ヨルシカは「晴る」にどんな祈りを込めたのか? 『葬送のフリーレン』とも共鳴するMVで描いた物語の真意

 とりわけ〈雨〉にまつわる表現は象徴的だ。ヨルシカに限らず、雨は古今東西の数々のアーティストがよくない状況のメタファーとして歌ってきた。その多くが「雨はいつか晴れるものだ」という楽観的なメッセージである。しかしヨルシカは、そこに〈雲の上〉という新しい視点を与えてみせる。

〈降り頻る雨でさえ/雲の上では晴る〉

 この雨雲の上にまで思いを馳せる想像力こそが、ヨルシカの寄り添い方だ。ヨルシカは、無根拠に「雨は必ず晴れる」だとか「未来を信じよう」と歌わない。今降っている雨も見方を変えたら、という発想の転換や自由なイマジネーションを提示する。それがヨルシカによる、ヨルシカだけの救い方なのだ(“とある真実”を知ったあと、そして『葬送のフリーレン』の舞台を考えると、〈雲の上〉もまた異なる意味合いを帯びてくるのが秀逸だ)。

 また、〈貴方〉に対して〈何を思っているんだろうか〉〈何が悲しいのだろうか〉といった人の心の内への想像力も歌われる。この歌は、そうした見えないところに思いを馳せる、見えないものを想像する歌とも言える。そうした力が“晴る”(=春)を呼び込むのだ、と。

 加えて、戦争を想起させる場面もMVでは描かれ、舞台を『葬送のフリーレン』とリンクさせながらも、にわかに反戦歌の様相も呈しているようにも思える。今なお争いの絶えないこの世のなかにおいて、この楽曲に込められた祈りは何よりも力強く響くはずだ。

 昨年はアルバム『幻燈』を音楽画集としてリリースしたヨルシカ。音楽と映像とが密接に絡み合った作品を発表し、ここまで大きな広がりを見せてきた。そんななか、『葬送のフリーレン』に寄り添いながらも、それをヨルシカというストーリーのなかに組み込んでみせた。ヨルシカの生み出すクリエイティブに、この「晴る」を経て今後も大きな注目が集まるだろう。

『晴る』

■配信情報
Digital Single『晴る』
配信中

配信URL:https://yorushika.lnk.to/sunny

ヨルシカ オフィシャルサイト:https://yorushika.com/
ヨルシカ / n-buna YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCRIgIJQWuBJ0Cv_VlU3USNA

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