chilldspot、自らの世界に染め上げていく表現力 独創的なサウンドスケープを轟かせた『crowdsurf』ツアーファイナル

 今年9月に5曲入りのEP『echowaves』をリリースした4人組バンド・chilldspotが、ワンマンツアー『chilldspot 4th one man live tour "crowdsurf"』を開催。そのファイナル公演を12月2日、東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)にて行った。現在活動休止中のジャスティン(Dr)に代わり、本ツアーはサポートメンバーに嶋英治を迎えた4人編成で、『echowaves』を主軸としつつ過去の代表曲を披露した。

 定刻となり、客電が落ちると会場から拍手が鳴り響く。これから始まるchilldspotのステージがどんな内容なのか、固唾を呑んで見守るかのような、厳かな緊張感がフロアに充満している。

 アンビエントかつアブストラクトなシンセサウンドが流れる中、比喩根(Vo/Gt)、玲山(Gt)、小﨑(Ba)が嶋と共にステージに現れ、おもむろにセッティングを済ませると、インプロビゼーションをしばし展開。満を持して嶋のカウントに導かれ、歪んだギターによるリフが奏でられる。2ndアルバム『ポートレイト』(2023年)の冒頭を飾るchilldspotの楽曲、「crush」がこの日の幕開けだ。抑揚を抑えたシンプルかつミニマルなアンサンブルの上を、比喩根のアンニュイなアルトボイスがたゆたう一方、ギターのペグを回しサウンドを変調させる玲山のソロが唸りを上げる。ライブ開始から5分もしないうちに、Zepp Shinjukuをchilldspotワールドへと染め上げていく彼らの表現力とカリスマ性に、ただただ圧倒されるばかりだ。

chilldspotライブ写真(撮影=Kana tarumi)
比喩根
chilldspotライブ写真(撮影=Kana tarumi)
玲山
chilldspotライブ写真(撮影=Kana tarumi)
小﨑

 間髪入れずに演奏されたのは、『echowaves』から「sway」。比喩根の気だるくジャジーなボーカルに絡みつくような小﨑のベースラインが耳を惹く。サビではこれまで抑えていた感情を解き放つような、比喩根によるロングトーンのファルセットが張り詰めていた会場の空気をビリビリと切り裂いていく。すると、フロアを埋め尽くすオーディエンスもようやく緊張感から抜け出し、堰を切ったような割れんばかりの歓声でそれに応えた。

 続く「Monster」は、1stアルバム『ingredients』(2021年)収録曲。シンコペーションを聴かせたグルーヴィーなリズムがどこかラテンミュージックからの影響をも感じさせる。ドスの効いた地声と突き抜けるようなファルセットを巧みに使い分け、〈立場や威厳の前に1人の人として聞くわ〉〈あなたは誰なの〉と、自身の実体験から綴った痛烈な歌詞を歌う比喩根。鮮烈な赤と緑の照明がよりこの楽曲のテーマを印象づけた。

chilldspotライブ写真(撮影=Kana tarumi)

 「みなさん改めましてこんばんは、chilldspotです。EP『echowaves』を引っ提げての今回のツアーは、メンバーのやりたいことや好きなことが詰まった内容となっているので、そこを感じてもらえたらと思います。……人が多いね! 今日は最後までよろしくお願いします」と比喩根が笑顔で挨拶すると、会場は温かい拍手と歓声に包まれた。

 赤いギターをかき鳴らしながら、比喩根が細かいビブラートを効かせるメロウチューン「ネオンを消して」を経てライブ中盤で披露した「いのそこ」は、個人的にこの日のハイライト。混乱した心の内側を、タイトル通り「胃の底」から引きずり出したような赤裸々な歌詞と、Hiatus Kaiyoteやtoe、Elephant Gymなどにインスパイアされた玲山によるカオスかつプログレッシブなアレンジが融合し、卓越した4人の演奏力がこの独創的なサウンドスケープを破綻スレスレの絶妙なバランスで成り立たせている。ストロボが激しく点滅する中、ヘッドバンキングを繰り返し〈自分に当たりながら自分をゆっくりと/噛んで戻して食べて吐いて/心を待って、待って、待って、飲み込んで/受け入れてく〉と振り絞るように歌う比喩根の姿は圧巻だった。

 玲山いわく、グランジやシューゲイザー的な要素を取り入れつつポップスもリファレンスにした「傍白」、静と動を行き来し大きな広がりを感じられる「僕たちは息をして」を続けざまに披露し、比喩根によるアコギの弾き語りで「hold me」。彼らの生み出す楽曲の豊かさを、この研ぎ澄まされたアンサンブルによって改めて思い知らされる。

chilldspotライブ写真(撮影=Kana tarumi)

 マイナーとメジャーを行き来するドラマティックな「落下飛行」からの「have a nice day!」では、小﨑がシンセベースを演奏し、比喩根はステージの縁に腰掛け歌う変則的なフォーメーションに。そこからダンスチューン「full count」に繋げ、「お待たせしました、ギター玲山!」と比喩根が叫ぶとオーディエンスはハンズアップでそれに応え、再びライブはハイライトを迎えた。

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