Aile The Shotaの第1章はここから始まる TikTokでも反響集める「踊りませんか?」への特別な想い

Aile The Shotaにとっての“踊る”とは

 Aile The Shotaが、新曲「踊りませんか? (Prod. Chaki Zulu)」を7月3日にリリースした。自身が参加したSnowkの楽曲「Bubble feat. Aile The Shota」に続き、本曲の制作風景を収めた動画も大きな反響を集めるなど、TikTokを中心にリスナーの裾野を広げている彼。プロデューサー・Chaki Zuluとともに制作した「踊りませんか?」は、J-POPへの愛とダンサーというルーツへのリスペクトを詰め込んだ、今後の“Aile The Shotaのポップス”の指標となる一曲に仕上がっている。

 今回のインタビューでは、「踊りませんか?」の楽曲制作の裏側を聞きながら、ダンスオーディション開催の狙いや“踊る”という言葉への特別な想い、エンターテインメントを生み出す上で大切にしていることなどについて語ってもらった。(編集部)

TikTokでのバイラルヒットを受けて

ーーShotaさんが参加されたSnowkの楽曲「Bubble feat. Aile The Shota」がTikTokで累計再生回数1億回を突破し、音楽チャート1位を獲得したことは記憶に新しいです。多くのリスナーに支持された理由をどのように分析されていますか?

Aile The Shota:この曲のメロディと歌詞は、ビートをもらってから全て自分で作りました。いつも曲作りの際にどの引き出しを開けるかを考えるのですが、この曲では自分が聴いてきた2000年代のJ-POPの引き出しを多く使いました。歌詞は抽象的な表現を意識して、メロディラインは“美メロ”を狙いました。そこがTikTokユーザーに響いたのかなと思います。ただ、TikTok向けに作った曲ではないので、ここまで受け入れられた理由は正直わかりません(笑)。予想外のヒットというか、結果がついてきた曲ですね。だから、声をかけてくれたSnowkに感謝していますし、メンバーのNamyさんにも恩返しができたと思っています。Namyさんが携わっているAmPmやTokimeki Recordsの曲をリスナーとしても聴いてきたので。

ーー「Bubble feat. Aile The Shota」をきっかけに、ご自身の音楽が新しいリスナーに届いたという実感はありますか?

Aile The Shota:今はまだ実感がないんです。ただ、今後この曲をきっかけに僕を知ってくれた人がライブに来てくれるようになれば、きっと実感できると思います。他の曲同様にこの曲も妥協せずに作ったので、その想いが伝わっていたら嬉しいですね。そういう意味では、これまでの僕の曲はいつどれがヒットしてもおかしくないほど、自分でも好きな曲ばかりなんです。自分のアーカイブを振り返って聴いてもらえるいいきっかけにもなったと思います。

@ailetheshota

🫧TikTokで良い曲がバズってる🫧 Snowk / Bubble feat. Aile The Shota

♬ Bubble (feat. Aile The Shota) - Snowk

ーーニューシングル「踊りませんか?」をプロデュースしたChaki Zuluさんとの制作風景を収めた映像も、TikTokでバイラルヒットしています。この映像を投稿した経緯について教えてください。

Aile The Shota:この曲ができた時点で、TikTokへのアプローチは欠かせないという話がすぐに出ました。というのも、僕のこれまでの曲はTikTokのユーザーが画面をスワイプする速さでは伝わりにくいものが多かったんです。でも、この曲は僕の曲の中で一番受け皿が広いというか、多くの人に好きになってもらえる曲だと思ったので、TikTokでもしっかり展開しようと決めました。Chakiさんも動画への出演を快く了承してくれましたしね。もちろん、ここで満足してはいけないと思っていますし、今後これ以上の反響があることを期待しています。

@ailetheshota

今年日本中を踊らせるJ-POP作った。  「踊りませんか?(Prod. Chaki Zulu)」#踊りませんか #AileTheShota #newmusic #オリジナル曲

♬ オリジナル楽曲 - Aile The Shota - Aile The Shota

Aile The Shotaにとって重要な意味を持つ“踊る”という言葉

ーー「踊りませんか?」では“踊る”というモチーフが繰り返し使われていますが、このモチーフを選ばれた理由や、そこに込められた想いについて聞かせてください。歌詞からは“恋愛の終わり”を“踊る”という表現で言い表しているような印象を受けますが、この楽曲を通して何を表現したかったのでしょうか?

