AZKi、メジャーデビューライブは新たな“開拓”の幕開けに 活動の変遷が詰まったステージをレポート

AZKi、メジャーデビューライブレポート

 人気VTuberグループ・ホロライブ所属のバーチャルシンガー AZKi。8月3日、彼女のメジャーデビューライブ『AZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」』がKT Zepp Yokohamaで開催された。ここでは昼夜2公演行われたライブのうち、夜の部の模様をレポートしたい。

 AZKiといえば、まだまだVTuberの黎明期だった2018年の活動開始以降、様々な活動を通してバーチャルシンガーの世界を開拓してきた先駆者のひとり。その歩みは決して平坦なものではなく、ホロライブの運営会社・カバー初の音楽特化VTuberとしてデビュー後、2019年にはホロライブ内の音楽レーベル・イノナカミュージックにオリジナルメンバーとして参加。その後2022年4月にホロライブに編入するなど、様々な変遷を経て現在に至っている。中でも印象的だったのは、2022年7月に終了予定だった計画から分岐して新たなルートに入ったことを告げた2021年4月の発表。リスナーを筆頭に様々な人々の輪が広がったことで彼女のルートは本来のものから分岐し、やがてメジャーデビューへと辿り着いている。今回のライブは、そんな彼女にとっての新しい旅の始まりとも言えるタイミング。生バンドによる臨場感いっぱいの演奏で、改めてバーチャルシンガー AZKiの魅力を詰め込んだライブとなった。

 まずは冒頭、会場のスクリーンに活動開始日の2018年11月15日を示す「20181115」という文字やDNAのらせん構造、デビューからのビジュアルの変遷などで構成された映像が流れ、これまでの歩みが今に繋がったことを思わせるような雰囲気の中、AZKiが登場。〈あっ 光った流れ星〉という歌い出しからポエトリーリーディングを取り入れた「Lazy」で幕を開け、ビートに乗って歌詞の風景を想像させる振り付けと語りで会場を引き込んでいく。続いて「いくよ、開拓者(ファンの総称)」と伝えてバンドの演奏が一気に盛り上がり、「ちいさな心が決めたこと」や「明けない夜があったなら」へ。透き通った歌声や表現力が伝わる冒頭となった。

 とはいえ、彼女の歌の魅力は透明感やポップさだけではない。一度MCを挟むと、次は一転、エッジの効いたギターサウンド全開のロックモードに。それまでとは180度雰囲気が違うクールな表情の歌声で「Chaotic inner world」や「Fake.Fake.Fake」を歌い、観客も「はい! はい!」とレスポンスを返しながら会場一体となって盛り上がる。続いて、「これ準備できてる? みんなで一緒に歌ってね!」と伝えて始まったのは、メジャー1stアルバム『Route If』収録の「午後8時のコーラスソング」。彼女の指揮棒を振るような振り付けに合わせて会場にコーラスを促し、観客を巻き込んだ。続く「Operation Z」ではポップな楽曲に乗せて観客もつい真似したくなるような振り付けを披露し、続く「猫ならばいける」ではダンサブルなギターチューンとともに観客と「にゃー!」と大騒ぎ。ちなみにこれは、彼女のYouTubeのチャンネル登録者数がまだ100万人には遠かった頃に、バズコンテンツである“猫”になりたいという思いを込めて〈起きたら100万登録だ〉と歌っていたユニークな楽曲。今年4月には実際にYouTubeのチャンネル登録者数100万人を達成し、猫にならずとも記念すべき大台を迎えられたことも記憶に新しい。

 こうした前半の選曲やステージングを振り返るだけでも、今回のライブは彼女が活動する中で見せてきた多種多様な歌の表情が楽しめるものになっている。公演タイトルの『声音エントロピー』とは、物理学の言葉を応用して、まさにそうした思いを表現したもの。キャリアの中で広がっていった歌唱表現の幅広さを改めて音楽に詰め込んだのが、今回の公演ということなのだろう。

 「次はこんな素敵な夜を彩る曲をお届けしたいと思います」と伝えると、ドレスに衣装チェンジして「夜の輪郭」へ。ここでは一転、「動」から「静」へ転換したようなバラード曲に合う、息を呑むような歌で観客を魅了。動き回って振りを披露した直前の数曲とはガラッと変わり、ステージ中央に佇んで歌に集中する姿が印象深い。続く「青い夢」では、音楽への思いや好きなだけでは続けられない現実などを歌った歌詞、泣きのギターなどに合わせて、感情が溢れ出すようなボーカルを披露。こうしてポエトリーリーディング調からバラード、ポップスからロックまで、様々な音楽性を横断していく彼女の歌声をサポートするかのように、舞台装飾や照明はこだわりを感じさせつつも派手に目立つものにはなっておらず、あくまで「声が主役」という雰囲気になっている。

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