fhána 佐藤純一、新レーベル設立 『メイドラゴン』『スタァライト』“祝祭感”溢れる名曲を手掛ける手腕

 3人組バンド・fhánaの佐藤純一(Key/Cho)が代表を務めるプロダクション・NEW WORLD LINEにて、プライベートレーベル「NEW WORLD LINE」が始動。第一弾アーティストとして、所属シンガー・nonocによるオリジナル新曲「ドアの向こう」がリリースされた。この楽曲の作編曲は佐藤が務めており、nonocの綺麗な高音が映えるサビの展開、新たなスタートを希望溢れる言葉で綴った歌詞、イントロのリズミカルなベースラインなど、佐藤のポジティブな面を押し出した1曲となっている。

nonoc / ドアの向こう【Music Video】

 佐藤といえば、2013年にメジャーデビューしたバンド・fhánaとして楽曲制作やライブ活動を続ける傍ら、アニメ・ゲーム・声優・VTuber・歌い手・アイドルなどへの楽曲提供、そして先述したプロダクションの社長業など、様々な顔を持つクリエイターである。音楽的な引き出しの多彩さに加え、アニソンシーンを主軸に活動していることもありサブカルに対する造詣も深く、佐藤が手掛ける楽曲には彼なりの美学や哲学が感じ取れるものが数多い。今回はそんな佐藤の手掛けた楽曲をいくつか紹介し、楽曲の魅力に迫っていこう。

 まず、彼がリーダーを務めるfhánaの代表曲として真っ先に挙げられるのは、2017年にリリースされた「青空のラプソディ」で間違いないだろう。京都アニメーションが制作したアニメ『小林さんちのメイドラゴン』(TOKYO MXほか)のOPテーマとなった楽曲で、ディスコやファンク、フィリーソウルの要素を織り交ぜた、高揚感が溢れるポップナンバーとなっている。優しく引っ張っていくようなボーカルのtowanaのハイトーンと、少しの切なさが混じった明るい歌詞も素晴らしく、発表から7年経った今でもまったく色褪せない名曲だ。また、間奏のドタバタしている部分に小沢健二の「強い気持ち・強い愛」へのオマージュが感じられるなど、音楽的な小ネタもしっかり取り入れられている。

fhána / 青空のラプソディ - MUSIC VIDEO

 「青空のラプソディ」、そしてアニメ続編の主題歌「愛のシュプリーム!」のヒットの影響で、fhánaといえば“ノリの良い明るいパーティチューン”というイメージを持つ人も多いかもしれないが、もちろんfhánaの楽曲の魅力はそれだけではない。多彩な音楽を奏でるfhánaの楽曲からあと1つ名曲を挙げるとするならば、2014年に放送されたアニメ『天体のメソッド』(TOKYO MXほか)EDテーマ「星屑のインターリュード」ではないだろうか。疾走感のある明るい楽曲という意味では「青空のラプソディ」との共通項もあるが、この曲はメロディやサウンド、歌声のすべてにおいて純度の高い透明感が最大の特徴。躍動感のある四つ打ちのリズムを軸に、流麗なストリングスやシンセ、スラップ的に動くベースといった多くの楽器が違和感なくまとまり、常時高いキーを出し続けているボーカルの歌声も含め、サウンドが流れ星のように上から降ってくる感覚が味わえる、不思議な1曲となっている。

fhána「星屑のインターリュード」 (TVアニメ『天体のメソッド』ED主題歌) MUSIC VIDEO

 ここからは佐藤がほかのアーティストに提供した楽曲にも触れていきたい。彼が提供する楽曲は、キーワードごとにいくつかのグループに分けられると個人的に感じているのだが、そのうちの1つが“祝祭感”である。このキーワードを念頭に入れながら、三森すずこに提供した「鈴がなる日」について最初に紹介しよう。この曲は、三森のソロデビュー10周年記念のベストアルバム『RPB』に収録された書き下ろし楽曲で、アーティストとしての生き様だけでなく、彼女の人生すべてを肯定するかのような温かく優しい音色が印象的な楽曲だ。イントロで聴こえるピアノの最初の一音から佐藤らしさが溢れ出しており、特にサビ前とアウトロのコーラスワーク、そしてメロディラインは特に記名性が高い。まさに10周年を祝う、“祝祭”のような1曲だ。

三森すずこ 「鈴がなる日」 [Official Audio]

 また、歌劇のスタァに憧れる“舞台少女”たちを描いた、2021年に公開された映画『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の主題歌、スタァライト九九組の歌う「私たちはもう舞台の上」にも“祝祭感”というキーワードが当てはまる(前奏作曲はArte Refactの本多友紀が担当)。流麗なストリングスに華やかなブラスの音色、そして9人のドラマチックな歌声を軸にしながら、随所に挟まる〈Hey!〉の掛け声がフックとなって進んでいくこの曲は、舞台少女たちの新たな門出を祝福するような、喜びに満ちた雰囲気が満載だ。そして、3つの歌唱パートを重ねたラストのアンサンブルは、この楽曲の最大の盛り上がりポイント。異なる旋律が不協和音にならないように絶妙なバランスで響かせるこのパートは、否が応でも聴く人の感情を昂らせてくれる。ハモやコーラスの多用は佐藤の“祝祭感”の1つの特徴でもあり、彼の奏でる優しいサウンドをさらに際立たせてくれるのだ。

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』主題歌「私たちはもう舞台の上」試聴動画

 大人数で歌う楽曲という繋がりで、アニソンフェス『Animelo Summer Live』(『アニサマ』)の2019年のテーマソング「CROSSING STORIES」も紹介しよう。様々なバックグラウンドを持つアーティストたちが集まるフェスという場を、“一人ひとりの人生が交差した奇跡の瞬間”と表現したエモーショナルな楽曲で、ラストの〈LaLaLa〉の客席とのシンガロングやクラップも含め、大団円な雰囲気が沁みる壮大な1曲となっている。大人数で、しかも歌う人が日替わりで異なるという特殊な環境で歌われることを想定すると、誰もが歌えるようにボーカルレンジを絞って難しいことをしないようにするのが一般的だと思うのだが、この楽曲ではBメロでファルセットが必要な高音を躊躇なく入れたり、最終盤でピアノとボーカル、ストリングスによるアコースティックパートを作ったりするなど、ボーカリストを信頼していないと成立しない部分がいくつも存在する。言い換えれば、『アニサマ』側がそれを許したということでもあり、佐藤に対する信頼の厚さも窺える。

CROSSING STORIES【Animelo Summer Live 2019 -STORY-】

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