a flood of circleは成長を拒否して破壊を叫ぶ 佐々木亮介、“半端者のロックンロール”で突っ走る理由
「11」では無意識にばら撒いていた伏線が“噛み合った”
ーー振り切れることに憧れていないという話も出ましたけど、数曲しかa flood of circleの曲を知らない人には、いまだに硬派で振り切れたロックンロールバンドだと思われている気がします。そこはご本人としてはどう感じているんですか。
佐々木:若い人から「怖いと思っていました」ってよく言われますからね(笑)。さっきカメラマンにも「佐々木くんはどれぐらいのポップさなの?」と聞かれて、言葉でどうやって言えばいいのか難しかったんですけど、怖い人なのか、ふざけたポーズもするのか、外からではわからないんだろうなって。俺って何かわかってもらおうとすると、時間がかかるんですよ。やっぱり3分だけのラジオは合っていなくて、1時間のインタビューとかPodcastが合っている気がするんですよね。ロックは3分で勝負しなきゃいけないから、その3分の説得力が弱いだけなのかもしれないけど(苦笑)。でも、2年後の結成20周年で武道館をやろうとしている話をこの間の野音(日比谷公園大音楽堂)で言いまくってたら、みんな応援しなきゃっていう空気がちょっとずつ出てきて、それで野音を乗り切れたので。しっかり研ぎすませて、「武道館やらせてくれよ」と思っていますね。
ーーまさにその通りで、a flood of circleは知れば知るほど応援したくなっちゃうバンドなんですよ。かっこいいロックンロールの中に流れる佐々木さんのチャームポイントをキャッチした瞬間、「武道館に行ってほしい」と素直に思ってしまう稀有なバンドだなと。少なくとも野音に集まった人たちには、それが伝わっていたんじゃないかと思います。
佐々木:そうですね。だから感謝しているし、そういうものの見方を信頼しています。眠っているチャームポイントがあったとして、世間から見たらただの石なのに、俺らのお客さんから見たらちょっと丸くて可愛いものに見えてるのかなって。「レベルの高い俺たちをよくぞ見つけた!」っていうことじゃなくて、「こんなに絶妙なものを愛でる才能があるって、なんて優しい人たちなんだろう」と思いますね。
ーー「ファスター」でも〈君はとってもセンスが良いだけさ〉と歌われています。
佐々木:ちょっと上からっぽい言い方だけど、そういうことですね。
ーー今回のアルバムって、その「ファスター」以降の終盤、聴き手を抱きしめるような懐の深い展開になっている気がしていて。〈ちゃんと泣いていいよここで/ウソも本当もすべて 抱きしめてやる〉(「ベイビーブルーの星を探して」)、〈俺たちが歌うから 今夜 ひとりじゃない〉(「屋根の上のハレルヤ」)といった歌詞が象徴的ですし、演奏もすごく開けていると思います。聴き手のやるせなさや孤独をバンドに委ねていいんだよっていう気概を感じたんですけど、どうですか。
佐々木:それはあるかもしれないですね。でも優しさで歌っているんじゃなくて、俺自身も困ってるから、「俺が言われたいんだよな」ということを歌ってる時があって。そもそも純粋に誰かを勇気づけられるほど大したヤツじゃないですから。ただの俺よりも、“音楽をやっている俺”とか音楽そのものって偉いから、歌詞がちょっと上から目線になるんですけど、だからこそ音楽が助けてくれる感じがするんです。
ーー〈お前を抱きしめる スピードの中へ〉(「ファスター」)もそうですか?
佐々木:そう。音楽に抱きしめられたいんですよ。バンドのライブとか観ていても、マジつまらないなって思うことが多いから。好きなバンドは芸能人を見ているような感覚で見られるけど、音楽でドキドキする瞬間が本当に少ない。自分の感性が死んでるのか、起きてることがつまらないのか、まだわからないんですけど、だからこそもっともっとスピードが欲しい。巻き込まれたいし、ロックに抱きしめられたい。それが祈りのように入っていますね。
ーーでも、それがメンバーや聴き手を代弁しているように聴こえるのが今作のマジックだなと思いました。昨年の佐々木さんのソロアルバム『HARIBO IS MY GOD』って「いかに自分がハリボテであるか」に向き合った作品だったじゃないですか。それに対してアオキさんが「11」で〈ハリボテじゃねぇ〉と語りかけているように聴こえて。
佐々木:おぉ、エモ(笑)。それ初めて言われました!
