Nothing's Carved In Stoneの揺るぎない原点と進むべき道 雨の野音ワンマンで見せたロックバンドの底力

 開演時刻、SEとともにステージ後方にバンド名を染め抜いたバックドロップが掲げられる。降り出した雨をものともしない歓声が登場したメンバーを包み込み、「Overflowing」のどっしりとしたサウンドとともに、Nothing's Carved In Stone通算5回目となる日比谷野音ワンマンが幕を開けた。のちのMCで村松拓(Vo/Gt)は「ここ(野音)でやる意味というのは『みんなのために』――それだけです」とオーディエンスに語りかけたが、その言葉通り、最強のセットリストと力強いパフォーマンスで集まった人々を鼓舞し続けたライブは最後まで息をもつかせぬテンションで、“Nothing's Carved In Stone”というロックバンドの底力をまざまざと見せつけるものだった。

 眩い光とともにアグレッシブに展開した最新作『BRIGHTNESS』からの「Bright Night」、そして重厚な音の重なりから突入した「Around the Clock」。序盤から畳み掛けるように楽曲を繰り出すバンド。生形真一(Gt)のリフは降り注ぐ雨粒を切り裂くように鳴り響き、大喜多崇規(Dr)の叩くビートと日向秀和(Ba)の鳴らす低音がまだ明るい日比谷の空気を震わせる。勝手知ったる野音のステージの上で歌う村松も気持ちよさそうだ。「よく来たね! 行こうぜ日比谷、声を聞かせてくれ!」。村松の言葉に客席からコールが巻き起こり突入したのは、「Challengers」。鼓動のように鳴り響く日向のベースラインに村松のボーカルと生形のコーラスが重なり、美しい光景が生み出されていく。続く「Sing」ではビートに合わせてハンズクラップが起きるなか、ハンドマイクを握りしめた村松が「声を聞かせてくれ!」と煽れば、客席中から歌声が立ちのぼる。直前の予報に反して雨足は強まるばかりだが、オーディエンスにもバンドにもそんなことは関係ない。ライブハウスのような熱気が夏の終わりの野音に充満していった。

村松拓(Vo/Gt)

 スケール大きく広がった「In Future」では村松が日向のベースに顔をグッと近づけてセッション、激しいリフの応酬からハードに突っ込んでいった「Damage」では分厚いスモークがステージを覆い尽くし、オーディエンスの興奮を否が応でも高めていく。歌い終えた村松は「最高、ありがとう」と一言。オニィこと大喜多の叩き出す4つ打ちのビートに乗せて「無事開催できました、ありがとうございます!」「ちょいちょい雨降ってるけど、下に太陽があるってことなんだよね。太陽のようです、みなさん!」と語りかけると、名曲「きらめきの花」へ。生形の弾くリフと村松の歌うメロディが絡み合い、サビではオーディエンス全員の手が揺れる。さらに客席を照らし出すように「SUNRISE」が届けられ、野音はあたたかな一体感に包み込まれた。

生形真一(Gt)

 「よく来たね」。ここまで10曲を終えた村松があらためてオーディエンスに語りかける。この日は台風の予報もあり、会場まで来られない人もいるんじゃないかと開催を最後まで迷っていたという4人。それでも開催を決めたからには「ここに来れなかった人にも届くように」と思いを村松が口にする。バンドにとっても、おそらくそれ以上にファンにとっても特別であるこの野音という場所。村松は「野音だけチケットが売れるのが早いのはおかしい」と笑っていたけれど、それだけ意味をもったライブということだ。だからこそ、天候の影響で中止なんてことにはなってほしくなかったし、雨すらも演出に変えてしまうほどのパワーを期待していた。そして実際、この日のナッシングスは天気すらも味方につけていたように思う。ライブが始まった瞬間に雨が降り、曲が止まりMCになるとその雨が弱まる。アンコールが終わり、オーディエンスが帰途に着く頃には雨はほとんど上がりきっていた。“雨の野音”はいつだってドラマティックなものだが、この日のライブも、来た人にとっては忘れられないものになったのではないかと思う。

日向秀和(Ba)

 さて、そんなMCを挟んでライブは再び怒涛の勢いで進んでいく。「朱い群青」に「Pride」と大喜多のドラムが曲を引っ張る楽曲を重ね、「Mirror Ocean」の壮大なサウンドが野音を覆い尽くす。ここまで13曲、彼らのライブではいつものことだが、圧倒されるように轟音を浴びているうちに、いつの間にかもうライブは後半戦に差し掛かっている。「思い残すことがないように全力で演奏します。ついてこいよ!」という村松の言葉を合図に、野音のボルテージはさらに上昇。続けて繰り出された「Like a Shooting Star」から、バンドの演奏もオーディエンスの盛り上がりもさらにひとつギアを上げたような気がした。

大喜多崇規(Dr)

 パワフルなビートが会場を揺らし、クライマックスに向けて最初のピークを刻んだ「Idols」を経て、生形の弾くギターリフに歓声が上がる。村松が言葉をまっすぐ届けるように歌い出したのは『BRIGHTNESS』のリード曲「Freedom」だ。今のナッシングスを象徴する一曲が、リリースからまだ数カ月しか経っていないというのが信じられないほどの存在感をはなち、オーディエンスの心に火をつけていく。「完璧な夜にしようぜ!」。村松の叫びにますます興奮の度合いを高める野音。そうして繰り出された「Out of Control」が、鮮やかなハイライトを描き出す。テクニカルなキメを難なく披露しながら、バンドの演奏もますますテンションが上がっていくようだ。

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