9mm Parabellum Bullet「続けることがいちばん難しかった」 4人で歩んできた20年の日々と今を語る
9mm Parabellum Bulletが、結成20周年を記念したデジタルベストアルバムをリリースした。ファン投票によって総数約130曲の中から上位20曲をランキング順に収録、コアなファンもこのタイミングで初めて彼らの音楽に触れるリスナーの耳も十二分に満たす内容になっていると言えるだろう。結成以来、メタルやハードコア、パンクからラテンまで独自のアイデアと手つきで昇華したサウンド、そして歌のあり方においては歌謡曲を彷彿させるようなキャッチーなメロディによって、その轟音に大衆性さえもたらしている――という世界的に見ても並びない9mmの音楽的な性格であり構造であり求心力は、この20年で作品を重ねるごとに進化と成熟を重ねてきた。今秋には10枚目のアルバムをリリース予定であり、11月からは来年3月まで続く全国ツアーがすでに発表されている。菅原卓郎(Vo/Gt)と滝 善充(Gt)のふたりにこの20年を振り返ってもらいながら、9mm Parabellum Bulletの独自性と矜持を語ってもらった。(三宅正一)
第2の家族・バンドで過ごした20年の歩みと必然
――結成20周年という響きは、率直にどう感じますか?
菅原卓郎(以下、菅原):僕は、あまり振り返ったりはせず、目の前にあることに集中するタイプなので、一つひとつの積み重ねが20年分あったんだな、という感じです。単純に「バンドが成人したんだな」って(笑)。
――感慨深さはあまりない?
菅原:日常の中でふと「20年かあ〜、バンド始めた時は19歳、20歳だもんな」と思う時はありますね。滝と僕は同級生なので、お互いが19歳になる年に出会ってるんですけど、今もう既に、家族と実家で過ごしていた時間よりも長く一緒にいるので、第2の家族みたいな状態だなと思います。
滝 善充(以下、滝):感慨深くなる感じはまったくないです。思い返してみると、9周年、10周年の時もそれまでの道筋を振り返って浸るようなことはなかったですね。「もっと重みを感じないとダメだ!」と思って考えるようにしたこともありましたが、それも続かず(笑)。昨年も結成19周年でしたが、やっぱり感慨深さはあまりなく、自然に活動していました。
――9mmの場合は“9”も重要ですからね。
滝:そう。でも、周年よりもアルバム制作とか次のことが気になりますね。いちばんはそれです。やっぱりデビュー当時からすべてのインタビューにおいて「続けることが最大目標だ」と言っているので。
――当時からずっと言っていた?
菅原:ずっと言ってるね。
滝:「あの会場でやりたい、とかないんですか?」というようなことを聞かれても「とにかく辞めずに続けることが最大目標で、いちばん難しいことだ」ってずっと言ってました。
菅原:とにかく活動がしたいんだ、という。アルバムを作って、ライブして――自分たちとしてはバンドの名前があるだけではダメで、「バンドをやっているぞ」っていう実感を得られるのは演奏している時なんです。だから、そのためには曲がいる。そういう順番な気がします。とにかくバンドがやりたいな、っていう。
滝:昔、「バンドの夢がそれなのか?」みたいなことを言われたことがあるんですけど、蓋を開けてみると、やっぱり続けることがいちばん難しかったんじゃないかなって思います。
――最初の音源や当初のライブの佇まいからすると、1、2年で燃え尽きてもおかしくないというか、そういう刹那的な印象を持たれても違和感がなかったと思うんですが、当時を振り返ってみても、とにかく続けることを目標に据えて活動していた、と。
菅原:そうですね。少なくとも僕と滝は同じようなことを考えていて、滝が「続けるのがいちばんの活動目標です」って言った時に「そうだそうだ!」と思っていました。それって最低限というか、すごく根っこのところじゃないですか。その根っこの上に、大きいことでも小さいことでもいいけれども、目標としている何かがある。そうせずに目標だけにフォーカスしてしまうと、やりたいことがわからなくなる時がくるという危機感というか。アラームみたいなものを感じ取っていたんですよね。何かを見失うな、みたいな。
滝:そうですね。
菅原:それよりは、ライブ中に「うわぁ、すげえいいライブしてる!」って感じたり、「お客さんめっちゃ盛り上がってる!」って思う瞬間がやっぱりピークだと思うので、そこに毎回到達するっていうことが目標ですね。「今日は今まででいちばんうまくあの曲を演奏できた」とか「今まででいちばんいい『ハートに火をつけて』だった」みたいな(笑)。それがすごい達成感で。(ライブの)会場が大きくなっても小さくなっても、それは変わらないことです。
――滝くんは初期のライブを振り返ってみてどうですか?
滝:「浮き足立たないように」というのはよく思っていましたね。あんまり変なことで一喜一憂しないように。でも、ライブはマジで頑張ろうって思っていました。「燃え尽きよう」って思ってやっているわけではなくて、真面目に盛り上がる。ワーッ!ってなれるライブ、楽しいライブをするにはこうしたほうがいいだろうっていうのを一生懸命やっていました。とはいえ――なんだろう……たとえ話ですけど、「肉ばっかり食べていないで野菜も食べなさい」みたいな、逆の成分もまた正しいんだなとも思っていたので、それこそ一喜一憂なんて関係なくても、ある種冷徹な気持ちでもいいからしっかり続けること。その日は頑張ろう、みたいなことを考えていましたね。
――それは初期の頃から?
滝:そう。ずっと。
とにかく4人でいるなら“ロケンロール”だな、って(滝)
――そういう話も含めて、やはり20年続いたことを必然的に感じます。9mmは明らかに後続のバンドに与えた影響も大きいと思いますが、実際にフェスやイベントで下の世代のバンドに憧憬や敬意を示されることも多いんじゃないですか?
