ASIAN KUNG-FU GENERATIONを彩ってきた“衝動と成熟” 4人のフェイバリットソングから辿る20年史
このインタビューは「僕らも大人になった」で始まり、「大人は大人の歌を作らなきゃ」という言葉で終わっていく。20年の歳月はバンドに輝かしい楽曲と成熟をもたらしたということだろう。2003年のメジャーデビュー以来、シーンの前線で活躍し続け、後続のバンドへも大きな影響を与えてきたASIAN KUNG-FU GENERATIONが、初のシングルコレクションをリリースした。新しいリスナーへの入門編としてはもちろん、往年のファンが歴史を再訪し、改めてその魅力を堪能するのにも良い機会になるはずだ。「遥か彼方」再録の経緯に始まり、メンバー4人にはそれぞれDisc1とDisc2からフェイバリットだと思う楽曲を挙げてもらった。懐かしいエピソードをいくつも交えながら、最後には今作りたい音楽について話を聞いた。(黒田隆太朗)
“今のアジカン”として再録に挑んだ「遥か彼方」
――メジャーデビュー20周年の記念盤として、初のシングルコレクションがリリースされます。どんな動機から今回のリリースが決まっていったんですか。
後藤正文(以下、後藤):基本的にはレーベルからの提案ではありますけれど、最近また何周目かの新しいリスナーが増えてきているタイミングでもあるので、20周年というタイミングでシングルコレクションをリリースするのはいいなと思いました。ただ、時代的には別にプレイリストでやればいいじゃんって話でもあって、おそらくCDを購入するのは熱狂的なファンの人たちだから、その人たちが手に取っても嬉しいと思えるものにしたいよねって話はみんなでして。ほっとけばレーベル主導で出ちゃうものなんだけど、僕らも大人になったので、そうやってレーベルと一緒に話し合いながら企画していきました。
――「遥か彼方」の再録として「遥か彼方 (2024 ver.)」が入るのは、まさにそういう観点から?
後藤:そうですね。シングル曲ではないので収録されない可能性もあったんですけど、さすがにこれだけ聴かれてる曲を収録しないってのはないよね、という話をみんなでして。今でもよく演奏する曲なので、今のバンドの状態で録音し直すのもすごく自然なことなんじゃないかなと思いました。
――もう1回録ってみて、それぞれどんなことを思いましたか?
伊地知潔(以下、伊地知):(リリース)当時からライブではBPMが音源よりも速くなっていたので、昔よりもテンポは上げています。あと、僕的にはパターンを2024年バージョンでガラッと変えるのもありかなと思ったんですけど、ずっとこのフィルに憧れて練習をしてきたという友達がいて、そういうのって変えない方がいいなと思ってやめましたね。なので変えてもいいところと変えちゃいけないところを、自分で決めて作り込みました。
――どうしてライブだとテンポが速くなっていたんですか?
伊地知:当時は全曲速くなってました。
――なるほど(笑)。
伊地知:もうテンションが上がってしまって。緊張もあると思うんですけど、なんか当時はそれがいいって言われたんですよね。
後藤:対バンによっても変わるというか、BRAHMANの前でやった時の潔はすごかったもんな。
喜多建介(以下、喜多):(笑)。
後藤:とにかくいいとこを見せたいってのもあるんでしょうね。早く終わって帰りたいのかわかんないけど、すげえ速くて(笑)。でも、僕にもそういうのはあって、とんでもないギターの速度でイントロを弾き始めたりとかするんですよね。で、その後ガクっと潔に落とされて楽屋で大喧嘩とか。なんで落とすんだよ! このまま行けよ! みたいな。
山田貴洋(以下、山田):あのままはできないって(笑)。
後藤:絶対無理! とか、言い争いはありましたよ。昔ね。
――ギターやベースで意識したことはありますか?
喜多:『崩壊アンプリファー』(2002年)に入っている「遥か彼方」は結構ギターを重ねていて、マーシャルとレスポールの組み合わせだったかな。でも、2024年バージョンはシンプルにゴッチ(後藤)と俺の1本ずつのギターなので、その音圧には敵わないんですけど、気持ちは負けちゃいけないと思って、気持ちを乗せて3本ぐらい録っていいと思うのを選びました。
――今回も重ねようとは思わなかったんですか?
