BUMP OF CHICKEN、5年ぶりに東京ドームのステージへ 一貫して鳴らし続けた“君”への想いが結実した日
12月7日、8日の2日間にわたって、BUMP OF CHICKENの東京ドーム公演が開催された。この公演は、全国10会場を巡る全国ツアー『BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous』のツアーファイナルにあたるもので、彼らが東京ドームの舞台に立ったのは、2019年以来約5年ぶりとなった。この記事では、同ツアーが万感の終幕を迎えた8日公演の模様をレポートする。
はじめに結論から書いてしまえば、9月にリリースされた最新アルバム『Iris』の楽曲、歴代のライブアンセム、キャリア初期の楽曲、それら全てが、一貫した揺るぎない"君"への想いのもとに紡がれていく奇跡のような約2時間半だったように思う。順を追って振り返っていく。
開演時間を過ぎると、会場が暗転。清廉なピアノの音に合わせて、〈メーデー メーデー メーデー〉というアナウンス音が鳴り響く。そして、藤原基央(Vo/Gt)がギターを高く掲げた瞬間、一人ひとりが手首に装着したPIXMOBが一斉に青く輝く。そのまま、1曲目の「Sleep Walking Orchestra」へ。勇壮な歌のメロディに呼応するように、観客が拳を高く突き上げ、2番サビの後には、一人ひとりのPIXMOBがそれぞれの色に煌めき、ドーム一面がカラフルに染まっていく。「こんばんは、BUMP OF CHICKENです」という藤原の力強い挨拶を経て始まったのは、「アンサー」だ。同曲のイントロでは、ステージを囲う円型のオブジェが角度を付けながらゆっくりと上昇。ラストサビ前では、藤原が「届いてるか!」と力強く問いかけ、会場全体から並々ならぬ歓声が上がった。続く「なないろ」では、一人ひとりの光によって会場全体が七色に彩られていく。その美しい光景は、コロナ禍以降の数々のライブにおいても観ることができたものではあるが、やはり東京ドームの規模で実現するのを目の当たりにすると、かつてないほど深い感慨が押し寄せてくる。
直井由文(Ba)、増川弘明(Gt)が、胸の内に昂る歓びの感情や、この日のライブが着実に終わりに向かっていることの切なさを、ありのままの言葉で伝えたMCパートを経て、今回のツアーで久々にセットリスト入りした「pinkie」へ。この曲の中で、また、この日披露された他の多くの楽曲の中でも歌われているように、私たちは、自分とは異なる人生を生きる他者の昨日を知ることはできないし、明日を共に過ごすこともできない。このライブが終われば、誰もがそれぞれの人生を一人で生きていかなければならない。だからこそ、同じ時間・空間を共にできる今この瞬間が、果てしない輝きを放つ。
続けて披露されたのは、「記念撮影」。〈君は知っていた 僕も気付いていた 終わる魔法の中にいた事〉という歌詞は、ツアーファイナルを迎えたこの日だからこそ、より切実な響きを放っていたように思う。観客は、かけがえのない一瞬一瞬を余すことなく謳歌するかのように、それぞれの色に光輝くPIXMOBを装着した手を高く掲げ、大きく振り、今ここにいることをステージの4人に懸命に伝えていく。熱く、温かなライブコミュニケーションが重ねられていく中、続いてのナンバーは「邂逅」。藤原は、両手で深くマイクを握りしめながら、〈そばにいて〉〈消えないで〉〈ここにいる事を確かめて〉と切実な想いを歌い上げ、そして最後には、〈必ずもう一度逢える〉という揺るぎない確信を観客と共有していく。まだ前半にもかかわらず、まるでクライマックスのようなドラマチックな展開だ。
