『RIKI 8Bit GAME Collection』発売記念鼎談 RIKI×hally×ヒゲドライバーが語る、“8bit”音楽の歴史と普遍性

 イラストレーター・漫画家のRIKIが手掛けたタイトルが収録された、Nintendo Switch用ソフト『RIKI 8Bit GAME Collection』が11月28日にリリースされる。店舗や音楽アルバムのプロデュースも手掛ける同氏は、以前から8bitゲームへの憧憬を表明してきた。ポカリスエットが2024年夏に放映していたテレビCM「潜在能力は君の中。」にも関わっており、作中に登場する8bitオブジェクトのデザインを担当している。

 本作『RIKI 8Bit GAME Collection』は、ファミリーコンピュータの仕様に則して作られた横スクロールアクションゲーム『キラキラスターナイト』(2013年8月リリース)に端を発し、後続の4タイトル『アストロ忍者マンDX』、『8BIT MUSIC POWER』、『8BIT MUSIC POWER FINAL』、『8BIT MUSIC POWER ENCORE』をひとつにパッケージした作品である。ゲームは往々にしてユーザーがキャラクターを操作してストーリーを進める娯楽だが、この一連の作品はもっと“射程が長い”プロジェクトである。音楽作品として楽しめることに加えて、アーティスト側のクリエイティビティを引き出した革命的なゲームだ。

 今回の鼎談企画では、発起人となったRIKIと、音楽プロデューサーとしても知られるゲーム音楽史/ゲーム史研究家の田中"hally"治久、“ピコピコ系ミュージシャン”を自称しながら様々なアニメやアーティストに楽曲を提供するヒゲドライバーが、本作の可能性について語り合った。(Yuki Kawasaki)

はじまりは『キラキラスターナイト』から

――『キラキラスターナイト』のリリースが10年以上前なので、このプロジェクトの全体像が見えるまで相応の時間が経過しております。まずは本作の着想段階からリリースの経緯をお伺いしたいです。

RIKI:漫画家としてある程度実績を積んできた時に、“違うことをやってみよう”と思ったのがそもそもの始まりですね。バーの店舗プロデュースをしたんですが、そこでRIKI名義の漫画や関わった音楽CDをたくさん展示していました。壁に月替わりで自分の原稿を貼ってみたり、好きなものを並べていましたね。その時にファミコンやブラウン管を置いていたのですが、お客さんに店内でゲームを遊ばせてしまうと当時の風営法に引っかかってしまう。ただ、自分で作ったゲームであればOKということだったので、なら作りましょうと。店内で流しておけるデモソフトを作ろうとしたことから、『キラキラスターナイト』が始まっています。当初は多段スクロール的な表現もなく、ただジャンプするだけのゲームでした。

RIKI

――ゲームが先だったんですね。

RIKI:そうなんです。そこで、音楽をつけたいと思って最初にコンタクトを試みたのがhally(田中"hally"治久)さんでした。この方の広い交友関係のおかげで、ここまで育ったんですよね。今作で素晴らしいクリエイターの方々を最終的に36人も呼べたのは本当にありがたいことです。

――ヒゲドライバーさんもhallyさんのご紹介だったんですか?

ヒゲドライバー:僕はどうでしたっけ?

RIKI:hallyさんがきっかけで、チップチューンを主軸に活動しているアーティストのライブを頻繁に観に行くようになりまして。ヒゲドライバーさんはその中のひとりで、何回かライブに足を運んだ後に会場で僕が直接声をかけました。ヒゲドライバーさんの音楽ってキラキラしてるんですよね。もう「この人にやってもらうしかない!」って思って、お話しする前日にネットで詳しく調べたんです。そうしたらアニメの曲とかを手掛けてらっしゃることがわかり、そんな人に直接お声掛けしてよいのものか急に迷いだして(笑)。でも意を決してお話ししたら、「面白そう!」みたいな感じでおっしゃってくれて……。

ヒゲドライバー

――hallyさんにRIKIさんがお話を持ち掛けた段階では、どの程度構想は出来上がっていたんでしょうか?

