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エイドリアン・レンカー 『Bright Future』
Big Thiefとしてのバンド活動と並行して、ソロとしても精力的に作品を作り続けているエイドリアン・レンカーの最新作は、彼女の豊かなメロディセンスと繊細な歌声が堪能できる、非常にシンプルでミニマルな仕上がりの1枚だ。ギターとピアノの音色を軸とした素材の良さを活かす必要最低限の調理と味付けによって、彼女が持つみずみずしさやピュアさがより引き立てられている。今作はとことんアナログでレコーディングすることにこだわったそうで、携帯電話やパソコンには一切触れずテープに録音した音源を直接レコード盤にカッティングしたんだとか(※1)。エイドリアンの過去の体験や思い出を回顧するような歌詞の、文学的かつ生々しい心理描写も聴きどころの一つ。昨年に引き続き今年もフォーク・カントリー勢から素晴らしい作品がたくさんリリースされているが、この人の鳴らす音は他にはない特別な響きだなと改めて感じさせられた。聴く者を優しく温かく包み込んでくれる、早くも今年屈指の癒しの1枚だ。
ファビアナ・パラディーノ 『Fabiana Palladino』
最後に今後の飛躍が期待される新鋭アーティストをぜひ紹介させてもらいたい。イギリス出身のファビアナ・パラディーノ。ディアンジェロやジョン・メイヤー、アデルなど、これまで錚々たるアーティストの作品に参加してきた伝説的なベーシスト、ピノ・パラディーノを父に持つ気鋭のシンガーソングライターだ。自らがプロデューサーを務め完成させたデビューアルバムは、80sや90sのR&Bやポップ、ディスコ由来のグルーヴを彼女のフィルターを通して洗練させた、懐かしさと新しさが混在した大人の色気を漂わす響き。今作には父のピノの他、2010年代以降の音楽シーンにおいて絶大な影響力を持つジェイ・ポールも制作に参加していて、音数を絞り音の隙間をあえて残した彼特有のセンスによるプロダクションも今作の大きな魅力の一つと言えるだろう。ジェシー・ウェアを思い起こさせるボーカルも含めて、何もかもが新人離れした熟成っぷりが堪能できる素晴らしいデビュー作である。
※1:https://www.theguardian.com/music/2024/mar/17/big-thief-adrianne-lenker-bright-future-solo-album-interview
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