椎名へきるはこれからもファンと一緒に歩んでいく ハーモニーを奏で続けた30年記念作品&ライブインタビュー

椎名へきる、30年記念作品&ライブを語る

リアレンジ3曲の選曲理由 特に思い入れが強い1曲も

――その理由について1曲ずつご説明いただけますでしょうか。まず「空をあきらめない」は、1996年に発表された4thシングルの表題曲です。

椎名:「空をあきらめない」はもともと管楽器が前面に押し出されている楽曲なのですが、今の自分のバンドがツインギター、ベース、ドラムスという体制なので、その編成でかっこ良くライブができるアレンジに作り直したくて、今回リアレンジすることにしました。今まで管楽器のパートはオケを使用していたのですが、それを生の演奏で新しく表現したいとなったときに、ハードロック好きの私としては、ツインギターでゴリゴリに押すイントロから始まったらハードなメタルっぽくてかっこ良くなると思ったんですね。「ここはストラトじゃなくて低音の響くレスポールでいきましょう!」「イコライザーをガンガンにかけて歪ませてください!」と力説して(笑)、とても素敵なアレンジにしていただきました。

――さすがギターサウンドへのこだわりが強いですね(笑)。実際に原曲と比べて非常に骨太なアレンジに仕上がっています。

椎名:ゴリゴリにしていただきたかったので(笑)。この楽曲は自分の活動の中では少し異色の曲で、それまでの私の楽曲の流れを考えると、こういうロックテイストの楽曲がシングルに選ばれることはなかなかなかったと思うんですけど、当時、私はロックが大好きだったので、「この曲を歌いたいです!」とものすごく主張したんだと思うんです(笑)。よくぞ発売してくれたなと思いますし、新しい椎名へきるを打ち出した楽曲にもなったので、これは記念として入れたいというこだわりがありました。

――歌の面でも、間奏でオリジナルにはないフェイクのような歌い回しが入っていますね。

椎名:そこはギターと掛け合いをするようなイメージで、より演奏に寄り添うような自分になれていると思います。そこはライブを積み重ねてきたからこそ想像できる部分で、ただ漠然としたものではなく、体がリアルサウンドを体感してきたからこそ導き出された結果だと思います。

――「空想メトロ」は2ndアルバム『Respiration』(1995年)の収録曲で、最初期のライブから歌われてきたソウルフルなポップチューンです。

椎名:初めてホールツアーをやり始めた頃の代表曲で、この楽曲で私のことを知ってくださった方も結構いらっしゃったと思うので、外したくなかったですね。原曲はその時代風のアレンジになっていて、テンポも意外と遅いのですが、令和の時代はアップテンポが当たり前なので、イライラしないくらいのテンポに上げておきたいと思いまして(笑)。あとはアルバム全体のバランスとして、こういうフレッシュな感覚を持ち合わせたポップなラインも欲しかったので、歌い方も他の楽曲とは変えて、かわいらしい声の成分を少し入れて、ファンキーでやんちゃな感じにしました。「空想メトロ」や「ONE」(2000年リリースの17thアルバム『RIGHT BESIDE YOU』収録)に関しては、“大人の椎名へきる”を一度捨てないと歌えない楽曲だったので、頭をすっからかんにした状態で自分の思い描く“かわいい女の子像”を想像しながらバカになって歌いました(笑)。

――たしかに今回の「空想メトロ」からは、他とは違うはっちゃけた雰囲気が感じられました。そして「246」は、LUNA SEAの真矢さんとのコラボシングル「漂流者」(1997年)のカップリングが初出のエモーショナルなロックナンバー。ファン人気も高いですよね。

椎名:シングルのカップリング曲だったにも関わらず、ファンの方にアンケートで「ライブでどの曲を聴きたいですか?」と聞くと絶対に入ってくる楽曲なんです。皆さんが愛してくださった楽曲だからこそ、リクエストにお応えしたくて今回収録しました。その他だと「ガンバレ」(1998年リリースの11thシングル『この世で一番大切なもの』収録)も「この世で一番大切なもの」(1998年リリースの11thシングル表題曲)のカップリングですが、ファンの方の思いが強いライブ曲に育っているので入れていて……実はこの曲、今年びっくりしたことがあって。

――というのは?

椎名:19歳の女の子からかわいらしいお手紙が届いて。去年受験に失敗してすごく落ち込んだけど、へきるさんの「ガンバレ」を聴きながら頑張って今年受かりました、本当にありがとうございました、という内容だったんです。「ガンバレ」にはそんな力があるんだと思ってびっくりしました(笑)。

――オリジナルのリリースから時間が経った今も、いろいろな方の力になっているんですね。ちなみに今回セルフカバーした楽曲のなかで、へきるさんが特に思い入れの深い楽曲を選ぶとすれば?

椎名:楽曲によっていろいろありますが、自分の中で特に思い入れが強いのは「旅立ちの唄」(2004年リリースの32thシングル)ですね。この曲はこれから新生活を送る方、学生生活が終わって社会に出る方々に贈りたい思いで作ったもので、自分の過去の葛藤も思い出しながら歌詞を書いたんです。環境がガラッと変わって自分の足で立たなくてはならなくたったときに、なかなか難しかったりつらいこともある。そういう思いを抱いている人に向けて作ったのですが、業界で一緒にお仕事する後輩の子たちからも、この楽曲を聴くとすごく泣いてしまうと言われることが多くて。地方から出てきて一人暮らしをしながら、タレントが数多いる業界の中で闘っている子の気持ちとこの楽曲が重なってすごく励まされるみたいなんです。私もそれを伝えるために書いたので、良かったなと思いました。

