しい!」になったのはちゃんと伝わっている感覚がありますね。