サンドリオンの解散を惜しまずにはいられない 佐藤純一(fhána)×鷲崎健が“音楽ユニット”としての稀有な魅力を語る

「音楽好きに何かしたいと思わせるものを持っているユニット」(佐藤)

ーー解散の報に触れたときはどう思いましたか?
鷲崎:僕は20年以上この業界にいて、これまでにも解散にはたくさん触れてきたので、「そうか、そういう選択になったか」と冷静に受け止める部分もありましたけど、やっぱり悲しい気持ちはありましたよね。それでも誰か大人が決めたのではなくて、本人たちが決めたことならいいなあと思って。解散の理由って何か言っていたんでしたっけ?
ーー解散の発表当日に行われたメンバーの生配信では、「前に進むための前向きな決断」といったお話をされていました。
鷲崎:それ、いちばんわからないコメントじゃないですか(笑)。まあみんな前に進むんだろうし、その前の方向が違ったのであれば仕方ないなあっていう感じですね。僕は応援しかできないので。ただ、ラジオとかで会う回数が少なくなるのは寂しいなあ、とは思いましたね。僕は基本、リリースに合わせてのゲスト出演時にしか会えないので。
佐藤:僕は確かInstagramで知ったんですけど、普通に「えーっ!」って声が出ましたね。外から見ている分には順調に感じていたので。日本コロムビアさんからメジャーデビューし、タイアップも順調について、これからアルバムを作って次の流れを考えていくのかな、また楽曲提供できたらいいなあと思っていたので、正直な想いとしては、残念だし、もったいないなあとは思いました。ただ、本人たちが納得して前に進めたらいいなとも思いましたね。
ーー改めて、いろんな声優ユニットが活躍しているなかで、サンドリオンならではの魅力や個性はどんなところにあったと思いますか?
鷲崎:きましたよ、難しい質問が。俺はi☆RisもDIALOGUE+も好きなんですよ(笑)。
佐藤:僕はまず楽曲が良いという印象がありました。(インディーズ時代の)音楽ディレクターだった小早川さんがかなりの音楽マニアだったのもあって、楽曲の作家陣のセレクトがいい感じのところを突いているんですよね。例えばパソコン音楽クラブもそうですし、「LINE LOOP」はthe band apartの木暮(栄一)さんが作曲していて。
鷲崎:ね、びっくりしましたよね。H ZETT Mさんが編曲した楽曲(「S.T.A.R.T」)もありますし。
佐藤:ヒゲドライバーさんの楽曲(「君だけのオリオン」)もすごく良いですし、照井順政さんの楽曲(「FAQ」)も好きなんですよね。ただ楽曲のクオリティが高いというだけでなく、音楽好きな人のツボを突いてきている感じがして。星座をイメージしたアートワークの方向性やブランディングを含め、最初から全体的に好印象でした。メジャーデビューしてからも、それこそ今fhánaを担当していただいている日本コロムビアの穴井(健太郎)さんがディレクターを担当していて。穴井さんもミュージックラバーでスタジオミュージシャンに関してもこだわりや知識のある方なので、その意味では音楽好きに何かしたいと思わせるものを持っているユニットなんだと思います。
鷲崎:僕も後輩の青木佑磨(学園祭学園)くんと「サンドリオンの楽曲いいよね」という話をよくしていて。メンバー全員が真面目でお調子者だからなのか、比較的ポップで重力の軽い曲が多いのが、僕としても好みなんですよ。皆さん声優なので演技的に入り込んで歌うこともできると思うし、そうなると「告白星」なんてすごく重たくなりそうだけど、絶妙に重たくなり過ぎないワークスになっていて。メジャーデビュー以降のシングルもリスナーの気持ちを前向きにさせるような指針を感じさせつつ、でも説教臭くならない軽さがあるので、聴きやすい印象です。