――「旅立ちの唄」はライブだとファンの大合唱が起こる人気曲になっていますしね。今回のセルフカバー版もピアノとへきるさんの朗々とした歌声から始まるアレンジになっていて、ライブを思い出しました。他にも「Graduater」や「MOTTOスイーツ」(2002年リリースの24thシングル)はやはり外せないですし。

椎名:そうですね。「Graduater」は私のライブの定番曲になっていますし、これも自分の中の葛藤を打ち破って、自分の力で羽ばたいていこうという歌詞なので、エールを送る楽曲ですね。「MOTTOスイーツ」は夏のライブでしか歌わないことが多いのですが、30周年記念ライブでは間違いなく歌うので、ぜひ一緒に踊っていただければと思います。

――それとアルバム全体を聴いて感じたのは、歌声に頼もしさやパワフルさが加わっていることで、表現やニュアンスの付け方に関してもよりメリハリが増したように感じました。

椎名:それは1曲1曲の解釈をできるようになったからだと思います。当時はそこまでの余裕がなかったのですが、音楽に携わる歳月が長くなるほど、どう音楽に向き合うべきかわかってきたと思うんです。それは譜面の見方もそうですし、Aメロ・Bメロの捉え方や歌詞の心情の捉え方を音にするときに、自分の中でどう調節してサビへのコントロールに持っていくか、その一連の心情の流れを大切に歌う表現がやっとできるようになったんだと思います。今までは、それをやりたくてもあまり思うようにできなくて。そこは自分の理想に追いついてきたように思います。30年も活動してきてようやくなんですけど(笑)。

アニメソングカバーへの挑戦 重責を覚悟で歌った「ゆずれない願い」

――今作のトピックとして、ご自身の楽曲ではないアニメソングのカバーが3曲収録されています。しかもそのうちの1曲は、へきるさんの声優としての代表作となるTVアニメ『魔法騎士レイアース』のオープニング主題歌「ゆずれない願い」(原曲:田村直美)のカバーです。

椎名:アニソンのカバーは以前から話に出ていたのですが、まず30周年を迎えるにあたって、「ゆずれない願い」は今しか歌えないし、逆に今歌わないともう歌う機会はないかもしれないという思いがありました。今までも歌いたい気持ちはあったのですが、歌える自分がいなかったんです。それは楽曲的な難しさもあるのですが、この偉大な楽曲は田村直美さんという神の声でしかイメージできないですし、それは人間が触れてはいけない領域という気持ちがあって……。

――この楽曲はへきるさんにとって不可侵のものだったんですね(笑)。

椎名:ちょっとやそっとのことでは歌ってはいけない神曲だと思うんです。ただ、自分が生きてきたなかで『魔法騎士レイアース』というのは思い入れのありすぎる、自分の人生を変えるくらいの作品なので、これをアニバーサリー作品に収録しなかったら嘘になるという思いが強くて……なので重責を覚悟で歌わせていただきました。

――きっとファンの皆さんもよくぞ覚悟してくださったと感じていると思います。

椎名:「本当に良かったのかな?」と今でも感じますけど(苦笑)。ただ、サビ頭の表現は今だからこそ出てきたもので、10年前の自分であれば普通に歌っていたと思うのですが、今の椎名へきるだからこその歌い方に辿り着けている実感があるので、このタイミングで歌わせていただけて良かったです。

――森川美穂さんの「ブルーウォーター」(TVアニメ『ふしぎの海のナディア』オープニングテーマ)をカバーされたのは?

椎名:高校時代にアニメが放送されていて、部活の先輩も皆さんナディアが好きでしたし、私も森川さんのオープニングをよく口ずさんでいたんです。いつかライブとかで歌えたらいいなと漠然と思っていたのですが、せっかく歌うのであればちゃんとカバーしたいという思いもあって、今回カバーさせていただきました。自分の好きな音楽を30何年後かに歌わせていただけるなんて、夢の続きみたいな感覚があって。この年になって夢を叶えてくださって、アニバーサリーのプレゼント的な気持ちが強いですね。あのときの私に伝えたいです。

――青春時代の思い出の楽曲でもあったわけですね。もう1曲はTWO-MIXの「JUST COMMUNICATION」(TVアニメ『新機動戦記ガンダムW』オープニングテーマ)をカバー。こちらも言わずと知れた90年代アニソンの大名曲です。

椎名:デビュー当時に文化放送で『SOMETHING DREAMS マルチメディアカウントダウン』というラジオ番組のパーソナリティを冨永みーなさんと一緒にやらせていただいていたのですが、その番組では毎週、リスナーさんからの投票で決まるアニソンのランキングを紹介していたんです。その番組で当時、一番長くランクインしていたのがこの「JUST COMMUNICATION」で、たしか21週もランクインしていたんですね。それを私は毎週紹介していたこともあって、すごく思い入れのある楽曲だったんです。

――なるほど。そういうご縁があったとは。

椎名:それと昨年、『SHAMAN KING』のアニメのアフレコ現場でひさびさに高山みなみ(声優/TWO-MIXのボーカリスト)さんとお会いして。みなみさんにはデビュー当時からかわいがってもらっていたのですが、そのときに「JUST COMMUNICATION」への思いが改めて湧いてきたので、ぜひカバーできればと思い歌わせていただきました。実際に歌ってみたらやっぱりすごくいい曲なんですよね。これは21週も連続でランクインするはずだよって思いました(笑)。もちろんみなみさんのお声の表現があってこそのものだと思いますが、本当にありがたく歌わせていただきました。

――3曲とも椎名さんにとって思い出深いアニメソングでありつつ、90年代アニソンの名曲が並ぶ形になりました。

椎名:たしかにそうですね。そういう意味でも私にとって思い入れの強い楽曲が集まったと思います。他にも候補はいろいろあったのですが、ここに集約されたのはご縁だと思うんです。選ばれるべくして選ばれた名曲だということを痛感しました。

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