喜多:ソリッドさがそれによって足される部分もあるし、失う部分もあるなと思って。今のアジカンの感じだと、やっぱりそんなに足さないんですよね。
後藤:曲によってはダビングも割とやっているんですけど、「遥か彼方」はそれぞれのフレーズが独立して絡み合ってるから、ギターのフレーズを2本弾くとやや渋滞するし、ベースも歪んでたりするから。歪みの音に歪みで塗ってくと、みんなの個性が消えちゃうし、潔の意外と細かいフレーズによっても空間が埋まっちゃうから。この曲は塗らない方がいろいろやってるところが見えるね、という判断だと思います。
山田:ベースのイントロは最初に耳に入ってくる部分ですし――でも、20年前からすると使ってる楽器も違うし、機材も違うし、今ライブでやってることとも全然違う音なので、昔の記憶を辿りながらいろんな機材を試しました。でも、オリジナルの音源が独特で、作れそうで作れないんですよね。なので昔の歪んでる感じに聴き劣りしないようには意識して、今の演奏とサウンドで昔の音に近づけるものを目指しました。
――後藤さんはどうですか?
後藤:やっぱりね、すごいプレッシャーがありました。当時のやけくそみたいな歌い方は初期衝動でやってるから。初期の衝動なんて初期だからできたわけで、あれをもう1回やることは無理ですし、本当にエモーショナルな声が出るのかは当日まで不安でしたね。あと、健康の面でも不安でした。何回も歌えないし、ちゃんと喉がいい状態でスタジオに行って、一発でギャっとやって決めないといけないと思っていたから。山ちゃんのイントロもたぶんドキドキしたと思いますけど、僕も同じぐらいプレッシャーがありました。
――そんなプレッシャーがある中、出来上がりはどうでした?
後藤:頑張りました、としか言いようがないな。でも、昔よくやったやり方というか、『君繋ファイブエム』(2003年)ぐらいまではダイナミックマイクでね、思いっきり接近してがなるような歌い方をずっとしてたんですけど、久々にそれをやりました。ほら、ミュージシャンとかさ、だんだん金にものを言わせて、AKG(アーカーゲー)とかTELEFUNKEN(テレフンケン)のいいマイクを使ってね、リッチな音で録ろうとするんですけど。そういうのは捨て去って、SHURE(シュア)のSM7に向かってギャーッと歌ってね、3回ぐらい歌って「もう歌えません」みたいな(笑)。昔みたいに後先も考えずに歌いました。
――オリジナルは怨念じみた叫びというか、ただ大きな声を出してるというよりも情念みたいなものを感じます。なぜあの頃はそういう歌になっていたんだと思いますか。
後藤:俺たちは当時ですら周回遅れ感あったし、自分たちよりも若いバンドがバンバン活躍してるような感じのところで、やっと脱サラしてインディの入り口に手がかかったから。今みたいに誰もが自分で作って発表できる時代じゃなくて、レーベルに見つけてもらう時代だったから、ここで悔いが残ったら……と思ってたと思います。このミニアルバムで勝ち抜くんだ、みたいな気合いというか、背水の陣でやってたから。その感じは出てると思いますね。
――それで言うと、まさにあのミニアルバムで勝ったのかなと思います。
後藤:そうですね。当時はホームランだと思って作ったけど2塁打かもしれない、みたいな気持ちでいましたけど。キューン(Ki/oon Music)に買い上げられてからのサクセスっぷりっていうかね。いまだにどこの国に行っても「遥か彼方」が一番盛り上がったりするわけで、当時はこういう未来を想像してなかったです。
――それこそ『NARUTO -ナルト-』とはタイアップでも長い付き合いになって、今回のシングルコレクションは頭2曲(「遥か彼方」「宿縁」)が『NARUTO -ナルト-』と『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマなんですよね。
