AA= 上田剛士×碇谷敦、再タッグの『餓狼伝』で与え合った刺激 格闘の“内面”を描く表現への挑戦
ストーリーを基にした音楽制作のこだわり
――キャラクターデザインの部分でも、現代的にアップデートする必要があったはずですよね?
碇谷:ええ。最初、藤巻はやや暗いイメージだし、ちょっと武骨な感じなので、あんまりカッコよくない感じで描いてたんです。ただ、そこでみんなから「なんか主人公っぽくないね」と言われて(笑)、そこから少しずつ、実際の格闘家とかもイメージしながら作っていった感じでした。逆に、もう1人の主要人物にあたる丹波文七はものすごく漫画のキャラクターからの影響を受けています。そういった部分でのさじ加減も難しいところでしたね。
――上田さんの音楽の作り方としては、今回の手法は特殊なものではないですよね? ストーリーに基づいて音楽を作るというのは、それこそ『story of Suite #19』にも重なるものですし、得意技の1つでもあるはずです。
上田:そうですね。お題をもらって、それに沿ってモノを作るというのは好きですし。
――物語が提供されてそれに沿って音楽を作っていく時と、ストーリー自体も自分で組み立てながら作っていく場合とでは、発想のあり方も違ってくるんでしょうか?
上田:たぶん違いますね。どう違うのかについて説明するのは難しいんですけど、今回の場合は、自分だけだったら開いてないはずの扉を何度か開けたというか。今回のように監督の意向を踏まえながら作る時と、自分1人で考えたものを基にバンドメンバーとやっている時とでは、またちょっと違うところが開く感じがありますね。
――ちなみに碇谷監督には、ご自身で音楽を手掛けてみたい願望は?
碇谷:まったくないです。自分で音楽をやろうと思ったことは一度もなくて、それこそ演奏したことがあるのもリコーダーぐらいなので(笑)。音楽の嗜好についてもすごく漠然としていて、何かを提示されて「おっ、これはカッコいいな」という感覚で好きになることのほうが多いですね。やっぱりどうしても絵を描く方にまず気持ちが向かってしまうので、それ以外のことはプロの方にお任せしたいと思っています。
――ただ、格闘技については心得がおありのようで。
碇谷:実は今回のことをきっかけに柔術を始めたんですよ。もう1年ほど通っていて、今日も行ってきました(笑)。それこそ手のクラッチの仕方とか、そういう細部のことは自分で実際にやってみないとわからないんじゃないかなと思って。まあもともと興味もあったので、これを機にやってみようと思って始めてみたところ、見事にハマってしまったわけです。今では仕事と関係なく取り組んでますね(笑)。
――なるほど。そして、ストーリー自体を離れたところで、この作品を通じて伝えたいことというと?
碇谷:格闘技を映像化する場合、やっぱり日本のアニメでそれをやるとカンフーアクションのような方向になりがちなところがあって。だけど実際にはいろんな技があって、なおかつそれが進化してきているわけです。そういう部分もこの映像の中に反映させているので、「ああ、こんな技もあるんだな」みたいなことを知ってもらいつつ、格闘技に興味を持ってもらえたらいいなと。実際、ビックリするような技も結構出てくるので、それも含めて楽しんでもらえるはずだと思います。
上田:楽しみだなあ(笑)。僕自身は(取材時点では)まだ、全編を観ているわけじゃないので。
“原作リメイク”の難しさと面白さ
――そして今後の話ですが、『錆喰いビスコ』『餓狼伝』と続いてきたおふたりのコラボレーションは、ここで終わるべきものではないように思います。
上田:もちろん。お声を掛けていただければ、どこへでも飛んでいきますよ(笑)。僕としては、今回も劇伴という形でやっているので、決して今まで自分がやってきたようなものばかりではないところがあるんです。先ほども話したように、場面のイメージに沿ったものばかりではなく、もっと心情的な描写というのもある。そういうものを作るのは、自分的には新たなチャレンジというか、取り組んでみたいものの1つでもあったので、今回はまず単純にそこが楽しかった。ただ、心理的な部分についても、どこまでそれを音楽で表現するのが正解なのかというのが、自分にはまだわからないところがあるんですよ。音で物語を説明する感じになってしまうのもまた違うだろうし、何よりも大事なのはそのシーン、その世界じゃないですか。それを邪魔するようなことになってしまっては本末転倒だろうし。そこでのさじ加減がまだ自分ではよくわからないところもあったので、いろいろ作ってみながら、やり過ぎていないかどうか聞いてみたこともありました。普段、自分では音楽自体が主役のものしか作ってないので、そこから作り方が全然違いましたし、すごく新鮮で面白かったですね。
