10-FEETらしいロックを貫くために研ぎ澄ませた熱量 「第ゼロ感」の先で再認識したバンドの核心

 10-FEETがアルバム『コリンズ』(2022年)以来のパッケージ作品となるシングル『helm'N bass』を7月3日にリリースした。その間、言わずと知れた「第ゼロ感」の特大ヒット、『第74回NHK紅白歌合戦』での名演などを経て、今年4〜5月には自身初のアリーナワンマン『10-FEET ONE-MAN LIVE 2024 〜急なワンマンごめんな祭〜』を京都・横浜で開催。結成25周年を超えた先で、見事に大輪の花を咲かせてみせた。

 今回の『helm'N bass』は、そんな10-FEETの原点であるミクスチャー性が炸裂したシングル。強力なレゲエ調から始まる「helm'N bass」は一見トリッキーな展開でありながら、混ぜ込むことでピュアな感情を爆発させてきた10-FEETにとっては、むしろ直球と言っていい1曲。ただ、直球としての鋭さと奥深さにますます磨きがかかっている。歓喜と悲哀の間にある淡い色合いの感情を叫ぶ歌が、「アサヒスーパードライ x 3x3.EXE PREMIER」応援ソングとしてフィットしているのも、10-FEETが悔しさや寂しさ、やるせなさと向き合うことで、心と心をつなぎ止めるロックを鳴らし続けてきたからだ。かつてない形で絶好調を迎えたからこそ、いかに己のストレートと向き合ったのか。10-FEETの今について、3人にじっくり話を聞いた。(信太卓実)

“「第ゼロ感」の次”であることをいかに意識しないか

――「helm'N bass」はイントロからガッツリとレゲエ調で、そこからギターサウンドに開けていく展開になっていて、新しい形で10-FEET流のストレートを投げている曲だと思いました。

KOUICHI:こういう出だしの曲って最近あまりなかったので、こういう案を(TAKUMAが)持ってきてくれて純粋にいいなと思いました。特に最後のアウトロが叩いていて気持ちいいところですね。

――より生演奏感が強まるレゲエ調のパートですよね。

KOUICHI:またイントロに戻ったような感じになるのが面白いし、そこでビート感をしっかり出すのが僕の重要な役割なので。

――NAOKIさんはいかがですか。

NAOKI:いわゆるレゲエっぽいパート以外のところが、今まで10-FEETでそんなにやってこなかった世界観で新しいのかなと思いました。特にサビのメロディとかそうですけど、ちょっと色気のある感じ。その雰囲気を損なうことなく、メロディをベースラインで増幅させて、引き立たせられたら面白いかなと思いながら弾いてました。そういう部分とレゲエ調をうまく組み合わせることで、全体的にいいバランスの曲になってるのかなと思いますね。

――今回のシングルは、アルバム『コリンズ』の次に出るパッケージであり、世の中的には「第ゼロ感」の次という捉えられ方をする作品でもあると思います。表題曲にはバスケ関連のタイアップ(「アサヒスーパードライ x 3x3.EXE PREMIER」応援ソング)もついていますが、TAKUMAさんはそういった状況をどのくらい意識していたんでしょうか。

TAKUMA:ある意味、それをいかに意識しないかっていう制作だったかもしれないです。自分たちがやりたいことに心に耳を傾ける。それが一番大事なんやろうなと思っていました。ホンマにあれこれ考えず、今鳴らしたいことをガーッとやったらこんな感じ、みたいな。

――「第ゼロ感」以降のバンドの姿と、もともとのバンド本来のよさ、そのバランスを取ろうとしている部分もあった?

