布袋寅泰が語る最高傑作『GUITARHYTHM VIII』 Char、吉井和哉、石野卓球……進化し続ける音楽探求の衝動

布袋寅泰、音楽探求の衝動と『GVIII』

COMPLEXの東京ドームを経て向き合った『GUITARHYTHM VIII』

――『GUITARHYTHM VIII』の着想はいつからあったのでしょうか? 『V』以降、『GUITARHYTHM』が連続リリースになるのは初めてのことですよね。最初から『GUITARHYTHM』を作るつもりだったのか、楽曲制作していくうちに『GUITARHYTHM』になっていったのか、経緯を教えてください。

布袋寅泰(以下、布袋):なるほど、そう言われればそうだね。はっきりと「次も『GUITARHYTHM』を作ろう」って思ったのは、COMPLEXの東京ドームを終えたあたりかな。久しぶりに80年代後半に作った楽曲と向き合い演奏してみて、コンプの曲が古びるどころか逆に新鮮に響いたことが、ある意味着火点になったかもしれない。前作『VII』は自分の中でも完成度が高くて、正直なところこれを超えるのはなかなか大変だなとプレッシャーを感じていた。次の『GUITARHYTHM』はどう進化すべきなのか? ってね。映画でも“シリーズ最新作”って作る側も観る側も期待と不安が入り混じるじゃない(笑)? 『GUITARHYTHM』は僕にとっての『スター・ウォーズ』みたいなものだからね。しかし僕の創作の原点とは常に“前作からの脱却”がテーマでもある。BOØWY解散後の『GUITARHYTHM』がいちばんいい例だけど、ひとつの世界観を描き切ったあとは、まったく別のものを作りたくなる。そんな時に、今こそ『GUITARHYTHM』の原点回帰すべきタイミングなのではないかと直感したんだ。

――全体を通して80’sやニューウェーブの香りを強く感じました。アーシーなシンセベースサウンドや本物のブラスに近づけるのではなく鍵盤で演奏しているホーンアレンジなど、理解しやすいフレーズが多く、隙間を埋めずにバンドの間合いを感じられ、そのぶん各楽器がシステマチックに組み上げられているような聴き心地で。質感もいつも以上にドライで立体感のある音像だと思いましたし、楽曲の方向性を含めて、これまでの『GUITARHYTHM』の中で個人的にはいちばん明るい印象を受けました。作品のテーマ性や制作面での軸のような部分は、どのように組み立てていきましたか?

布袋:君が制作意図を全部書いてくれたから質問に答える手間がなくなったよ(笑)。おっしゃる通り、今回の『VIII』は80’sがテーマ。“8”という数字にも当てはまるしね。やっぱり自分のルーツは、80年代のニューウェーブにある。だから今回は、その時代の空気感を今の技術と感覚でアップデートする感じで作ったんだ。たとえばギターのフレーズや、シンセの音色もシーケンスのグルーヴも、ちょっと人工的なニュアンスをわざと残してる。バンドの隙間を活かしたアレンジにすることで、それぞれの楽器の存在感が立ってくると思うし、そういう立体感を大事にしたつもり。ロンドン三部作とも呼べる『PARADOX』『VI』『VII』では、テロや戦争、環境問題、AIやテクノロジーの進化という、人類が直面している危機や不安、未来への警告など、ダークでデストピア感のある作品が続いた。それはそれで僕の重厚な世界観だったけど、もう一枚続けるのはちょっと気が滅入る。であれば対局のブライトでハッピーな音楽、と発想を転換せざるを得ない。そこにこの80’sというテーマはぴったりハマったんだ。アルバムのアートワークのように、“マルチビタミン”のような元気の出るアルバムだよ。

布袋寅泰
『GUITARHYTHM VIII』

――ギターサウンドについてもお聞かせください。冒頭3曲「Jump」「No More Killing」「憂鬱なジキル」を筆頭に、これまでより荒い歪み、端的に言えばビンテージトーンに近づいた印象があります。2024年のCOMPLEXの公演では、新しいトーンだと思ったらZodiac NEOを使っていたりと、布袋さんの飽くなき音楽探究を感じましたし、昨年12月武道館公演での「CIRCUS」におけるエクスワイヤーの枯れた音も印象的でした。ギターのサウンドメイクやバンドのレコーディング法など、これまでと変えた点はありましたか? 

布袋:うん、今回は新しく立ち上げたギターブランド・Zodiac NEOのEternal legacyシリーズの新HOTEIモデルをメインに使っている。今までのHOTEIモデルのキレのよさに加え、少しざらついた太いニュアンスが足されドライブ感が増したんじゃないかな? アンプはいつもの÷13のほかにOrangeも加わりバリエーションが増えた。RolandのJCやGP8といった80’sの香りがするアルペジオサウンドも聴きどころのひとつだね。ドラムは山木秀夫さん、ベースはKenKen、キーボードに奥野真哉くん、プログラミングには今回も岸利至くん、と最高のミュージシャン陣、ミキシングにはINXSやGang of Fouなどを手がけた80’sのオリジンとも言えるSimon Gogerly、Bring Me The Horizon等のラウド系ギターバンドのミキサーのRomesh Dodangoda、The Art Of NoiseやJeff Beck等のStephen LipsonのUK勢と、日本の今井邦彦さんなどの5人のエンジニアによる色彩豊かなミックスと、The Rolling Stonesの『Hackney Diamonds』でグラミーを受賞したMatt Coltonが見事なマスタリングで仕上げてくれた。軽快だけど奥の深いサウンドは才能あるキャストたちの力による部分も大きいよ。

