連載『lit!』第100回:Erick the Architect、スクールボーイ・Q、J. コール……ヒップホップの豊かさに満ちた新譜5作
J. コール『Might Delete Later』
突如ドロップされたJ. コールの新譜は、非常に彼らしいアルバム作品であると言うことができるだろう。ざらついた音像、柔軟にライムする肩の力が抜けたラップ。全体に心地よい安定感があり、コンパクトながら延々と繰り返し聴けるような魅力を持っている。例えば、アリ・レノックスが参加した「Pricey (feat. Ari Lennox, Young Dro & Gucci Mane)」のエレガントな導入、9曲目「Steath Mode (feat. Bas)」から10曲目「3001」に繋がる瞬間など、全体がスムースな流れを持っていて、意外なほどにアルバムらしいアルバム作品に仕上がっている。ラストを飾る「7 Minute Drill」における、ケンドリックへの言及とそれに対する謝罪が話題に上がっていたが、筆者としては、音質と展開に凝ったアルバム作品として本作を評価したい。J. コールの作品として、決して過去作を超えないにしても、十分に力を持った作品である。ちなみにアルバムタイトルの“Might Delete Later=あとで消すかも”は、フューチャー&メトロ・ブーミンの“WE DON'T TRUST YOU=俺たちはお前を信じない”と並んで、絶対性をわざと揺るがしている、非常にアイロニカルでクレバーなタイトルに見えるのだが、どうだろうか。
Concrete Boys『It's Us Vol. 1』
リル・ヨッティ、Camo!、Draft Day、Karrahbooo、Dc2trillからなるラップコレクティブ Concrete Boysが話題だ。そんな彼らのイントロデュース的なアルバム『It's Us Vol. 1』は楽しさとオリジナルな感触に溢れる作品である。基本はフロントマンであるリル・ヨッティのオルタナティブな音楽性に依っており、拡張的な感覚でヒップホップにアプローチするような作品でありながら、常に一定のテンションがクールに貫かれている。一方で、作品全体でエモーショナルになりすぎることは避けられているのだが、5曲目「LA REID (feat. Lil Yachty)」や10曲目「MY LIFE (feat. Dc2trill)」のようなジャジーな楽曲から、11曲目「UP YO STANDARDS (feat. Camo!)」のような煌びやかで刹那的な楽曲も登場し、作品に彩りを与える。個性豊かなメンバーの中でも、一際印象に残るのがKarrahboooで、彼女のフロウの乗せ方はクセになること間違いなし。ビデオやジャケット写真含め、ファッションから何まで、徹底的にデザインされたコンセプチュアルな集団 Concrete Boys。彼らとの出会いとして、これ以上ない一枚だろう。
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