ーーここ2年くらいのストーリーを、最後の曲で回収した気がして。最高の終わり方だなと思いました。
佐々木:そうかもしれない。今、初めて噛み合った気がしました。この間BIGMAMAと対バンした時、金井(政人)くんと話していて、「ここまでいろいろ風呂敷を広げてきたけど、正直まとめの段階に入っているかも」みたいに言っていたのがしっくりきて。俺らも伏線とは思っていなかったけどいろいろばら撒いていた何かが武道館に向かって動いていって、最後の部分をテツがやってくれたのかもって思いました。
自分にしかできないことを重ねた先で「“ロックに触れる”ぐらいはできそう」
ーー先ほど、ロック大喜利の究極の回答はカート・コバーンという話がありましたけど、日本におけるロックンロール大喜利の究極の回答にはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYが入ってくると思うんです。a flood of circleもどう足掻いてもそこと比較されることって避けられなかったと思うんですけど、率直にどう思っていたんですか。
佐々木:もちろん彼らの存在はすごく大きいですよ。デビュー初期とか、まんまミッシェルみたいな曲も何曲かあるし(笑)、その方が飯食えるのかなと思ってやっていました。革ジャン着てグレッチを持って……何かに寄せないと不安だったんでしょうね。ちゃんとミッシェルとかブランキーを聴いたのもその頃が初めてで。最初から比べられていたけど、大して彼らの音楽を知らなかったんですよ。岡ちゃん(初代ギタリストの岡庭匡志)がめちゃくちゃブルースロックとかが好きで、そういうのを見ているとなんかかっこいいじゃないですか。「俺も聴かなきゃ」みたいな感じで入ったと思います。
でも、(The Birthdayや浅井健一のバンドとは)対バンもしているけど、その隣に俺らを置いてもらえるとは思っていなくて……ミッシェルとかブランキーを好きな人なら、a flood of circleは絶対聴かないだろうなと思うし。俺より年上の人だったら特に。俺より若い人のことは騙せると思うんですけどね。これはロックンロールだって。
ーー〈ロックのゴッコ遊び〉(「11」)とも歌われていますよね。その感覚をずっと持ちながらやっている?
佐々木:そうですね。そこで少しでもいいから自分たちしかやっていないことを重ねられた時に、初めてごっこじゃないロックになっていくんじゃないかって気がするので。ロックというものに触れるぐらいはできそう、みたいな。それは(草野)マサムネさんも言っていたんですけどね。自分たちのロックしかできないし、それをロックと言わないとやってられないって。それはわかるなと。
ーーその“触れようとしている感じ”ってa flood of circleらしいですよね。アルバム終盤、「キャンドルソング」から「11」までの4曲の歌詞には、全部〈星〉が出てきますけどーー。
佐々木:え!?
ーー〈白い溜息のせいにして 星を見てた〉(「キャンドルソング」)、「ベイビーブルーの星を探して」、〈じゃあなんで俺たちはまだ 星に手を伸ばすの?〉(「屋根の上のハレルヤ」)、そしてデヴィッド・ボウイがモチーフの「11」では〈Star〉が頻出します。
佐々木:本当だ(笑)。
ーーこれらの曲で見上げているもの、手を伸ばしているものこそ、まさにロックンロールなんじゃないかと思いました。
佐々木:あぁ……確かにそうかも。頭がお花畑にならなきゃ考えないようなことーージョン・レノンが言うような愛とか平和とか、ロックとか、そういうことを真剣に考えるってことなんじゃないの? というのは思っていますね。いろんなもののメタファーというか、〈星〉でも〈虫〉でも〈野うさぎ〉でも、キーワードになっているもの全てに、自分の中の理想的な何かが集約されて入っている感じがします。哲学者みたいに体系化して「これが自分の理想の世界です」というものに向かっているわけではなく、もっとぼんやりしている、穴だらけの理屈ではあるんですけど。
ーーそういう大きなものと向き合い切れてないんじゃないかっていう投げかけにも思えますね。
佐々木:自分がそうですからね。まだ向き合い切れていない。だから「もっと行こう」っていうことです。
◾️リリース情報
a flood of circle
NEW ALBUM『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』
2024年11月6日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)TECI-1829:¥5,500(税込)
通常盤(CD)TECI-1830:¥3,300(税込)
配信:https://afoc.lnk.to/wild_bunny_blues
<収録曲>
01 WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース
02 虫けらの詩
03 ゴールド・ディガーズ
04 ひとさらい
05 Eine Kleine Nachtmusik
06 D E K O T O R A
07 ファスター
08 キャンドルソング
09 ベイビーブルーの星を探して
10 屋根の上のハレルヤ
11 11
<初回限定盤DVD収録内容>
1. 虫けらの詩 Music Video
2. a flood of circle A ROCKBAND NONFICTION ONE WAY BLUE