SHE'Sが今描く、恋愛や友情を超えた“愛情”の姿 7枚目のアルバム『Memories』とバンドのあり方を語る

SHE'Sが描く“愛情”のあるべき姿

 人間が人間らしい尊厳を持って生きる必要要素のひとつが記憶だろう。SHE’S 7作目のアルバムはタイトルもズバリ『Memories』というストレートなもの。だが、そのワードが持つノスタルジックな響きとは少しニュアンスは違って、恋愛を超えた人間同士の愛情、さらには生命に対する無償の愛、別れの時に大事な存在が採った選択を尊重する自分の意思だったりする。どんな記憶も今の自分を構成し、時には自分を助けてくれる。声高に叫ぶことはないが、ひとつの軸を持ったこのアルバムがさまざまな音楽的な試行を繰り返した先のバンドらしい楽曲で構成されていることも必然的に感じられるのだ。

 今回、これまでよりも“バンドのソングライター”という意識が強かったという井上竜馬(Vo/Key)に作品のプロセスやバンドの今について聞いた。(石角友香)

アルバム『Shepherd』以降は「“SHE’Sというバンド”をより強く感じた時期だった」

SHE'S・井上竜馬(撮影=三橋優美子)

――昨年のアルバム『Shepherd』からまた新たなSHE’Sのタームが始まったのかなという印象があったんですが、今作は1年4カ月ぶりで、なかなかコンスタントですね。

井上竜馬(以下、井上):ね。書いてツアーしてまた書いてって感じで。

――井上さんのなかでソングライターとしての意識は若干変わってきましたか?

井上:『Shepherd』はアルバム自体がかなりバンドを意識した作品だったし、それをもってのツアーの前半は小さい地方のライブハウスをまわったり、よりバンドとしてのライブとか、“SHE’Sというバンド”をより強く感じた時期だったんですね。それまでは、バンドをやってるけど作曲のほうに気を取られるというか。どういう曲を書いていくかという意識のほうが強かったんですけど、去年から今作にかけては“バンドのソングライター”みたいな意識になって。ツアーの成功体験というわけではないですけど、「よかったな」っていう感覚があったので、今作も自分が今めっちゃ書きたい曲っていうより、どっちかと言うとSHE’Sがバンドとして作った、演奏した時に強みの出る曲を書きたいなと思って書き始めたのが『Meomories』で。その意識の違いが『Shepherd』以前とは全然違うかもしれないですね。

SHE'S - 6th Album『Shepherd』【全曲トレーラー映像】

――『Tragicomedy』と『Amulet』でバンドのイメージは明確になったと思うんですけど、その頃ってソングライターとしての井上さんはほかの日本のバンドシーンであんまりやってないタイプの音楽を目指してもいて。今はそこから自由になった印象があります。

井上:そうですね。より自由にはなってるかもしれないです。今までもチャレンジはずっとしてきてて、やったことのない音楽やアプローチをし続けてきていたうえで、今作はチャレンジというより、それこそSHE’Sが作ってきたパブリックイメージだったり個性みたいなものをちゃんとお客さんに残したいというか。そういう感覚もすごく強かったんですよね。それは「No Gravity」を書いたっていうのがすごく大きかったんですけど。

――バンドサウンドじゃないポップチューンを書いたことが?

井上:『Memories』を作る前、そのバンドとして演奏した時に強みが出る曲とか、そういう内容を決める前に「No Gravity」を先行して書いていて。アルバムのことを考えずにその時に書きたい曲をバン! って出した結果、やっぱりサウンド的には打ちこみがほとんどになって。むしろそういうものがあったから、アルバムはより「Cloud 9」とか「Memories」は特にそうですけど、「SHE’Sっぽいな」と思ってもらえる曲を書いていこうという意識はありました。

SHE'S - No Gravity【MV】

――「No Gravity」は当時の井上さんとしてはぜひ書いて歌っておきたい曲っていう?

井上:“僕”っていう感じでしたね。SHE’Sとしてというよりも、作曲者の井上竜馬が今書きたい曲みたいなノリで書いた曲だったので(笑)。

――むしろそれでバンドのソングライターとしての井上竜馬が見えたのかもしれないですね。楽曲の「Memories」に関しては、春にファンクラブイベントでビルボード公演もあるし、その機会に作ったとおっしゃってませんでした?

井上:そうです。「No Gravity」から半年ぐらい曲を出してないっていう状態になる予定だったので、「ここでもう一曲出しときたいですね」という話をして。たまたまビルボードライブが3月だったから、そういうテーマの曲を書いてみようかな、というところからのスタートでしたね。

――別れと出会いの季節ですね。

井上:なんか、三連符とかハチロク(6/8拍子)のリズムにすごく別れを感じるんですよね、僕。なんでなんでしょうね(笑)。それもあって、このリズムで書き始めた気がします。

SHE'S - Memories【MV】

――ちなみに今回の特典映像(「SHE’S Summer Memories SPECIAL」)のなかで、アルバムタイトルを決めてから制作するのは初めてだと話していましたね。

井上:そういうことを意図した感じじゃなかったんです。「Memories」を制作した時、もともと「Take Care」っていう曲タイトルにしていたんですけど、いかに自分にとって思い出や過去のことが今の自分を支えてるかを実感して。それをテーマにして『Memories』というアルバムを作って、自分のあたたかい記憶だったり、そういうものを曲にしていくようなコンセプトアルバムにしようかなっていうスタートの仕方だったので。最初からタイトルを決めて作ってみようというわけではなかったですね。

SHE'S・井上竜馬(撮影=三橋優美子)

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