――しかも劇伴について言うと、それこそ悲しいシーンに悲しい音楽が流れればそれでいいというわけではないですもんね。
上田:それが求められる場合もあるとは思うんですけどね。でも全体の中でのそのシーンのイメージをわかっているのは監督だけだし、自分としてはそれをなんとなく想像するしかないので、「これで合ってるかな?」という不安が常にあるわけです。だから「もしも違ってたらどんどん駄目出ししてくださいね」という感じでした。実際、いくつか「ここはちょっと変えてみてほしい」とお話をいただくこともありましたし。
碇谷:そこでのこちらの要望も、いわゆるさじ加減の部分でしたけどね。
――監督ご自身、今作が完成したことで、次に作りたいものが出てきたんじゃないですか?
碇谷:今回はスピンオフ的なものなので、できることならこの物語を一からやりたい、最初からやってみたい気持ちもあります。藤巻だけじゃなく、他の登場人物の物語も作れるはずですし、今回も本来の主人公である丹波の話がほとんどできていないので。僕自身も原作のファンなので、「なんで丹波が出てこないんだよ?」という疑問の声が出てきてしまうんじゃないかな、と思ってますし。
――好きだからこその難しさもありますよね。そのままリメイクするだけでは気が済まないし、原作を壊してしまいたくないという思いもあるはずで。
碇谷:そこなんですよね。その点はやっぱり、脚本の方ともすごく悩んだんです。というのも最後は藤巻が負けてしまうので、その終わり方はいかがなものなのかと。ただ、結果的にはいい感じに落着したように思います。そこは音楽の力もあってのことですね、しっとりと感動的な終わり方にできたので。
上田:逆に、原作だとそこが描かれていない。だからすでに原作を読んでいる人も新鮮なものとして楽しめるだろうと思うんです。こういうストーリーがあったのか、と。原作の流れとは違う時間軸があるというか。そこもこの作品の面白さだと思いますよ。
――上田さん自身は昨年、個人名義でのカバーアルバム。『TEENAGE DREAMS』を発表していますが……。
上田:あれは趣味です。作っちゃっていいのかな、みたいな気持ちで作りました(笑)。
――まさにルーツが垣間見られる作品でしたが、それを経た今はAA=としての新たな流れの起点ということになるはずですよね?
上田:そうですね。そういう意味では……コロナ禍の時期があって、そこでも『story of Suite #19』というアルバムを作ってはいるんだけど、あれはあくまでその時期を象徴するようなものだったわけです。だから自分たちらしい姿、本来のロックバンド、パンクバンドとしての姿でやるのは数年ぶり。そういう意味では、このシングルは自分自身の目を覚ます上でもすごくいい作品になりましたね。これを作ったことによって、まさに次に向けてのスイッチが入った感じです。
■リリース情報
AA=『FIGHT & PRIDE』
2024年5月23日(木)配信リリース
Linkfire:https://jvcmusic.lnk.to/FIGHTandPRIDE
<収録曲>
M1. FIGHT & PRIDE
M2. CRY BOY
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■タイアップ情報
Netflixシリーズ『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』
2024年5月23日(木)配信
原作:夢枕獏『餓狼伝』(双葉社刊)
監督:碇谷敦
制作:NAZ
音楽:上田剛士(AA=)
配信ページ:https://www.netflix.com/Garouden