禁じ手としてきた“ザ・布袋寅泰”を「全部出してもいいと思えた」

――「Jump」「No More Killing」「憂鬱なジキル」という3曲の流れが本作を象徴しているし、ファンが今聴きたい『GUITARHYTHM』観にハマっているなと感じます。これは狙ったものなのか、自然的にできたものなのか、この3曲の制作の背景などを教えてください。

布袋:ファンの期待に応えつつ、その期待を超え続けるのは至難の技なんだよ(笑)! 「Jump」は一曲目に作った曲。ワンコードのシーケンスに王道のギターリフを乗せて、踊れるR&Rでスタートしたかった。Primal Screamの「Rocks」とUnderworldの「Born Slippy」を足して割ったようなね。「No More Killing」は「G線上のスキマ」という仮タイトルの曲で、反戦歌にする予定ではなかったんだけど、森さんの今いちばん書き伝えたい、そして布袋くんにぜひ歌ってほしい、という意向を受けてアルバムで唯一のストレートなメッセージソングとなった。『GUITARHYTHM』とは、森さんの伝えたい言葉やメッセージを僕が歌うべき場所でもあるんだよ。「憂鬱なジキル」もロックオペラ調で、内面に潜っていくっていう外と内を行き来するようなイメージが僕らにしか作れない世界だよね。BOØWY時代から僕の得意とするローラーコースター的作風。『VII』の「アンドロメダ」にも匹敵するようなスリルとロマンがあるよね。このアルバムはライブを意識して作った部分も強いので、きっとみんなウズウズしてくれるんじゃないかな?

――「Finally」は、若さ迸るビートにやんちゃな時代の歌い出し。現在の布袋さんがこういう歌を歌うことがなんだか嬉しく思います。「Finally」は、森さんの作詞で人生を振り返るような歌に仕上がっていますが、どのようなところから着想を得て、作っていったのでしょうか?

布袋:いつもどこかBOØWY的、もしくは「スリル」「POISON」「バンビーナ」あたりの“ザ・布袋寅泰”的なアプローチを禁じ手としてきた部分があるんだけど、今回は全部出してもいいと思えたんだよね。この曲には「ホンキ-・トンキ-・クレイジー」や「POISON」「バンビーナ」のキャッチーで踊れるR&Rの楽しさを散りばめつつ、歌詞については森さんに“あの頃の少年少女たち”を主人公にした大人の青春ストーリーに仕上げてほしいとお願いした。デモの時からタイトルは「Finally=ついに、最終的に」だったんだ。みんなが通った懐かしい光景が目に浮かぶミュージカルみたいな曲に仕上がった。少し前の僕だったらきっと歌えなかったと思うんだよね。今だからビートの効いたストーリーとして眩しくて切なく響くんだよね。

――「オフィーリア」は、個人的にJeff Beck感を感じた曲でしたが、モチーフにありましたか? こういった淡々と叙情性を描いていくインストはありそうでなかった気がします。

布袋:この曲は僕の大好きなロンドンのテート・ブリテンという美術館にあるミレイの『オフィーリア』という絵にインスパイアされて作った曲なんだ。川に横たわる彼女の姿がすごく印象的でね、美しくて儚くて、どこか危うい。その空気感をギター1本で描けないかなって思って、あの静かなトーンが生まれたんだ。絵画を曲にするというトライは初めてだったので、絵の具を筆に乗せてキャンパスに描くような、いつもとは違った表現だったな。ベックの影響って、自分の中にずっと染み込んでるから“感情をにじませるように歌うように弾く”というスタイルはこの「オフィーリア」も、表れてるかもね。ロンドンに行く機会があればぜひヘッドフォンでこの曲を聴きながら、彼女を見つめてほしい。ミックスはStephen Lipson。本物のThe Art Of Noiseの音だよね。

――「Funk It Up」は、ファンクなリズムが心地好い曲。「GUITARHYTHM」のフレーズも挿入されていますが、どのように作っていきましたか?

布袋:この曲はね、最初は完全に“遊び”から始まったんだ。Jack Whiteみたいなブルージーなリフを『007』などのスパイ映画のテイストでやったら面白いかな、と。日本に持ち帰ってスタジオで山木さんとKenKenとジャムしながら何テイクか録音して、パーツをシャッフルしたり、ギターを弾き直したりしている中で「GUITARHYTHM」をマッシュアップするというアイデアが閃いて、当ててみたらばっちりハマった。こういう思いつきがうまくいく時ってあるんだよね、たまに。そうなると単なる思いつきではなく必然となる。“Funk it up”とは“迷わずやっちまいなよ”とか“クヨクヨ気にするな”みたいな意味。ファーストの『GUITARHYTHM』の精神を、今の感覚でアップデートするのが面白かったよ。

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