連載「lit!」第104回:Mrs. GREEN APPLE、SEKAI NO OWARI、sumika……ピアノが彩る最新ロック5選

 少し前だが、音楽番組でキーボード特集が組まれているのを見て、「そういえばキーボーディストがいるバンドって増えたな」と思ったことがある。個人的には、鍵盤が入ることでサウンドによりポップさが増し、普段あまりバンドの音楽に触れない人も聴きやすくなるように思う。

 この春から始まったTVアニメやドラマ、公開される映画の主題歌にも、こうしたピアノがいるバンドの楽曲が多数見受けられる。本稿では、5月にリリースされた新譜を紹介したい。

Mrs. GREEN APPLE「Dear」

 6月14日に公開される映画『ディア・ファミリー』の主題歌。映画は、心臓疾患を持つ娘を救うために人工心臓の開発に奮闘する家族の実話を元にしたもの。そのストーリーに寄り添うように、「Dear」では“生きていくこと”という大きなテーマが扱われている。〈扉の先〉=未来、〈足跡〉=過去という時間軸が冒頭で歌われるなかで、サビで放たれる〈私は今日も生きてる〉というメッセージ。誰しも必ず人生には終わりが来るが、かといってそれまでを投げやりに生きるのは少し違う。メンバーが「地に足がついて芯が一つ通っているような楽曲」とコメントしているように、“今ここで生きていく”という確かな意志が、力強いバンドサウンドによって表されているように思う。

Mrs. GREEN APPLE「Dear」Official Music Video

SEKAI NO OWARI「Romantic」

SEKAI NO OWARI「Romantic」【Official Audio】

 19歳・29歳・39歳という各年代のラストイヤー=“9ボーダー”である女性3人のストーリーを描くTVドラマ『9ボーダー』(TBS系)の主題歌。Fukaseの綴る歌詞が秀逸で、〈幸せが何かなんて笑わせないで/それはセロトニンよ〉〈白馬の王子様なんて/ダサいしキザだわ〉と、「Romantic」というタイトルとは裏腹に、この曲の主人公は現実的で物事に冷めている。それもそのはず、冒頭で〈魔法が解けてどれくらい〉とあるように、歌われているのは“白馬の王子様は現れない”という現実を知ったあとのことだから。しかし、最終的には新しい出会いを予感させるような締めくくりになっているのが面白い。年齢を重ねてさまざまなことを諦めそうになった時、強がりを捨て、まだ夢見ることを肯定してくれるような一曲。

sumika『Unmei e.p』

sumika / 運命【Music Video】

 TVアニメ『ダンジョン飯』(TOKYO MXほか)第2シーズンオープニング主題歌の「運命」を含む4曲入りのEP。「運命」のようなカラフルな楽曲群から、sumikaは世間的には明るいイメージを持たれがちだが、実際はどんな困難にも挫けず必死に起き上がる、いわば泥臭いバンドだと個人的には思っている。昨年、片岡健太(Vo/Gt)が急性声帯炎によって活動を一時休止していた際、バンドは小川貴之(Key/Cho)がボーカルを務める荒井智之(Dr/Cho)との2人形態の“sumika[roof session]”としてライブ活動を行った。そのことは、小川の歌唱となる本作の「いつかの化物」にも活かされている。「運命」で〈ミステイクもユーモアさ〉と歌っているように、いくつもの苦難を乗り越えてきた経験を武器にするsumikaが、今後もどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。

関連記事