『劇場版プロセカ』を彩る新曲群の背景と本質 じん、TeddyLoid、DECO*27らボカロPによる随所に光る技
「ハローセカイ」から派生していくユニット曲 DECO*27の制作センスの高さ
制作の背景を端的に説明すると、作中ではバーチャルシンガー楽曲「ハローセカイ」の曲中1フレーズから派生して各ユニット陣の曲が作られるというあらすじを辿る。キーとなるのは、楽曲単体でも非常に印象的な冒頭の〈きっと届くはず/きっと見えるはず〉というアカペラフレーズだ。このメロディを元にして、それぞれのユニットが“人々の背中を押すための楽曲”を制作。そうして生まれたのが各ユニット歌唱による5曲であり、この連携性もまた『劇場版プロセカ』を構成する本質のひとつとなっているのである。
その上で作品群を改めて聴くと、各曲のリンク性にもより気づきやすいだろう。フレーズ引用が最も明確なのはLeo/needの楽曲「SToRY」。こちらは歌唱冒頭から早速鍵となるメロディが登場し、編曲を手掛けた堀江晶太(kemu)らしい荒々しさと疾走感あるバンドアレンジも印象的なナンバーとなっている。
楽曲の印象変化を付けやすいBメロに該当のフレーズがあるのは、MORE MORE JUMP!「FUN!!」とVivid BAD SQUAD「ファイアダンス」。それぞれ編曲担当は各ユニットにまつわる楽曲の制作陣としてお馴染みでもある、いよわとGigaだ。両者ともに個性的な作風を持つボカロPだが、おそらく単独制作や作詞/作曲という役割分担では、こういった音楽は生まれ得なかったはず。その点からも、DECO*27制作に編曲という形で2人が加わったがゆえのユニークさを、各作品から感じ取ることができる。
ワンダーランズ×ショウタイム「スマイル*シンフォニー」は、フルバージョンを視聴することで、元曲のメロディの引用に初めて気づいた人も多かったのではないだろうか。フレーズが用いられているのは曲終盤、アウトロ的に作られた箇所である。ファンタジックな作風を持ち味とする煮ル果実の編曲とも併せて、楽曲はまさに最後の一秒まで楽しめる音楽へと仕上げられている。
そして、作品群の中でおそらく最も難解なメロディ引用は、25時、ナイトコードで。「そこに在る、光。」かもしれない。元型のメロディをさらにアレンジしたフレーズがサビを中心に散らばっており、強いて言えば、歌詞の促音のリズムがその目印だろうか。今作の編曲を手掛けたのは、すりぃ。従来の彼の作風とはやや印象の異なる曲調からも、その引き出しの多さを垣間見ることができる。
先述のような物語の脚本を成立させる上で、曲のメッセージ性やテイストの統一、キーフレーズの活用方法を考慮すると、楽曲の制作を1人のクリエイターがすべて担うほうが確かに理に適うだろう。ではなぜ、その大役がDECO*27に託されたのか。彼が過去に自身の楽曲で行っていた“愛言葉”シリーズのような複数の楽曲を組み合わせたりといったメタ的な制作手法が、制作陣が『劇場版プロセカ』で実現したい事象とも近しかった点が起用の理由だという。そんな背景を鑑みた上で、ぜひ改めてtepe編曲の「ハローセカイ」を聴いてみてほしい。曲中の「Journey」セルフオマージュも含め、DECO*27の様々な文脈を踏まえた制作センスの高さが随所に光っていることがよくわかるのではないだろうか。
このような形で、それぞれに重要な役割を担って『劇場版プロセカ』を彩る新規書き下ろし曲の数々。映画の上映期間が終わっても、楽曲は今後も長く大勢の人々に聴かれ続ける音楽となる。そこで歌われるメロディや歌詞と併せて、これからも映画の物語はきっとずっとファンの心の中に残っていくに違いない。