Aile The Shota:この曲は、Chakiさんとスタジオに何日も一緒に入って、メロディ、ビート、歌詞まで全て2人で作り上げたのですが、作っていく上で2つの軸となるコンセプトがありました。ひとつは、これまでのAile The Shotaの曲の中で最もポップな曲を作ることを念頭に置いた歌詞の世界観です。それがラブソングという形につながりました。もうひとつはラブソングの情景としてサビで描かれる「別れる前のラストダンス」というストーリーです。

 その中で“踊る”という言葉には、すごく重要な意味があります。僕の音楽の軸のひとつは、踊れるポップスを作ることなので。あと、能動的に人が踊るダンスフロアを作りたいという想いがあるので、そういう意思も込められています。僕からリスナーに呼びかけることで“踊る”ということをもっと身近に感じてもらいたいと考えました。

Aile The Shota「踊りませんか?」
Aile The Shota「踊りませんか?」ジャケット

ーーまさに〈踊りませんか?〉と呼びかけることを目的にした曲ということですか?

Aile The Shota:そうですね。さきほどTikTokでの先行公開の反響のお話もありましたが、この曲は聴いてくれた人の何かを変えている感じがするので、正解だったなと思っています。実は”踊る"というフレーズは、今まであえて使いすぎないようにしてきたんです。でも今回は、Chakiさんも「いいんじゃない?」と言ってくれたので使うことにしました。歌詞に関しては「これは伝わらないかも」とか「どっちがいいですかね?」といったやりとりを何日もして、「絶対にこれじゃなきゃ駄目だよね」という厳選したフレーズを繋ぎ合わせました。だから、全体的にはわかりやすい曲ですけど、緻密な部分も感じていただけるんじゃないかなと。

ーー これまで“踊る”というフレーズを前面に出してこなかったのはなぜですか?

Aile The Shota:“踊る”というフレーズは、当事者性が強すぎるというか。僕はずっとダンスと向き合ってきたので踊るという感覚が自然にある。でも一歩引いて考えると、「それは自分が踊る人間だからなのかな」と思ってしまう部分がありました。“歌う”という言葉も同じです。「Love」という曲に〈愛を歌って〉というフレーズがあるように使いたいときは使いますが、多用しないように気をつけています。“歌う”と“踊る”は僕にとって大切なものだからこそ、慎重に使いたいんです。ただ、今回は本当に自分の中でもこれ以上のタイミングはないだろうと思って使いました。

ーー「踊りませんか?」を聴いていると、UKガラージを思わせるノスタルジックな雰囲気とダンサブルなビート、そして切ない印象の歌詞が印象的です。この曲調と歌詞の組み合わせはどのように生まれたのでしょうか?

Aile The Shota:僕とChakiさんの間でUKガラージがいいんじゃないかという話になりました。曲を作り始めたのは1年以上前で、音楽シーンでもトレンドになっていたのですが、その中でもオンリーワンな感じにしたいと思っていて。それでキックの鳴るタイミングを少し癖のある感じにしてみたり、ドラムの音を単体で聴くとかなり特徴的な鳴り方にしたりしています。コードはChakiさんがピアノで探ってくれて、それを聴きながら僕がイメージを膨らませて、お互いに意見を伝え合いながら作っていきました。歌詞に関しても、僕が一気に書ききるのではなく、メロディを流しながらコードと同じように2人でキャッチボールをするように作りましたね。

ーー あらかじめ用意された曲に合わせて歌詞を乗せていくような形ではなく、2人の間のやりとりから生まれた曲ということですね。

Aile The Shota:そうですね。そこがChakiさんとのセッションの好きなところなんです。本当にストイックに音楽に向き合えるから自分も成長できます。踊れるポップスを作ることに真摯に向き合ってもらえたことで妥協せずに作れました。

ーー他にも制作過程で特に意識したポイントはありますか?