TAKUMA:いや、そういう意識さえしないということですね。意識しないと言ってる時点で、意識してるやんみたいな世界なんですけど、たとえこの次もヒット曲になったとしても、そういうことを意識して作ってたら、俺ら(らしさ)が出ないと思っているので。それって経験すればどうにかなるものではなく、俺らは向いてないなって思うんですよね。「第ゼロ感」がヒットして、バラードとかでさらにバカ売れして……とか、そういうことを狙ってできるバンドじゃないというのは、俺ら的にはもう20年ぐらい前に答えが出ているから。とにかく狙わない。そして今できるかっこいい曲を作るってことはどんな時もブレないようにしています。

TAKUMA

――なるほど。

TAKUMA:別に突き放すようなつもりはないですよ。実際にそうやって売れて、もっともっとスターダムをのし上がっていく人がいるのもわかるし。ただ「第ゼロ感」からもう一段ガツンと有名になって、大ヒットを飛ばして……みたいなイメージって、本当に俺らの音楽作りには関係ないなと改めて思ったんです。『helm'N bass』が大コケしようが、自分らのスタンスが崩れたらアカンなという思いが強かったので、「第ゼロ感」の次っぽくなかったとしても、俺らがかっこいい曲やと思ったならそれを出すべきやなと。ただし、かっこいい音楽、かっこいいロックを作りたいという思いはもっと強くなっていたので、そういう自分たちが取り組むのにふさわしい曲へと、迷わずナチュラルに向かっていけました。

――“ヒット曲”と“かっこいい曲”を意識することの違いであり、前者を狙っていくことは10-FEETには向いてないということだと思うんですけど、かっこよさの基準というのは?

TAKUMA:うーん……自分たちのこれまでの制作の延長線上にありながら、その最新の作り方になっていないといけなくて。必ずしも真新しい表現でなくても、自分たちが前進できていると思ったら、それがきっといい音楽になるんじゃないかなと。今回はそのベストな形をチョイスしていけたと思います。

10-FEET - helm'N bass (アサヒスーパードライ × 3x3.EXE PREMIER 応援ソング)

「helm'N bass」に求められた“肩の力を抜いて投げる集中力”

――とはいえタイアップというお題はあるわけですが、「helm'N bass」が「アサヒスーパードライ x 3x3.EXE PREMIER」応援ソングであることにはどのように向き合ったんでしょう?

TAKUMA:制作を進める中で、「ここが寄り添えるな」「ここがメッセージの重なる共通点やな」と思えるところがあれば、そこで応援ソングっぽくしていければいいんじゃないかと思っていました。タイアップのテーマを軽んじているわけでは全くなくて、「今回の曲、タイアップのことを歌詞で歌ってないし、楽曲も全然タイアップっぽくないけど、信じられないぐらいかっこいい曲ですね」って言われることをまずやるべきやと思ったんですよ。「めちゃくちゃテーマに寄せてくれてるけど、なんかインパクト薄いな」じゃダメだと思うし。そこを120%クリアできた上で、やれるところがあれば「この部分で(タイアップ先と)コラボしましょう」って考えるような心構えです。映画『THE FIRST SLAM DUNK』の後にまたバスケ関連のタイアップの話をもらえるのはありがたいですし、『京都大作戦』では3x3の試合もやってますから、すごく縁を感じていて。ただ、そこに全力で答えて結果を出していくには、それを意識しないことが一番だと思っているので。いい時の自分たちを出すことに集中できていたと思います。

――ドラムンベースをもじったような「helm'N bass」というタイトルも、そのことに関係した言葉なんでしょうか?

TAKUMA:「helm'N bass」はオリジナルの造語なんですけど、舵を取るっていう意味のhelmから取ってきているんですよね。自分たちの指針であり、ベーシックな方向性として、「ブレずにかっこいいと思うものを信じていこう」という思いが込められていて。ドラムンベースではないんですけど、そこにレゲエ調の低いベース音を掛け合わせてます。

NAOKI

NAOKI:『コリンズ』以降、順番としては最初に「Re方程式」ができて、次に「gg燦然」、最後に「helm’N bass」ができていったんですけど、全くカラーの違う制作を通して、10-FEETが今までやってこなかったことを少しずつ重ねてきた結果生まれた曲が「helm’N bass」だと思っているので。今こういう曲が仕上がったのはすごく大きいことに感じます。

