URCのフォークソングは「体臭や匂いもある音楽」

ーー五つの赤い風船の「これがボクらの道なのか」も素晴らしいですね。アルバム『巫OLK脱出計画』収録曲です。

曽我部：いいよね。「これがボクらの道なのか」はお客さんと合唱するようなタイプの曲なのかな。コンピのアナログ盤には「殺してしまおう」という曲を入れたんだけど、そっちも本当に好きで、自分の名曲ストックのなかには必ず入っているんですよ。LPの1曲目はこれにしようって決めてました。

ーーそこまで惹かれている理由は？

曽我部：メロディ、歌詞、録音の雰囲気もそうだし、全部好きですね。「世界がもっとひどくなる前にボクたちのペットを殺してしまおう」みたいなことを歌っているんだけど、そんな曲が書けるのはすごいなって。サイケデリックで幻想的なところもあるんですよね。

ーー大塚まさじさん、永井洋さんのデュオ、ザ・ディランIIからは「サーカスにはピエロが」が収録されています。

曽我部：大塚まさじさんは“大阪の唄”という雰囲気を感じるんですよね。ちょっとコブシが回ってるところもあって、ぜんぜん気取ってなくて。大阪に70年代から続いている「春一番」という野外イベントがあって、僕も何回か出してもらったことがあるんですけど、そこに行くとURC出身の方々とお会いできるんですよ。大塚さん、友部さんとか。特に話をするわけではないんだけど、皆さんの歌が聴けるのはうれしかったですね。

ーーアナログ盤『シティ・フォークの夜明け〜URC Selection Compiled by 曽我部恵一＜Vinyl Edition＞』も、選曲基準はフォークですか？

曽我部：そうですね。どうしても収録曲が少なくなってしまうので、厳選して。A面、B面の割り振りも考えて、通して聴いていい感じになるようにまとめたつもりです。

ーー1曲目は先ほども話に出ていた「殺してしまおう」（五つの赤い風船）。2曲目は友部正人さんの「トーキング自動車レースブルース」です。

曽我部：これ好きなんだよなあ……。高岡（富山県高岡市）で見た若者たちの自動車レースのことをただ歌ってるだけなんだけど、すごくいい曲で。友部さん、今もぜんぜん変わらないし、まったく緩くならないというか、純度が落ちてないんですよ。新作も全然いいし、ずっと追っかけてますね。バンドだと「この時期はこんな感じだった」と変化していくし、集合体の音楽なんだけど、1人でやってる人は変わらない何かがあるような気がして。エンケンさんもたぶん、お元気だったらそういう存在になったと思いますね。

ーー金延幸子さんは、名盤『み空』から「空はふきげん」。CD版には「あなたから遠くへ」が収録されていますが、曽我部さんがURCの音楽を聴き始めた90年代前半、金延さんの再評価が進んだ時期ですよね。

曽我部：どうなんですかね。小沢健二さんがライブ（1993年、日比谷野外音楽堂で行われた初のソロライブ）のBGMで流したことで注目されたと言われてますけど、まだ世間的な再評価ではなかったんじゃないかな。金延さんはたぶん、今のシティポップのなかに入ってもバシッとはまる人だと思います。

　（理由は）声でしょうね。レコードもずっと高いんですよ、今も。僕が持ってる『み空』のレコードは、あるAMラジオ局のレコード室にあったやつなんですよ。プロモーションに行ったら、「レコード室を閉めるから、持っていっていいよ」と言われて。『み空』とか、シリア・ポールの『夢で逢えたら』とかをもらったんですけど、今思うと「なんでトラックを呼んで、全部持っていかなかったんだろう」って。そのときの光景は今も夢で見ますね（笑）。

ーーレア盤がたくさんあったでしょうね……。B面の1曲目は六文銭の「あげます」。

曽我部：五つの赤い風船もそうなんですけど、六文銭も当時のカレッジフォークの流れを汲んでいて。（カレッジフォークは）時代的にURCのちょっと前だと思うんですけど、そのあたりのグループも入れておきたかったんですよね。

ーーなるほど。そして早川義夫さんは名曲「サルビアの花」をセレクト。

曽我部：どの曲もいいんですけど、やっぱり「サルビアの花」がいいかなと思って。ジャックス（早川義夫が在籍した1960年代後半のロックバンド）には本当に影響を受けてますね。高校生だった頃にジャックスの再評価がちょっとあって、東芝EMIからベスト盤が出たんですよ。それまでは全部廃盤でまったく聴けなかったんですけど、再発盤を買って「こんなバンドがいたんだ」と衝撃を受けて。ただ、早川さんは活動してなかったんですよね。1stアルバム（『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』）が69年に出て、94年にソニーから『この世で一番キレイなもの』が出るまで、まったく音楽活動をやってなかったから。その間は本屋さんで（早川が営んでいた「早川書房」）、本も書いてたから、それは読んでましたけどね。「ラブ・ゼネレーション」や「ぼくは本屋のおやじさん」とか。

ーーコンピのアナログ盤のＢ面の最後は、古川豪さん「羅針盤で星占いはできない」です。

曽我部：いいですよね。CDのほうにはブルーグラスっぽいインスト（「白い雪・黒い山」）を入れたんですけど、「羅針盤で星占いはできない」はLPに入れたくて。これも加川良さんの「下宿屋」と一緒で、とある1日がただ語られてるんですが、なんか好きなんですよ。古川さんはあまり知られてないかもしれないけど、ぜひ聴いてほしいです。

