映画『すずめの戸締まり』から躍進 十明、アンビバレントな感情を表現する鮮烈な歌声

 4月5日、2022年11月に公開された新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』が、ついに地上波初放送される。この映画のことを思い起こす時、自然と頭の中に“あの旋律”が流れるという人は多いと思う。あの神秘的なメロディを凛とした声で歌い紡いでいるのが、RADWIMPSが手掛けた主題歌「すずめ feat.十明」のボーカルに大抜擢された十明(とあか)である。

RADWIMPS - すずめ feat.十明 [Official Lyric Video]

  十明は、2003年生まれのシンガーソングライター。彼女は、高校生になった時に念願のバンドを組むも1年も経たずに解散してしまい、その後アコースティックギターを持ち弾き語りで活動を始めた。自室のクローゼットで撮影した弾き語り動画をTikTokに公開し始め、その動画がきっかけとなり、『すずめの戸締まり』のボーカルオーディションに参加。そして、RADWIMPS 野田洋次郎と新海誠の耳にとまり、「すずめ」のボーカルに大抜擢された、という経緯を持つ。

 筆者は、昨年開催されたRADWIMPSのライブハウスツアー『BACK TO THE LIVE HOUSE TOUR 2023』のZepp Haneda(TOKYO)公演を観覧し、十明がサプライズゲストとして参加した「すずめ」のライブパフォーマンスを観ることができた。その時に感じたことをライブレポート(※1)の中でこのように綴った。

「深淵な響きを放つ彼女の歌声によって、それまで熱しきっていた会場の空気が一瞬にして変わった。その鳥肌が立つほどに美麗な旋律は、映画の世界を彩る要素として今まで何度も耳にしてきたが、儚さと逞しさを兼ね備えた彼女の歌声は、ライブで聴くことで音源以上に深く胸に響く。何より、深く息を吸う音もビビッドに伝わってきて、シンガーとしての彼女の存在感をかつてないほどにはっきりと感じられた。まさに、ライブならではの気迫に満ちた素晴らしい名演だった」

 昨年のライブから長い時間が経つが、あの時の、まるで魂そのものの震えのような彼女の歌声がもたらす鮮烈な余韻は、今でもはっきりと思い出すことができる。先日リリースされた同ツアーのライブ映像作品、および、配信リリースされたライブ音源を通して、当時のライブパフォーマンスを追体験できるので、未体験の人はぜひチェックしてみてほしい。また、十明は、昨年のRADWIMPSの上海公演(『RADWIMPS Asian Tour 2023』追加公演)、今年3月の中南米ツアー『The way you yawn, and the outcry of Peace』にもゲスト出演を果たした。映画の世界的ヒット、および、RADWIMPSのグローバルなライブ活動の流れに乗る形で、すでに彼女の歌声は海の向こうにも響きわたっていて、また、弾き語りなどの動画が中国や南米でヒットするという現象も巻き起こっている。

 「すずめ」のボーカルに抜擢されたことを契機とした彼女の躍進はとても鮮やかで、その物語は『すずめの戸締まり』の先へと続いている。2023年7月、十明は、自ら作詞作曲を手掛けた「灰かぶり」でメジャーデビューを果たした。続けて、10月に「Discord-disco」、12月に「僕だけが愛」をリリース。年が明けて、2024年1月には、Spotifyが2024年に躍進を期待する次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2024」の10組のうちの1組に選出された。そして2月には、今まで以上に大きな注目が集まる中、3つの既発曲に2つの新曲を加えたEP『僕だけの愛』をリリース。こうした昨年の夏以降の数々のアクションを通して、現行のシーンにおける彼女の存在感は日に日に高まりつつある。

 なお、今作の全ての楽曲には、野田洋次郎がプロデュースで参加していて、「灰かぶり」「Discord-disco」は、野田&knoakによる共同編曲、「僕だけが愛」は、野田&mabanuaによる共同編曲、「メイデン」は、野田&Naoki Itaiによる共同編曲、そして「蛹」は、野田を含むRADWIMPSのメンバー3人が共同で編曲を手掛けている。「すずめ」の大抜擢の後も、RADWIMPSのツアーにたびたびゲストとして迎え入れられていることから、野田、およびバンドが十明にかける信頼の深さは前々から伝わってきていたが、今回のEPは、そうした信頼関係が一つの美しい結実を迎えた作品になったと言える。

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