スガ シカオ、ストリングスが引き立てた独自性 デビュー記念日を祝した一夜限りのTDC公演

 ここからストリングスが再び合流。スガが次曲を解説する。「だらだら寝てゲームやってエッチしてまた朝が来て」を繰り返す暇な大学生の日常から、その同じ空の下で繰り広げられる9.11世界同時多発テロに物語がスライドしていくことや歌詞の〈やられるまえにいつも先回りしないと 君のことまで笑われてしまうから〉の“君”はそれぞれの“神”を指していることを語って、「(レコーディング)当時の完全再現でお送りします」と「気まぐれ」を披露し、続けて「ふたりのかげ」、「夜空ノムコウ」、「アストライド」を歌い上げた。様々な生活を飲み込んでやってくる〈同じ朝〉を描いた秀逸な時間経過の表現。獲得と喪失を繰り返す日々。かつて思い描いた通りにはならなくても諦めない明日への希望。ストーリーテラーとしての筆致と繊細なボーカル表現に改めて息を呑む。

 「アストライド」の熱唱のあと、息切れしたスガが森に「エネルギーを使う曲が続いて、ずっと張り詰めてるんすよ……何か思い出ないっすか?」と雑に話を振る。森がYouTubeに上がっていたという昔のライブのメイキング映像の話題を持ち出すと、二人は昔スタジオで頼んでいたという店屋物のメニューの記憶を経て、今年の12月に60歳になるという森の年齢の話題に花を咲かせて、「ストーリー」へ。その演奏を讃えるオーディエンスの手拍子にのって本編ラストは「19才」。スガのパワフルなボーカルに呼応するように森がファンキーなオルガンソロを聴かせると、メンバーはステージを後にした。

 盛大なアンコールの手拍子に応えて再び一同登場。スガは「ありがとうございます! もう完全に俺らの趣味のライブ」と観客に感謝を告げると、森と同様にやはり長年の付き合いである今野との思い出に触れて「Progress」へ。そして「もう一発景気いいの行くかー!!」と続けざまに「午後のパレード」を披露。さらに初期のスガと森の念願だったという日本ポップス史における伝説的アレンジャー・萩田光雄に初めてストリングスアレンジを依頼した際の思い出を語りつつ、「坂の途中」を歌い上げた。

 これにて終演、と思いきや、「『ここで拍手のなか去っていく』という台本だったんですが……新曲を作ったんですよ」というスガの一言に観客から歓声が沸き起こる。三島由紀夫がアーカイブ映像で語っていた「人間は自分のためだけに生きていけるほど強くない」という言葉、マツコ・デラックスがテレビ番組で語っていた「どこかで人の心が動いてその人の人生が良い方に動く瞬間を一瞬でも見られたら生きてて良かったと思える」という発言、そして前述のボランティアライブでの経験の集約から歌詞が生まれたという新曲「あなたへの手紙」を最後に披露してライブは幕を閉じた。

 スガと森の関係性もさることながら、要所でシーケンスを交えつつアレンジされたシンプルにして芳醇なサウンドが改めてスガ シカオというアーティストのリリック、メロディ、ボーカリゼーションの独自性を浮き彫りにしたライブだった。一夜限りというのはつくづくもったいないが、「今年もたくさんライブやるよー!」と力強く語っていたスガの言葉を信じて今後の活動に期待しよう。

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