そらるとボカロの誕生は“運命”として呼応し合う 圧倒的スケールのカバー曲を繰り広げた『空祭り』2日目
11月2・3日の2日間、千葉・幕張メッセ国際展示場9-11ホールにて、そらるバースデー&ボカロカバーライブ『SORARU Birthday 2024 VOCALOID Cover Live -空祭り-』が開催された。そらるは昨年活動15周年を迎え、いまでは自ら作詞したオリジナル楽曲を発表することも珍しいことではなくなったが、彼の活動の原点をたどれば、ボーカロイド曲を“歌ってみた”としてカバーする歌い手としてのスタートに行き着く。
筆者が訪れたのは、そらるが2015年以降にカバーしたボーカロイド曲を中心に披露する2日目「後編 明神楽」。そこには、2008年から活動し、歌い手界隈で揺るぎないポジションについた、そらるだからこそ可能な圧倒的スケールのボーカロイド曲カバー祭が広がっていた。
和の情緒が息づくデジタルサウンドが浮遊するオープニングムービーが流れると、ステージ下から、バンドメンバーが次々と姿を現し、最後にそらるが片腕を高く掲げながら力強く登場した。祭りの始まりの合図となったのは、「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」(すりぃ/2020年投稿)。楽しげなムードに包まれる中で、コールを促すそらるに観客が全力で応じる様は、インタラクティブな1曲目として映った。そらるの深みのある歌声は、ダークな感情がこびりついたフレーズでさらに威力をふるい、その世界観を濃密に浮かび上がらせることができることを盟友まふまふの楽曲「立ち入り禁止」(2016年投稿)の披露をもって痛感させられた。
Bメロの抜けの良いメロディに連動する鋭利なライティングと、艶やかな歌声が客席を突き刺すように降り注いだ「ゴーストルール」(DECO*27/2016年投稿)を出発点として、そらるのミックスボイスが引き立ったのは、ボーカロイド音楽の系譜を語るうえで外せないヒット曲ーー「シャルル」(バルーン/2017年投稿)、「フォニイ」(ツミキ/2021年投稿)、「神っぽいな」(ピノキオピー/2022年投稿)、そして「乙女解剖」(DECO*27/2019年投稿)。イントロが流れるたびに、沸騰する客席の声。ボカロP・DECO*27のミクスチャーロックから始まり、ラストもDECO*27で結ぶ構成もこのパートの高揚感を印象付けていた。
なかでも、2015年頃に多くの歌い手による“歌ってみた”ムーブメントが起きた「いかないで」(想太/2015年投稿)は、この日のボーカロイド曲のなかでも最も遠い日の楽曲だが、いまだ色褪せない名曲として心に届いた。個人的ではあるが、筆者の脳裏にも2015年頃の歌い手のステージの情景がよみがえり、ノスタルジーが広がった瞬間だ。歌い手たちは、同じルート(ボーカロイド曲)をたどり、今それぞれの立場で自分の音楽を奏でている。そらるは、近年はオリジナル楽曲制作が増え、ボーカロイド曲を歌う機会が少なくなってきたことが、今回ボーカロイド曲カバーをテーマに選んだ理由だと説明しつつ、リズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』がボーカロイド曲を知らない人にとっての新たな流入元となっている良い傾向にも触れた。新たなヒット曲は次々と生まれる一方で、古き良きボーカロイド曲が埋もれてしまうのは寂しい。古き良きボーカロイド曲の魅力を最前で理解し、生の歌声で届けられるのは、歌い手だからこそできる特権でもある。記念すべき誕生日前後に名曲を掘り起こす機会を用意したのは、ボーカロイド文化を愛してやまない証明だ。ボーカロイド文化を継続的に発展させるには、こうした一人ひとりの歌い手の努力も不可欠であることを、しみじみと実感した。
暗鬱な「ボッカデラベリタ」(柊キライ/2020年投稿)からは、インターナショナルなサウンドへの変化に追随したそらるの多彩なボーカルアプローチに目を見張る展開となり、どろどろとした執着心を描写した近年のトレンド曲「ド屑」(なきそ/2022年投稿)、「プロポーズ」(内緒のピアス/2024年投稿)が続いた。バリエーションに富んだボーカロイド曲を歌うそらるの声を、「低音」という言葉で一括りにすることはできない。そこに確かに感じられるのは、数々のボーカロイド曲で培ってきた独自の表現力と、その声に宿る繊細で奥深いニュアンスだ。