――「gg燦然」は大胆なテンポチェンジからサビへと開けていく展開含め、先日の横浜アリーナ公演で聴いていても明確に新しさを感じた曲でした。「2024 ABCプロ野球テーマソング」であり、勝利を歌うためにその“裏側”までしっかり捉えた10-FEETらしい願いの曲だと思ったんですけど、どのようにイメージを膨らませていったんでしょうか。

TAKUMA:この曲も1行1行、それぞれに想いを乗せてるというか……全体をつなげて書いているわけではないんですよね。スタジオに1人で入って適当にギターを弾く時って、好きなリフしか弾かへんし、そういう時にこぼれるものを音や歌詞にしていきたいと思ってやっていて。この曲を作ってた時期もそれが大事やなと思っていたんですよ。今回はそういう曲を積み重ねていますね。

10-FEET - gg燦然 (2024 ABCプロ野球テーマソング)

――バンドとして25年以上もキャリアがある中で、たくさんの試行錯誤を繰り返しながら新曲を生み出してきたと思うんですけど、だからこそ今、“好きなリフを弾いて新曲を作る”って、シンプルゆえにすごく難しいんじゃないかと想像するんです。それができるのはどうしてなんでしょう?

TAKUMA:そうやなあ…………新しい曲を作っていく上で、それがライブのセットリストで「RIVER」とか「CHERRY BLOSSOM」とか「VIBES BY VIBES」とか「その向こうへ」とか「蜃気楼」とかを押しのけるほど必要になってくる曲なのかって考えた時に、絶対にそうなる曲を作らなあかんと思うんですよね。新曲を出して、ツアーの時期だけライブでやって、ツアーが終わったらもうやらない曲になっていっても別にあかんことはないし、他に求められている曲がたくさんあるならそれでいいんやけど、やっぱり作る側としては、新しい曲が常に一番かっこよくなるのがいい気がするので。そういう思いは捨てたくなくて。

 けど、それもさっきと同じで、俺らは狙ってできるわけじゃなくて。まあ狙い続けたらできるようになるのかもしれんけど(笑)。「今の俺らはこんな感じや」と3人で気持ちよく演奏できる曲であることが一番。それが今までにない変化球だったら楽しい場合もあるけど、計算通りにいくものではないし、そもそも計算してやることでもないと思ってるので。バンド内でアレンジする時も、例えば僕から発信したネタに対してベースとドラムのフレーズが返ってきた時に、「俺がやってほしかったことはそれじゃないねん」って一瞬思ったとしても、「いや、むしろ俺が思ってたやつよりそっちの方が全然ええやん。それに変えよっか」みたいな、そういうバンドらしいことが起こる可能性が一番あるのは、やっぱり「あれやりたい」「これやりたい」と素直に思えている状態の時やと思うから。タイアップとかヒットに惑わされず、貫いていければいいんじゃないかなっていう思いが詰まってますね。

KOUICHI

――先ほど「20年ぐらい前に答えが出ている」という話もありましたけど、自分たちがそういうバンドなんだと、ある意味で開き直れたのはどうしてだったんでしょう?

TAKUMA:どうかなぁ……開き直るというか…………絶対そういうつもりで言ったわけではないと思うんですけど、どうにでもなれと思ってやっているわけではないし、曲に対して気軽に考えているわけでもない。ものすごく集中して音楽を作っているんですよ。だけど、「ここ数年で一番ええボールを投げられたな」と思える時は、やっぱり肩の力が抜けている状態なんやと思うので。開き直りでもリラックスでもなく、「めちゃくちゃ力強く放るために、めちゃくちゃ力抜いてんねん」みたいなことなんですよね。そのためには集中力と強い思いが必要で。ただ、それを狙ってやることはできへんから、「情熱を出すことにものすごく集中せなあかん」という状況で作ったのが「helm'N bass」ですね。

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