ーーCD版、アナログともにジャケットデザインも曽我部さんが担当されていますね。

曽我部：気持ちとしてはURCのラストの1枚という感じで作りました。わざわざお金を出して買ってくれるわけだから、できるだけ丁寧に、作り手の思いを乗せたかったというか。ブックレットの解説を手書きにしたり、ちょっとでも思いが伝わればいいなと思ってます。CD版のジャケットに載ってるレコードの写真は全部僕の私物なんですよ。なぎらけんいちさんのレコードにはホテルの名前のシールが貼ってあるんだけど、たぶんどっかのホテルで使ってたんでしょうね。「赤い鳥」は白盤で、手書きで“見本盤”って書いてますね。

ーー曽我部さん自身の思いや熱が伝わってきます。若いリスナーにもぜひ興味を持ってもらいたいですね。

曽我部：そうですよね。シティポップもいいですけど、この時代のフォークもすごくいいので。シティポップはすごく洗練されていて、無味無臭で、’80sのアニメっぽいイラストが似合う世界じゃないですか。URCのフォークはガロ、劇画ですよね、どちらかというと。体臭や匂いもある音楽なんだけど、そういうのもいいんじゃない？　って。僕はどっちもイケるクチなんですけどね。

ーー商業的ではないところも、URCのアーティストの特徴かもしれないですね。

曽我部：売れようとするとダサいという時代だったかもね。この人たちにとっての敵は歌謡曲だったと思うし、だから吉田拓郎が売れると「歌謡曲かよ」って批判されたりして。僕の世代だと、そういう感じがよくわからなかったんですよ。拓郎さんや（井上）陽水さんはテレビにほとんど出なかったけど、10代の頃は「別にどっちもいいのに」って思ってたので。それくらい歌謡や芸能の存在が大きかったんだと思うし、URCはオルタナティブな意識でやっていたんだと思います。その後のインディーズレーベルとのつながりも興味深いですよね。

■リリース情報
V.A.『シティ・フォークの夜明け～URC Selection Compiled by 曽我部恵一<Vinyl Edition>』
30cm 33 1/3rpm LP: MHJL-410
発売日：2025年３月26日
価格：4,620円（税込）
完全生産限定盤
発売元：ソニー・ミュージックレーベルズ

《収録曲》
SIDE A
1. 殺してしまおう／五つの赤い風船
2. トーキング自動車レースブルース／友部正人
3. 雨あがりのビル街《僕は待ちすぎてとても疲れてしまった》／遠藤賢司
4. 空はふきげん／金延幸子
5. 夢は夜開く（Live）／三上 寛

SIDE B
1. あげます／六文銭
2. その気になれば／中川イサト
3. サルビアの花／早川義夫
4. 枚方のあきちゃん／加川 良
5. ゼニがなけりゃ／高田 渡
6. 羅針盤で星占いはできない／古川 豪

V.A.『シティ・フォークの夜明け～URC Selection Compiled by 曽我部恵一』
CD：MHCL-31030
発売中
価格：2,500円（税込）
高品質Blu-spec CD2仕様
発売元：ソニー・ミュージックレーベルズ

《収録曲》
1. 下宿屋／加川 良
2. もう春だね／友部正人
3. あなたから遠くへ／金延幸子
4. がいこつの唄／岡林信康
5. 悩み多き者よ／斉藤哲夫
6. 竹田の子守唄／赤い鳥
7. 青森県北津軽郡東京村／三上 寛
8. 夜汽車のブルース／遠藤賢司
9. 夕暮れ／ひがしのひとし
10. 来年の話をしよう／高田 渡
11. バスが走る／シバ
12. 昭和の銀次／なぎらけんいち
13. 今日はまるで日曜日／中川イサト
14. これがボクらの道なのか／五つの赤い風船
15. サーカスにはピエロが／ザ・ディランⅡ
16. それから……／六文銭
17. 愛餓を／はっぴいえんど
18. 白い雪・黒い山／古川 豪

＜URCアルバム　2024/12/25追加配信分＞
金延幸子／時にまかせて ―金延幸子レア・トラックス＋2
五つの赤い風船／おとぎばなし
五つの赤い風船／巫OLK脱出計画
五つの赤い風船／イン・コンサート（第４集）［Live］
五つの赤い風船／New Sky（アルバム第5集 Part1）
五つの赤い風船／Flight（アルバム第5集 Part2）
五つの赤い風船／ボクは広野に一人居る
五つの赤い風船'75／五つの赤い風船 '75
中川イサト／1970年

URCレコード名盤復刻シリーズ・特設サイト
https://www.110107.com/URC

■曽我部恵一 ライブ情報
4月18日（金）
弾き語りワンマンライブ

＜TOKYO春爛漫 2025＞
東京・有楽町 I'M A SHOWにて開催
他ライブ情報詳細は
https://www.sokabekeiichi.com/live/

■関連リンク
オフィシャルサイト：https://www.sokabekeiichi.com/
X（旧Twitter）：https://x.com/sokabekeiichi
YouTube：https://www.youtube.com/@SunnyDayServiceofficial