清水美依紗、次なる一歩を進むための「Wave」と「Home」 父との別れを経て生まれた歌手としての自覚

 ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』への出演や初のソロツアー開催など、清水美依紗の2024年上半期は非常に充実したものだった。そのなかで届けられた新曲「Wave」は、TVアニメ『僕の妻は感情がない』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマ。「Wave」と同時期に制作していた「Home」は、“父の死”と向き合いながら作った楽曲だったという。そして、「Home」の歌詞を書いている時に「Wave」が“降ってきた”と――。「何のために歌手をやっているのか」という自問自答を経て、今彼女は何を見つめているのか。制作背景から近況、さらなる次のステージまで、一つひとつ丁寧に語ってくれた。(編集部)

自分がずっと抱えていたものすべてを歌詞に「これが私の本来の姿」

――早いもので今年も半年が過ぎましたね。2024年の上半期はどうでしたか?

清水美依紗(以下、清水):とにかく怒涛でしたね。2月から4月までミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』に出演したり、舞台が終わった直後には初めてのソロツアー(『Cherish』)があったり……とにかく目まぐるしい半年でした。

――印象に残っていることはありますか?

清水:世界で初めて『ジョジョの奇妙な冒険』の「第1部ファントムブラッド」を舞台化した記念すべき作品に参加させていただいて。いろいろありながらも、スタッフさんたちと一致団結して作り上げた作品だからこそ、思い入れが強かったです。歌手活動で言うと、先ほどお話しした東京と大阪でのツアーも開催しました。20曲近く披露するステージを連日行うのも初めてでしたし、大阪でライブをするのも初めてだったので緊張しました。去年11月に初のソロライブ(『Style』)を終えて、また新しくイチから作ったステージを届ける作業はミュージカルと並行していたぶん、かなり苦労しました。でも、終わったあとの達成感はとてもありました。

――ライブの話が出ましたが、父の日(6月16日)にYouTubeに公開された「Home」の映像が感動的でした。

清水:ありがとうございます! あの映像は、恵比寿ガーデンホールで開催した『Cherish』ツアー2日目の様子です。思えば……闘病中だった父が去年の秋に亡くなって、そこからすぐに「Home」の歌詞を書いていくという作業は、自分にとってとても苦しいことだったんです。いろいろな場所やイベントとか、『Cherish』ツアーもそうですけど、ステージで「Home」を歌わせていただくうちに、父の死を少しずつ受け入れつつ、この曲を通して皆さんに“家族の大切さ”を届けられていると思えるようになって。父の日に「Home」のライブ映像を公開したのは、大切な人と一緒にいられているあいだに、みんなが誰かに感謝や想いを伝えていただけるといいなと思ったからなんです。

清水美依紗「Home」(2024年5月8日『Cherish』@恵比寿ガーデンホール)

――映像を拝見して、一言一言を噛み締めながら歌われているように見えました。あの時、歌いながら清水さんはどんなこと考えていたとか、どんな景色が見えていたんだろうと思って。

清水:歌っていくうちに「Home」を届ける目的が、私のなかで毎回変わっていって。「自分に帰る場所がある」というホームでもあるし、「血の繋がりだけが家族じゃない」っていうホームでもある。私はこうやってライブができる場所、それを観に来てくれているファンがいるという新しいホームがこの曲を通してできたとすごく感じていて。曲自体は亡くなった父に向けて書いたんですけど、あのライブでは新しいホームを作ってくれたファンのみなさんに向けて歌いました。

――そんな「Home」と同時期に書いていたのが、今回の新曲「Wave」ですね。

清水:はい。「Home」の歌詞を書いている時に降りてきた楽曲でした。感情を波に見立てて書いた曲なんですけど、「Home」であまり受け入れられていない自分の感情を「Wave」を作ったことで受け入れられたというか。なので「Home」から「Wave」に私の感情も繋がっていますね。

――この2曲を書こうと思った理由や、どういう状況で書いていたのか覚えていますか?

清水:私の楽曲にバラードがなかったので「バラード曲の制作をしよう」という話がチーム内で出ていたんですね。そのタイミングで父が亡くなって……それを(曲に)書くべきなんだろうけど、書きたくない気持ちもあったんです。でも、「私は何のために歌手をやっているんだ?」と自分の心に聞いたら「実体験から感じたことを歌詞にするべきだ」という答えが出てきた。すごく矛盾を抱えているなかであの歌詞を書いたんです。

――心の整理がついていないけど、なんとか曲にしようと。

清水:はい、感情っていつか忘れていくじゃないですか。スタッフさんに「世間に発表するかどうかは置いといて、書き留めることは大事だよ」と言ってもらえて。苦しいけど、嫌だけど、それがやらなきゃいけないことだなと自分で思って書きました。この矛盾を抱えながら書いた曲を形に残せたことは、自分のなかで非常に大きくて。特に「Home」は人前で歌っていくなかでいろんな人に届いている実感を得られたし、まだ「Wave」はライブで数回しか歌っていないんですけど、ファンのみなさんから「とてもいい曲だった」と言ってもらえて。曲を書いている時は辛かったけど、あたたかい声をいただけてよかったなと思います。

――個人的な印象ですけど、「Home」は、いなくなってしまった“貴方”は自分にとってどんな人なのかを歌っているように感じたんですね。つまり曲を聴きながら、“貴方”という存在が見えた。逆に「Wave」は、“貴方”を失った自分のことを描いている。ひとりになってこれからどう生きていくのか、自分は幸せになっていいのだろうかなど、さらにデリケートな心の機微を描いているように感じました。

清水:本当に、言っていただいた通りです。自分がずっと抱えていたものを全部歌詞にして「これが私の本来の姿」という感じがしますね。

――人生の大きな局面で書かれた「Wave」が、TVアニメ『僕の妻は感情がない』(以下、『僕妻』)のエンディングテーマを務めると知った時、どんな気持ちになりましたか?

清水:『僕妻』も家族に繋がるお話なんですよね。「Wave」がこんな素敵なアニメのエンディングテーマになったことを考えると、あらためて自分の気持ちを裸にして曲を書いて良かったなと思いました。自分の思ってることとか実体験を歌詞に書いて人に披露するのって、すごく怖いことなんです。でも、それが『僕妻』という心があたたかくなったり、考えさせられたりする作品に関わることができて嬉しいです。

――『僕妻』は一人暮らし3年目のサラリーマン・タクマが、家事ロボットのミーナを購入するところから物語が始まります。そして人間とロボットという一見ちぐはぐな夫婦のふたりが、一緒に過ごすことで互いを知っていく内容になっていますね。アニメのエンディング曲ということで、もともと書いていた歌詞に少し手を加えたそうですね。

清水:そうなんです。でも、思っていることや言ってることはそのままで、変えたのはニュアンスを少しいじった程度。それぐらい作品とマッチしていたんだなと思います。『僕妻』の制作チームの方々が「Wave」から何か感じ取ってくださったんだろうなとも思いましたね。

『僕の妻は感情がない』ノンクレジットエンディング映像:清水美依紗「Wave」

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