ーー今回のベストアルバム収録曲の中から推し曲を挙げるとすれば?
鷲崎:僕は圧倒的に「無重力ランデヴー」ですね。初めて聴いたときから好きで、勝手に(アコギで)コードを拾って弾いていたんですよ。それで、番組のゲストに来てくれた時にチラッと弾いたら歌ってくれたのがすごく嬉しかったです。『鷲崎健のアコギFUN!クラブ』という番組に汐入さんがゲストで来てくれた時にも「無重力ランデヴー」をやった思い出がありますし(2023年3月17日放送回)、もよちゃんが来た時には「告白星」をやったんですよね(2022年11月18日放送回)。さっきサンドリオンには軽みを感じると言いましたけど、「無重力ランデヴー」はその軽みが宇宙まで行ってしまう感じがいいなと思って、すごく好きですね。
佐藤:僕は「LINE LOOP」ですね。バンドサウンドにキラキラ感が足されている感じが、今までの声優ユニットにはないタイプの曲だなと思った記憶があって。改めて聴くと『ぼっち・ざ・ろっく!』の楽曲にも通じるものを感じますし、その意味では先取りしていたんじゃないかなと思います。あとは「ゼロイチ」も個人的に好きですね。
ーー1stアルバム『märch』に収録されていた、小山さんと汐入さんが2人で歌っている楽曲ですね。
佐藤:マスタリングしているときも、この曲は気持ちいいなとずっと思っていました。音数も多くないですし、歌詞も全体的に主張が強くないんだけど、自然体で聴いている人の心に沁み込んでくる感じ、静かにポジティブなところがいいなと思います。
鷲崎:黒木さんと小峯さんはボーカル的に押し出しが強いけど、小山さんと汐入さんは軽みのある歌声なんですよね。小山さんはミュージカルの経験もあるので歌い方次第だけど。「ゼロイチ」は歌に隙間がちゃんとあって、そこに聴いている側の気持ちを乗せられる感じがしますよね。
佐藤:本当にその通りだと思います。流石のコメントですね。
鷲崎:20年やってきたので(笑)。
佐藤:それと「君だけのオリオン」もエモいし幸福感があっていいですけど、忘れてはならないのはメジャーデビュー曲の「Angel Ladder」ですよね。音の作り方や作曲・編曲が睦月(周平)さんということを含めて、明確にそれまでとは違う穴井さんディレクションらしさを感じましたし、すごく前向きで今後の期待を抱かせる、メジャーという新しいステージの一発目としてすごく良い曲だと思いました。
鷲崎:当時、自分のラジオ番組で「地平線の見える曲」って言った記憶がありますね。「そうか、こっちに踏み込んでいくのか」と思って。
ーー今作には佐藤さんが作編曲した「星のLarme」も収録されています。どんなイメージで制作した楽曲なのでしょうか?
佐藤:実はこの曲、元々は別の歌詞があったんです。ただ、その歌詞が曲には合わないなと思って、(fhánaの楽曲の作詞を担当している)林(英樹)くんに「こういうテーマで書いてもらえますか?」とお願いして今の形になった経緯があって。当時はコロナ禍だったこともあって「困難なこの時代を生きるすべての人々へのエールと祈りを歌った曲」をテーマにしつつ、この楽曲の後にメジャーデビューすることも聞いていたので、彼女たちへの祝福の意味も込めています。なので、歌詞の“眼差し”を注ぐ“君”はファンのことでもあり、メンバーのことでもあり、スタッフや家族や友人のことでもあり、共に進んで行こうというストーリーを暗に示しています。
ーーサンドリオンのメンバーへのエールソングにもなっているわけですね。
佐藤:ただ、当時のコロナ禍という時代で人々にエールを送ろうとしたときに、単純に「明るく元気に頑張ろう!」というのはそぐわないと思ったので、「星のLarme」については、静かな、祈りのような、けれども強く真っ直ぐに前を向くような、美しい涙のようなエールソングを目指しました。なので歌詞の最後は“もう怖くはないんだよ 乗り越えられる”で締めているんですよね。fhánaの「愛のシュプリーム!」も表面的にはあれだけ明るく華やかですが、決して単純に陽気なだけの楽曲ではなくて。そういった背景やどんな想いで作った楽曲なのかをテキストにまとめてメンバーにも共有してもらったうえで、歌ってもらったのが「星のLarme」になります。
鷲崎:そこまで細かく伝えるんですね。すごい。でも、送られた側はプレッシャーを感じそう(笑)。
ーー「星のLarme」は、2022年10月8日に開催されたサンドリオンのライブ『サンドリオン CheerfulLIVE~エール!エール!!エール!!!~』で初披露されて、佐藤さんもゲスト出演してピアノを弾いたらしいですね。
鷲崎:そのライブは僕も現地で観たんですけど、すごく良かったのは後ろのビジョンにちゃんと歌詞が出ていたこと。1点悪かったのは、キーボードを弾いている佐藤さんの顔に、その歌詞が被っていたことです(笑)。
佐藤:その時のライブ映像を使った「星のLarme」のMVがあるんですけど、それを観たら自分でも「歌詞が顔に被ってるなあ」と思いました(笑)。
鷲崎:でも素敵でしたね。サンドリオンは話の内容が真面目になりそうになったらすぐ逃げるんですよね。しかも全員がコントプレーヤーなんだけど、ボケっぱなしで誰も笑わないから、面白いんだか面白くないんだかよくわからないっていう(笑)。ステージでもそんな感じなので、歌でメッセージを表現するのは照れてしまうのが自分たちでもわかっているからこそ、こういう真面目な楽曲を歌う時のグッと入り込む感じがあって。その時の表情がいいんですよね。


















