USチャートに息づくサウスヒップホップの熱気 デンゼル・カリーやミーガンらが深めるスキルと探究心

チャートに息づくサウスヒップホップの熱気

 今年2月に発表された『第66回グラミー賞』で最優秀ラップ・アルバムを受賞したのは、アトランタの重鎮 キラー・マイクによる約11年ぶりのソロアルバム『MICHAEL』だった。過去にはOutKastなどの受賞もあったとはいえ、サウスヒップホップのカラーをふんだんに詰め込んだ本作が、ストレートにメインステージで評価されたことは喜ばしいことでもあるだろう。キラー・マイクは今年の8月、『MICHAEL』のセルフリブートとも言えるようなアルバム『Michael & The Mighty Midnight Revival, Songs For Sinners & Saints』をリリース。ゴスペルの要素が塗されるサウスヒップホップの濃度を、より暗く、さらに強めた作品だった。

Killer Mike - DOWN BY LAW ft. CeeLo Green [Music Video]
Killer Mike - RUN ft. Dave Chappelle & Young Thug (Official Music Video) ft. Young Thug

 アトランタのトラップをはじめ、ヒューストンのスクリューやマイアミベース、クランクなど、多くのサブジャンルの発端であるサウスのヒップホップは、メインストリームにおいても力強く根づいている。最新の米ビルボード・アルバム・チャート(11月23日付/※1)の上位に目を向けてみても、ミーガン・ザ・スタリオンやGloRilla、BigXthaPlugなど、キラー・マイクと同じく、サウスラップの色を濃厚に刻んだ作品のヒットが目立つ。

 複数のサブジャンル発祥の地として、多くの文脈やカルチャーを携えるサウスエリアはヒップホップのコアなファンにとっては当然のように語るに外せない土地であり、上述した通り、街によって特色の異なるサウンドが枝葉のように広がっている。そんな中、昨今といえば、OutKastのアンドレ3000がヒップホップから離れた(彼が久々にラップをしたのは上述したキラー・マイク『MICHAEL』の収録曲「SCIENTISTS & ENGINEERS Feat. Future, Eryn Allen Kane」だった)ジャズアルバム『New Blue Sun』(2023年)を発表したり、2010年代トラップシーンの重要人物 リッチ・ホーミー・クワンが若くしてこの世を去ったりと、かつてのサウスヒップホップに思いを馳せてしまうような場面も多かった。

Killer Mike - Scientists & Engineers ft. Future, Andre 3000, Eryn Allen Kane [Audio]

 ただ一方、現在進行形で若い世代が、それぞれの文脈でサウスヒップホップのカルチャーに愛を込めている姿を見逃す手はない。その上、それぞれの作品が、サウスヒップホップの味を薄めてメインストリームの皿に乗るのではなく、味は濃いままに、よりコアな部分でカルチャーを伝承し、繋がろうとしている感じもする。少し耳を傾けるだけで、サウスの生々しい熱気を浴びる場面は、確実に多くなっているはずだ。

デンゼル・カリー

 印象的な動きを挙げていく。例えば、フロリダ出身のラッパー、デンゼル・カリーの在り方は象徴的だろう。今年リリースされたミックステープ『King Of The Mischievous South Vol.2』は、まさにサウスヒップホップの文脈に溢れた作品になっている。

デンゼル・カリー
デンゼル・カリー at 『Bonnaroo Music and Arts Festival』

 そもそも、本作はかつてサウスのヒップホップコレクティブ Raider Klanにカリーが所属していた時に作られた『King Of The Mischievous South Vol.1 Underground Tape 1996』(2012年)の続編である。SpaceGhostPurrpを中心とするこのグループは、Three 6 Mafiaから影響を受けたホラーコア性やマイアミベース、スクリューなど、泥ついたハードなサウスサウンドを再現するような作品を作り出していた。グループ自体は2013年に解散してしまうわけだが、当時SoundCloudの波の中に放流された『Vol.1 Underground Tape 1996』も含め、のちのシーンに与えた影響は計り知れない。荒いローファイな音像の中に、スキルと歴史、その美しき蓄積の閃光を今でも確認できる。

 その後、デンゼル・カリーはフルアルバムをリリースしていくたびに洗練を極めていき、ロバート・グラスパーとの交流も含め(2022年の『Melt My Eyez See Your Future』はサウスヒップホップの要素を残しながら、限りなくロバート・グラスパー『Black Radio』の感触に近づいた作品と言える)、フロリダのシーンから外れることなく、ただしコアなヒップホップのコミュニティに止まらないような壮大な冒険を繰り広げていた。その中で、再びサウスサウンドのコンセプトミックステープに舞い戻ったのが『King Of The Mischievous South Vol.2』ということになる。彼のシーン内の影響、そしてそこに止まらない活躍は、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドを行き来することで、自らのルーツである音楽性を幅広い人の耳に届けることに成功している。これには並外れたスキルと音楽への探究心が不可欠だろう。

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