田中"hally"治久(以下、hally):骨格的にはもうほとんど完成してましたよね。かなりプレイアブルになっていて、あとは音楽を入れるだけっていう。

RIKI:多分、僕その頃から無茶ぶりばっかりしてますよね。今でこそhallyさんは文筆家としてのイメージも強くありますけど、出会った12年ぐらい前はバリバリ音楽家として活躍されていたんです。しかも僕が本当に好きなアーティストでもあるので、どうしてもコンポーザーとして『キラキラスターナイト』に参加してほしかったんです。ただ、当時のhallyさんは忙しすぎた(笑)。

hally:最初のバージョンを作っていた2013年頃はそうですね。ジングルぐらいしか作れなかった。

RIKI:そのあとに『キラキラスターナイト』の主題歌を作れる機会が訪れたので、そのタイミングで「頼む! hallyさんしかいないんだ!」ぐらいの勢いでお願いしたんです。そうしたら最高の曲が上がってきた。それは『RIKI 8Bit GAME Collection』にも収録されているので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

田中"hally"治久

ゲーム音楽界の“アベンジャーズ”が集結

『RIKI 8Bit GAME Collection』プロモーション映像

――改めて参加されているラインナップを見ると本当に豪華ですよね。しかも出自が様々。ゲーム音楽界のレジェンドである古代祐三さんなどが名を連ねる一方で、ヒゲドライバーさんのようなポップスから引っ張りだこのプロデューサーや、クラブカルチャー界隈からTORIENAさんやOmodaka(寺田創一)さんが楽曲を提供されています。

ヒゲドライバー:確かにこのメンバーを揃えるってなかなか難しいというか、RIKIさんあってこそこのラインナップという気がします。

RIKI:このメンバーにいろいろ注文していたんですから、恐ろしい話ですよね。ちょっと速いヤツでお願いしますとか、失礼ながらオーダーした部分もあります。情熱だけはあったので、時間をかけてここまでのラインナップになりました。TORIENAさんは初めて会った時はまだ大学生だったんじゃないかな。ゲームボーイでギュンギュンな音を作っていて、いつか絶対お願いしたいと思ってましたから。

hally:TORIENAさんはこのシリーズの企画段階から「絶対に呼んだ方がいい」って僕も言っていたんです。

RIKI:TORIENAさんには2017年の4月にリリースした『8BIT MUSIC POWER FINAL』の時に参加していただいたんですけど、“ファイナル”って名前を付けた通りこのタイミングでプロジェクトを終えるつもりだったんです。『キラキラスターナイト』、『8BIT MUSIC POWER』(2016年1月)、『キラキラスターナイトDX』(2016年10月)ときて、たくさんのアーティストに集まっていただいたんですが、個人開発なので大変だったんですよ(笑)。で、この時にhallyさんから「8bitミュージックはこのままだと年老いて死ぬ! 若い層にアピールしていかないと、若返らせましょう!」みたいなことを言われて、それを今もずっと覚えてます。そういった面でもTORIENAさんは不可欠でしたね。 

hally:その流れでヒゲドライバーさんのお名前も出してましたね。

ヒゲドライバー:そう考えると、『8BIT MUSIC POWER』から『8BIT MUSIC POWER FINAL』に移行する段階でより参加アーティストの幅が広がってますね。

RIKI:『8BIT MUSIC POWER FINAL』にはZUN(『東方Project』で知られる上海アリス幻樂団の主宰)さんも参加してくれてますもんね。『キラキラスターナイト』を発表した時にいろんなメディアが取り上げてくれたおかげで、ZUNさんとはニコニコ動画の生放送でお会いすることができました。実は東方アレンジ音楽アルバムを4枚作成したこともあるくらいのファンなんですよ。個人開発クリエイターの神様になった人ですし、直接話ができる機会は二度とないのはわかりきっていたので、思い切って誘ってみたんです。そしたら興味を持ってもらって、参加してくれて。

――8bitに対するピュアな情熱というか、打算のなさは私も感じました。レトロに根差して特定の層にリーチするなら、そもそも本作のアートワークは別のものになっている気がするんですよね。

hally:それはその通りだと思います。RIKIさんの考えの中に“レトロ”っていう概念はあまりないですよね。自分が作りたいものを作るっていうのが最優先で、そこに何かノスタルジーに訴えようみたいな気持ちっていうのは、僕もあんまり感じたことがない。