後藤:その対比はあると思うんですよね。「宿縁」は、サビで「遥か彼方」や「リライト」みたいに爆発させないで、どうやって疾走感を出すかみたいなトライではありました。ただ、(アニメ側からの)オーダーはたぶんほぼ一緒なんですよ。要は「リライト」みたいな曲をください、みたいな。そのお題にどうやって応えるかという問答を毎回違う形でやってる感じもありますね。
――「リライト」ってやっぱりそのぐらいの曲なんですね。アジカンの看板というか。
後藤:本当にそうですよ。アニメの主題歌はいっぱいあると思うんですけど、『四畳半神話大系』的なタイアップじゃない限りは、ずっと「リライト」大喜利をやってる感じです。
喜多:(笑)。
――改めて聴くと「リライト」はドラムが強烈ですよね。
伊地知:当時アジカンの中でBPM179が流行っていて。だからアジカンの曲にはBPM179って結構あるんですけど。
後藤:多いよね。それも「リライト」大喜利のおかげでもあるんですけど。
山田:「ソラニン」とかね。
後藤:あと、「サイレン」とか。
喜多:「エンパシー」もそう。
後藤:BPM179シリーズのアルバムを作りたいね(笑)。
喜多建介が選ぶフェイバリットソング
――それぞれDisc1とDisc2で自分のフェイバリットを挙げるとしたら、どの曲になりますか?
喜多:何にしようかなあ……Disc1は「今を生きて」。これは映画『横道世之介』の主題歌だったんですけど、本当に4人で作った感じの曲というか、作曲クレジットも珍しく4人になっているんです。まずゴッチ抜きの3人のセッションで土台を作って、ゴッチにメロディと歌詞をつけてもらったんですけど、うまい具合に「祝祭感のある音」という映画サイドのオーダーも汲み取りつつ、ライブの定番曲になった曲です。
――Disc2は?
喜多:最近改めてすごいと思うのは「ループ&ループ」。この曲は……すごいですよ。
後藤:すごい(笑)。
喜多:ゴッチの作る曲で、ゴッチ自身が好きな曲と僕らが好きな曲はちょっと違うとは思うんですけど、「ループ&ループ」はもっとすごい曲なんだよっていうのを常々言っているんですよね。ライブでもやりますけど定番にまではなっていなくて、もっとやっていれば「リライト」クラスの曲になったんじゃないかなって、僕は勝手に思っているくらいのポップセンスというか。作った時のコードリフのアイデアもそうですし、ゴッチのポップサイドの最高傑作のひとつなんじゃないかなと思います。
後藤:すごいコードリフだよね。よく考えついたなって思ったもん。で、これは『君繋』に入れなかったんだよね。
喜多:そう。『君繋』の時にできていたけど。
後藤:ぬるくなっちゃうから。
――ぬるくなる?
後藤:ポップすぎると思ったんです。『君繋』は1stアルバムならではの殺伐とした感じがあるけど、「ループ&ループ」は切羽詰まった感じとはちょっと違うチャンネルになったので、2ndアルバム(『ソルファ』/2004年)に入れようと思いました。
――確かにちょっと可愛げがありますね。
後藤:そうなんですよ。ここまで突き抜けたポップって、当時ロックバンドはやらなかったはずだから、ちょっとやりすぎじゃない? みたいな気持ちがありました。
山田:でもこの曲が好きって――。
喜多:いろんなミュージシャンから言われるよね。やっぱり評価されてる気がする。
山田:チリでやんなかったらさ、めちゃくちゃ書かれてたよね。なんでやってくれなかったんだって。
喜多:メキシコではやったもんね。
後藤:あと、あれだ。亡くなっちゃったけど、Fountains Of Wayneのアダム(・シュレシンジャー)が「なんであの曲、俺の曲じゃないんだ」って言ってくれたという。
――すごいエピソードですね。
山田:グレッグ・カルビも言ってた。「この曲がリードだろ」って。
喜多:ニューヨークでマスタリングした時にね。
後藤:そっかあ。「ループ&ループ」やろう。