Aile The Shota:この曲って、Aメロとサビ以外はキックとピアノしか入っていないストイックなトラックなんです。一方で、サビはめちゃくちゃ音数が多い。さらに、Chakiさんプロデュースだから、ビートとベースの鳴りはヒップホップ。そのバランスにこだわりましたね。メロディと僕の歌はポップソングの作り方ですが、あくまでもクラブでかっこよく聴こえる鳴り方になっている。それは僕が低音の鳴りをすごく求めるからなんですけどね。結構ヘビーな低音の鳴りになっているところがポイントだと思います。それに加えて最後に転調するという、Aile The Shotaの原点にある、先ほどお話しした時代のJ-POPの特徴を取り入れています。いい意味でのあべこべ感というか、その2つが混ざっている感じというか。今回は僕がやりたいJ-POPを、Chakiさんにビートで教えてもらっている感じがありました。

ーー 確かにJ-POP、それこそヒットチャートに入ってくるような曲には、低音から攻めてくるような感じの曲はあまりないと思います。

Aile The Shota:そうなんです。そこはしっかりと自分のルーツとして忘れないようにしたいし、ダンサーというバックグラウンドがあってのものだと思うので。さらに言えば、僕の音楽性はJ-POPを聴いて育ってきたところからダンスがきっかけでクラブミュージックに傾倒して、クラブミュージックにこそ自分の音楽があるべきという考えに至った結果、形成されました。そのことを考えると、やっぱり曲の重心は低音部分に置いておきたいんですよね。

ようやく形にすることができた“心がキュンとするJ-POP”の手法

ーー メロディに関してはいかがでしょうか?

Aile The Shota:今回は特にメロディにこだわりました。これまでR&Bやヒップホップのプロデューサーとよく曲を作っていたので、ピアノのコードと密接に関わりながら曲を作る形でのセッションはあまりなかったんです。でも、今回はChakiさんと一緒に「このコードのこの音にいくメロディにしたい」という部分で何度もやりとりを重ねて試行錯誤しながら作っていきました。僕がすごくいいメロディだなと思う、心がキュンとするJ-POPは、たいてい曲のスケールで白鍵を中心に演奏しながらもちょっとだけ黒鍵が使われています。その黒鍵の音は、音楽理論的に言うと通常はアボイド音(避けるべき音)なんですけど、この音をあえて使うことでそういった魅力的なメロディが作れるんです。

 今回の曲で言うと〈ここが最後の楽園だから〉という歌詞のパートは、通常のスケールでは使わない音を効果的に使っています。これがメロディの魅力を高めているのですが、同時にオートチューンが使えない理由にもなっています。オートチューンは、例えばこの曲のキーがDだとすると、Dスケールに含まれる白鍵7音の範囲内で音程を自動的に補正してくれるものなんです。でも、僕が好きなJ-POPの心がキュンとする瞬間は、まさにその7音から外れた音が絶妙なタイミングで使われています。こういった効果的な音の使い方って、めちゃくちゃ難しいんですよね。でも、今回はまさに僕が好きなJ-POPのようにキュンとするメロディが作れたと思っています。あとは歌い方と声の出し方に関してもChakiさんから「ここはもうちょっと感情を入れていいんじゃない?」というような細かいディレクションもあって、全体的に聴き手に寄り添うように作っています。

ーー オートチューン普及以前のJ-POPのメロディに思い入れがあるということですか?

Aile The Shota:そうですね。ただ、僕はどちらも好きです。オートチューンが流行ったことで生まれた日本のメロラップにも自分のルーツがあります。特に2017年頃、僕はそういう曲を一番多く聴いていた時期でした。でも今回はオートチューンを使わない選択をしたことで、もともとアイデアとしてあったメロディをようやく形にできました。ヒットチャートに入っている曲の中にもこういうメロディの作り方をしている曲はあります。でも、ヒップホップにはまだあまりありません。特にラッパー自身がメロディを作る場合は一般的ではないと思います。ただ、そこをあえて狙って作ったというよりは、先に作ったサビから引き算しながら作っていったことで必然的にそういう作り方になりました。

ーー 今回の作り方は今後の曲作りの参考になりそうですか?

Aile The Shota:参考になりますね。「踊りませんか?」は、“Aile The Shotaのポップス”の指標になる曲だなと。今後はこれと同等、あるいは超えるようないいメロディを生み出していかないといけないので、曲作りのハードルがグッと上がりましたね。

『Aile The Shota Oneman Tour 2024』

ーー 「踊りませんか?」は、6都市を巡るツアー『Aile The Shota Oneman Tour 2024 “odorimasenka”』を象徴する曲とお聞きしています。

Aile The Shota:ライブでは自由に曲を聴いてもらいながら身体を揺らしてもらうのが一番だと思っています。聴き入るというよりはグルーヴに身を任せてみなさんが踊ることに期待しています。ぜひ僕と一緒に踊ってくれたら嬉しいです。

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