ヒゲドライバー:確かに。ノスタルジー感はないかもしれないですね。

RIKI:今作にも参加してくれているSaitoneさんとか、ノスタルジーという感じではないですもんね。それこそhallyさんも楽曲提供していたコンピレーションアルバム『Holy 8bit Night +』とか、本当はあの作品にクレジットされているアーティスト全員に声をかけたかったですから。皆さんそれぞれ尖った部分がとても魅力的です。

hally、ヒゲドライバー手掛けた楽曲のこだわりと面白さ

――hallyさんが今作で提供された「Red-White Planet」はSquarepusherの「My Red Hot Car」のテンションを感じて、個人的にすごく興奮しました。Warp Records(イギリスのレコードレーベル)やその周辺がヒントですか?

hally:それはまたすごいところを見出してくれますね(笑)。彼の音楽は大好きですが、この曲の直接的なリファレンスにはなっていないです。作った当初によく聴いていたのはUnderground Resistanceなんかのデトロイト・テクノでした。自分の中でテクノは骨格としてすごく大きくて、それが何かしらの形で出てくるんですね。その発展形の上にSquarepusherがいると考えると、そう遠くないかもしれません。まぁ、彼の音楽はやりたいと思ってもできないですよね(笑)。

――ヒゲドライバーさんが手掛けた「Kara Kasa」も実験的に聞こえました。リズムがブレイクビーツやヒップホップっぽいんですけど、ウワモノはシティポップ的というか。

ヒゲドライバー:ジャンルについてはあまり考えていませんでしたね。この曲を作ったのは2017年ぐらいなんですが、その頃聴いていた曲に引っ張られているのかもしれません。ちなみに「MONKEY MONKEY」はさらに前です。

――「MONKEY MONKEY」はスーパーキラーチューンですよね。

ヒゲドライバー:ありがとうございます(笑)。この曲はなかなか難しかったのを覚えてますね。僕は自分で「チップチューンをやってる」ってあまり言わないようにしていて、対外的には「ピコピコ音楽やってます」と説明してるんです。というのも、自分は今までパソコンで曲を作ってきたから。チップチューンって文字通り「チップ(実機)」で鳴らすわけですよね。満を持して今回は実機にチャレンジしたわけですが、その難しさが身に沁みました。

hally:上がってきたものにダメ出しなどはありましたか?

ヒゲドライバー:いや、基本的になかったですね。ただ、この曲のマスタリングしてくれたのがMMLHACKのハイデン(稗田裕基)さんだったんですけど、かなり苦労をかけてしまったとは思ってます。

RIKI:「音符が多い!」とは言ってました(笑)。

ヒゲドライバー:申し訳ない(笑)。やっぱりパソコンで作ってると、どうしてもいろんな音色を簡単に足せるから、そうしがちなんですよね。PC上ではエフェクトも自由自在にかけられますが、実機だとそれがなくなってソリッドな世界になるので、少し物足りなさというか隙間感みたいなものがどうしても出てきちゃって。そこを埋めるのって、ずっと実機を使ってる人の感覚がないと難しいんだろうなと感じました。ゲーム音楽をやられている方々は、リバーブ感やディレイ感を音符を使って、打ち込んで作ってたりするんですよね。パソコンだとそういうエフェクトは簡単にできちゃうから、テクニックをあまり学んでこなかったんです。ゲームミュージックのコンポーザーはそういう細かいところの余韻だったり、隙間を埋めるちょっとした音符の使い方が本当に上手い。

hally:『キラキラスターナイト』の初期メンバーはファミコン実機の達人ばかりなんです。彼らに共通してるのは、“60分の1秒を無駄にしない”ってことなんですよ。60分の1秒でも隙間があったら必ず何か有効活用する。みんなそれぞれ忙しくなっちゃいましたけど、いまだに実機を使って素晴らしい曲を作っています。

RIKI:本当に大変だったと思います。ここまで来るのに10年以上かかってしまいましたが、この5作品はそれぞれこの時にしか完成させられなかった気がしますね。『8BIT MUSIC POWER』が音楽アルバムとしてリリースされた時、販売初週がオリコンランキングで10位付近までいったらしいんですよ。もう少しで地上波に乗るところだった。

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