菅原:そうですね。「中学生の頃に聴いてました」とか。
滝:「コピバンやってました」とか言われますね。
菅原:でも、凛として時雨とかthe telephones、THE BAWDIESとか、僕らと同世代のバンドって前の世代からの影響がちょっとわからないバンドばっかりだと思うんですよね。世代的に。
――たしかに。
菅原:ちょうどそのあたり、平成くらいで情報を受け取れる量が増えて。
滝:うん。めっちゃ増えた。
菅原:CDが売れたあとの世代だから、いろんなバンドがCD出して、テレビで観るだけではなく日本のも海外のも探すようになって。さらにインターネットもあるから、吸収する度合いもそれまでの世代と違うんですよね。だから、そこからアウトプットされたものがバラバラになるのは当然だと思います。9mmの場合はとりあえず、何にも似ないで、めちゃくちゃ激しくて、自分たちの好きな要素があるバンドをやりたいっていうのが明確にあったので、自分たちが聴いてきたものにさえあんまり似ていないものになりました(笑)。好きなものの中からすごく激しい部分とか、テンション上がる部分を抽出して作ってるという感じです。特にライブのステージとか。
――そこに歌謡曲的なメロも入ってくる。
菅原:でも、歌謡曲的なメロってずっと言われるんですけど、狙ってやってるわけではないんですよね。メロがただ抜けてくるっていう。歌謡的な音使いにしてる曲もあると思うけど、「歌謡的なメロをのせたら面白いぞ!」って作ってるわけではない。
――ごくナチュラルにやっていたらこういう旋律になっていると。
滝:そう。でも、その時流行っていた何かへの反発だったのかもしれない。
菅原:それはあるね。
滝:早口の曲とかが結構出てきてて。
菅原:ロックバンドでラップするとか。
滝:ミクスチャー的な世界とか。
――ヘヴィロック的なアプローチとか。
滝:そう。その文脈をカットするためだったのかもしれない(笑)。
菅原:「違うものですよ」っていう感じ。
滝:そうそう。
菅原:僕たち、中学、高校の頃にDragon Ashとか山嵐とかを聴いているのに、その方向の音楽はやらないっていうね(笑)。
滝:めっちゃ好きなのにね(笑)。
菅原:受けている影響も貫いていたらかっこいいと思うんですけど、ライブハウスで「自分の好きなものはこれです」というふうに純粋に継承しにいっているバンドとかに会うと、「これはちょっと観ていても面白くない」って当時の僕たちは感じて。「それはもっといいものがある」って思っちゃってた。
――オリジナルを聴けばいいってなるしね。
菅原:そう。大本が聴きたいなって思っちゃう。だから、そうじゃない表現をしたい。自分たちがステージを降りて9mmを見た時に、そうじゃなく感じるものをやりたいって考えながらやっていたんじゃないかな?
滝:パッと見で、なんの影響を受けているかわからないようにしたかったっていうことかもしれないです。
――でも実際、最初に見た時の印象はその通りでした。
滝:じゃあうまくいったんですね。
――ある種、天邪鬼的な気質もある?
滝:それもあるし、素でこうなのかも。
菅原:素でそれを目指しちゃうんです。「同じだと意味ない」みたいな。
滝:反発してもしなくても、こういう曲になっていたような気がします。
菅原:それはそうだと思う。たぶん反発していても無意識だからね。「これは何かに似てるな」って思った時に、それにGOサインを出すのか出さないのかのジャッジがバンドの中ではすごく絶妙で。「ここから持ってきたアイデアならいい」とか「これを聴いた瞬間にあの曲が思い浮かぶからダメ」とか、その年その年で違うと思うし。
――これを今に至るまで破綻せずに成立させられているのが面白いというか。4人のメンバーがそれぞれの思考ややりたいアプローチがありながら、崩れることなくオリジナルを生み続けていることは、サウンドプロダクションの観点から見ても稀有なことだなと思います。
滝:芯はブレないようにって思っていましたね。さっきの話じゃないですけど、やっぱり僕らの世代は、いい感じに散らかす世代のバンドだったなって思うんです(笑)。でも、それも相反する要素だと思っていて、しっかり散らかす部分と、散らかさない部分がある。そういうところもすごく考えていたので、「これをやっちゃダメ」という判断もすぐにできましたね。それは僕が決めたことじゃなくて、メンバーを見ていてパッとうまくいくようなことがバンドの正解だと思っていました。こねくり回してやったものだと、それこそ本当に散らかっちゃう。バンドメンバーの芯を使うイメージですかね。
菅原:滝は、メンバー3人のことをおおまかに「ロックンロールな人たちだ」ってとらえているところがあるからね。
滝:そうそう。
菅原:どんな形だとしても、最終的にロックンロールな状態になる曲とかライブとかであれば9mmはいいっていう話をしてたよね。
滝:いろんなものが好きだけど、とにかく4人でいるなら“ロケンロール”だな、って(笑)。
――ロックンロールであれ、っていう。
菅原:そうそう。曲のスタイルじゃなくてマインドとして。パンク寄りなロックンロール。
――不思議なバンドですよね。
菅原:僕たちから「似ないようにしよう」っていう考えまで受け継いでくれた子たちは、「9mmと同じだと9mmに好きになってもらえない!」と思って違うことをやってる可能性はあるよね(笑)。
滝:そうですね。逆にそのまんま影響を受けたものをやられたら、考えがまったく違う人になっちゃう。大谷翔平じゃないけど、憧れすぎなんだよね。
――憧れるのはやめましょう、っていう。すごく説得力ありますよね。
滝:僕がバンドをやる時に思っていることの最たるものですね。