川谷絵音、浅井健一、フルカワユタカ、清水英介……ギタリストにも徹しながら活躍広げるボーカリスト
様々な表現者が次々に現れるこの音楽シーン。その中でも例えばドラマーの石若駿やギタリストの西田修大など、ジャンルを越えたミュージシャンをサポートし、プロジェクトを掛け持ちながら活躍するミュージシャンの姿が目を引く。一方で、バンドのフロントマンとしてボーカル&ギターを務めながら、別のバンドやサポートではギタリストに徹することで裾野を広げる者もいる。本稿ではそんなアーティストたちを紹介していきたい。
まずは川谷絵音だ。多彩なアウトプットを持つアーティストの代表格とも言える人物で、自身で曲を書きつつボーカル&ギターを務めるindigo la Endやゲスの極み乙女の他にも、ichikoroやジェニーハイなど様々なバンドに関わっている。近年、話題なのはラランドのサーヤがボーカルを務めるバンド・礼賛だろう。作詞作曲はCLRことサーヤがメイン(作曲は礼賛との共同クレジット)であり、川谷はアレンジャーとギタリストに徹している点が特徴だ。
インディゴやゲスでの活躍を踏まえるとライブで黙々と演奏に徹する川谷の姿は新鮮に映るが、彼が音楽そのものを主役と捉え、音楽をいかに活かすかを重要視している証左とも言える。サーヤがセンターに立って歌うことで礼賛の音楽は最大限に効果を発揮するという確信があるからこそ、川谷はファンキーなプレイで魅了するギタリストとして演奏に徹するのだろう。流動的でいながら楽曲至上主義なスタイルは彼の一貫した美学と言える。
清水英介はAge Factoryでボーカル&ギターを務めつつ、ラッパー JUBEEとAge Factoryが2022年に結成したユニット AFJBでは主にギタリストの役割を果たす。Age Factoryといえば激情と感傷を突き刺すギターロックバンドであるが、AFJBはJUBEEのヘヴィなラップが炸裂する激しいミクスチャーロックであり、近接したジャンルではありながらやや質感は異なる。
AFJBにおける清水のギターは極めてラウドなものが多い。またAge Factoryとは異なる同期音や電子サウンドも特徴的であり、打ち込みやスクラッチとせめぎ合うようなプレイもインパクトが大きい。しかし一方で「Rainbow」のような清水の歌声が光るメロディアスな曲もあり、特定の方向性を定めない多様な音楽性が魅力である。AFJBは清水の表現の幅を広げつつ、新たな扉を開くための場所になっているのではないだろうか。
澤部渡はボーカル&ギターとしてソロプロジェクト・スカートを主宰しつつ、様々な活動にプレイヤーとして参加してきた。ドラムやサックスなど演奏楽器も幅広いが、近年精力的なのはムーンライダーズへのギタリストとしての参加だ。澤部はスカートのサポートメンバーでもある佐藤優介と共に近年サポートメンバーとして活動している。
即興演奏なども得意とするムーンライダーズはスカートの音楽性とはやや遠いように思えるが、澤部の堅実なギタープレイはバンドのグルーヴをさらに強靭なものにし、時にリードボーカリストとしても大きく貢献している。ロックバンドとしてのアイデアの宝庫とも言えるムーンライダーズへの参加は、スカートの活動にも大きな影響を与えていることだろう。