にしな、自分を知り、自由を知る 新しい季節の訪れと“いのち”のバラード「つくし」を語る
つくしに花を咲かせた、にしなの想い
――“いのち”をテーマにしながら、北海道の自然もイメージして、植物のつくしと、〈いのちはただ美し〉から「つくし」というタイトルが決まったのかと思うのですが、実際どんな順序でこのタイトルにしたのでしょうか?
にしな:〈いのちはただ美し〉の音が自分のなかに強く残っていたので、それで「うつくし、つくし」かな、みたいな(笑)。でもこの曲って、「花はやがて咲くよ」って歌ってるじゃないですか?
――〈別れを知り花は色付く〉〈愚かさも、頼りなさも/乗せて咲き誇る〉と歌われていますね。
にしな:でも、つくしって咲かないんですよね(笑)。だから、そこはちょっと矛盾してるかなと悩んだりもしたんですけど。だけど、これは物理的に咲くかどうかの話ではないし、イマジネーションでいくらでも咲かせられるし、寒い時期に雪の下で耐え抜いて、芽吹いていく姿はすごく楽曲にフィットしてるなと思って、それで「つくし」に決めました。
――つくし自体は枯れてしまうけど、胞子から次の命が生まれるわけで、曲のテーマともリンクするように思います。
にしな:そうですよね。そういう気持ちもありました。「咲かないとはいえ、それでも!」って、ちゃんと先へと続いていくイメージ。ジャケットを作る時も、「楽曲を聴いて、そのイマジネーションで絵を描く」という作家さんにお願いして、「つくしに花を咲かせる」というアイデアも一案として伝えつつ、描いてもらいました。あとは楽曲がわりとどっしりしているので、とっつきづらくはなってほしくなくて、明るくて軽やかな印象を抱けるジャケットにしたいということをお伝えしました。
――前作「わをん」のテーマが“あい”(愛)で、「つくし」のテーマが“いのち”(命)。個人を立脚点にしつつも、より外向きな、大きなテーマの曲が続いています。もちろん今回はドラマが背景にあったとは思うんですけど、にしなさん自身がそういう大きなテーマと向き合っているフェーズにあると言えますか?
にしな:2024年後半は大きいテーマに挑むことが多かったですし、そのなかで自分の価値観を新たに得ることができて、何かを肯定できるような言葉を書けるようになってきたのかもしれない、とは感じました。「つくし」を書く前もどっしりした曲を書いていたので、2024年の後半は自然とそういうフェーズにあったのかもしれないです。
――その変化は何か理由があると思いますか?
にしな:いつもそうなんですけど、「前にやったこととは反対側に行きたい」っていうのはあると思います。2024年前半に作った曲は自分としてはポップな感じでやってたというか、あんまり物事を重く捉えすぎず、軽やかに楽曲を作ろうとしていて。
――それこそツアータイトルも『Feeling』で、「直感的に」というテーマがあったわけですもんね。
にしな:その頃作ってたのは、自分のなかではとっつきやすくて聴きやすい曲のイメージでした。だからその反対側で、多少とっつきづらいと思われたとしても、自分の人間味を出したいフェーズだったのかもしれないです。
――最初に話してくれた「自分とは?」という話とも通じる部分がありますね。原点回帰とまでは言わないまでも、そういう側面は少なからずあるし、でもこの5年でいろんな出会いがあって、価値観も更新されて、だからこそ自分を深く見つめて曲を作っても、結果的に開かれた外向きの曲になっているし、大きなテーマを肯定的に描けるようになっている。まさに、この5年のにしなさんの変化を表しているのかなって。
にしな:たしかに、ちょっと大人になったかもしれないですね(笑)。
愛が待ってる場所に向かって帰っていく姿って、すごく素敵なシーン
――「つくし」のアレンジは横山裕章さん。この5年でたくさんの曲を一緒に作ってきた方なので、よりイメージを具現化しやすくなっているのかなと。
にしな:そうですね。やっぱり自分の好みと作品に対する世界観のマッチ度というか、一緒にやってきたぶん、横山さんのにしなに対する解像度が高くなっていて、よりお互いのストレスなくできているのかなと思います。
――「つくし」はストリングスが印象的なバラードですが、最初からそのイメージがあったんですか?
にしな:ありました。アレンジしていただくなかで、どれくらいどっしりさせるのか、キラキラさせるのか、柔らかくするのか、硬くするのかを微調整しながらオーダーさせてもらって、横山さんが当てはめていってくれました。そのバランス感は相談しながらではあるんですけど、ある程度自分のなかにイメージがあったんだと思います。
――「わをん」はストリングスで広げるアイデアもあったけど、最初のデモのチープな感じを残したくて、そうはしなかったという話がありましたよね。今回ストリングスで広げているのは、やはり北海道の雄大な自然のイメージもあったのかなと。
にしな:そうだと思います。言ってること自体は、自分のなかではすごく身近なことで。たとえば、最後のあたりは自分のなかでは帰り道をイメージしていました。でも、視点は自分自身というよりは、すごく俯瞰していて、そこには広さがあるんですよね。「わをん」もどちらかというと俯瞰してるけど、でも視点は自分自身にある。ストリングスの広さは、視点の広さでもあるかもしれない。
――実際に北海道に行って、道を見れたことが大きかったという話もあったように、やっぱりその道のイメージ、帰り道のイメージが曲の背景として大きいんですね。
にしな:大きいかもしれないです。誰かが待っているとか、そこに人がいてもいなくても、愛が待ってる場所に向かって帰っていく姿って、すごく素敵なシーンだなと思って。それは人間以外の動物でもそうだし。そのイメージはありましたね。