藤原は、一曲披露するたびにライブが終わりに向かっていくことについて、「すげえ寂しいね」と胸の内の想いを告げ、「こういう気持ちを全部、音に込めて、君に届けたいと思います」「ちゃんと受け止めてくれ、よろしく」と力強く語った。永遠なんてない。始まりがあれば、必ず終わりが来る。その真理は、これから披露されていく各楽曲の中でも一貫して歌われ続けていくことになる。
次に披露された「strawberry」は、まさにその真髄のような楽曲。2番のサビ後、藤原は、「千葉県佐倉市から、長い旅をして、今夜、君に会いにきたバンドBUMP OF CHICKENです!」と叫び、大歓声が巻き起こる中、ラストのサビへ。曲が終わった後も客席から「ありがとう」の声が鳴り止まぬ中、会場が暗転、そして、20年前にリリースされた「太陽」へ。燦々とした輝きを放つ太陽がゆっくりと上昇していく中で歌われるのは、孤独の象徴である〈窓のない部屋〉の中の心象風景だ。しかし最後には、〈窓のない部屋〉を出て、外の世界へと一歩踏み出す決意が歌われる。次の瞬間、メインステージの中央から伸びた花道がスポットライトで照らし出され、メンバーがその上を歩きセンターステージへと向かう。そして、より観客と近い距離で全方位囲まれながら「メーデー」を披露。深い心の底で、たった一人で助けを求める"君"のために鳴らされる救済のロックアンセムを受け、観客はめいっぱい拳を突き上げ、声を重ね、4人の想いに懸命に応答していく。
今回のツアーにおける特に大きなサプライズの一つとなったのが「レム」だろう。同曲の中盤以降に狂おしく昂るバンドアレンジが施されたのだ。それを経て最後に藤原が囁き声で歌った〈心から話してみたい〉という言葉が印象深く残る。各曲を通して紡がれる、他者との対話を希求する物語に、何度も、否応もなく激しく心を震わせられた。
直井によるメンバー紹介の後、升秀夫(Dr)の「最後まで楽しみましょーう!」という呼びかけを経て届けられたのは「SOUVENIR」だ。藤原は、何度もマイクを全方位の観客に託し、その度に観客は全身全霊の歌声を重ねていく。なんて熱烈なライブコミュニケーションなのだろう。そして、神秘的なSEが響く中、メンバーが花道を辿りメインステージへと戻っていく。「出会えたことを確かめる、僕と君の歌だ、準備はいいか、いくぞ!」藤原の高らかな呼びかけを経て、「アカシア」へ。2番Aメロでは、「君と照らす世界にいたい」と、Cメロでは、「その輝きも 君に会えたから見える」と歌詞を替えて歌い、また、一番最後に「そうやって出会えたんだよ」という言葉を付け加えて届ける。その後の「Gravity」でも昨年のツアー『be there』の時と同じように、〈今君がここにいる事を 僕は忘れないから〉の「ここ」を「そこ」に替えて歌い、曲が終わって無音になった後も、藤原はコール&レスポンスを指揮して観客から歌声を求め続けていく。
藤原の「ありがとう」と観客の「ありがとう」が飛び交う中で丁寧に送り届けられた「木漏れ日と一緒に」を経て、いよいよライブはクライマックスへ突入。イントロで勢いよくミラーテープが放出された「ray」で、藤原は「さぁ、君の声で聴かせてくれ!」「せーの!」と呼びかけ、観客が〈生きるのは最高だ〉と渾身の歌声で応えてみせた。東京ドームという壮大な空間に鳴り響く大合唱。その輝かしい余韻が、曲が終わった後もいつまでも胸に残り続けた。
その後のMCで藤原は、「〈生きるのは最高だ〉って、声で、あるいは心の中で、君は言えたかい?」と問いかけた。「簡単なもんじゃないよ」と前置きしつつ、「今夜、音楽を真ん中にして、俺たちは待ち合わせをして、その待ち合わせが成功して、こんなに素敵な夜を、素敵な時間を一緒に過ごして、今、生まれてきてよかった、生きるの最高って思ったって、いいじゃないか」と語った。いつまでも鳴り止まない拍手。いよいよ最後の曲へ。