ヨルシカは「晴る」にどんな祈りを込めたのか? 『葬送のフリーレン』とも共鳴するMVで描いた物語の真意

 ヨルシカが1月にリリースした新曲「晴る」のMVが3月5日に公開された。春を舞台とした季節感のある美しい曲だが、MVはこの楽曲の奥に潜んでいる祈りやメッセージを鮮明にするもので、その映像を含めた総合的なクリエイティブの完成度は、圧巻のひとことである。

 現在放送中のTVアニメ『葬送のフリーレン』(日本テレビ系)のオープニングテーマに起用されたこの曲は、美しく芯のあるsuisのボーカルや、n-bunaによる叙情的かつ文学的な日本語詞、丁寧に紡がれるキャッチーなメロディなど、ヨルシカならではの魅力が健在だ。それに、冒頭のギターリフや軽快なドラムの跳ねるリズムに代表されるように、聴いていると胸が躍るような明るさもあわせ持っている。「この曲は晴れを書いた曲です。正確には晴れではない状態から晴れを願う曲です」とコンポーザーのn-bunaがコメントしている通り、まさに気分を晴れの方向へと向けるような一曲と言える。それに、「この曲がフリーレンの世界と彼らの旅に花を添えられるものになっていれば幸いです」というコメント通り、作品の世界を想起させるポイントも多い。

ヨルシカ - 晴る

 その一方で、MVの緻密なアニメーションも見逃せない。丘から見渡した際の美しく壮大な景色から生き生きとした草木や雨粒のタッチ、古びていながらも温もりを感じられる木製の郵便受けに至るまで、映像は細部までこだわりを見せている。特に子供が泣き出すシーンの繊細な表情変化は、もはや実写以上に感情に訴えかけてくる力を感じた。監督を務めた森江康太は、これまで「ノーチラス」、「春泥棒」、「左右盲」でヨルシカのMV作品を手掛けてきたCGクリエイター。ヨルシカ作品との関わりは深く、ファン/リスナーからの信頼も厚い。

 MVのストーリーは、詳細な説明を省いたことで誰もが感情移入しやすい余白が生まれており、わずか数分ながらも多くの視聴者の心を掴んでいる。だが、はっきり言って明るいものでは決してない。ある男とその息子と思しき子ども、このふたりの登場人物の何気ない生活のなかで、男が“とある真実”に気づくことによって、物語は大きく覆されることとなる。

 印象的なのは、主人公たちの置かれている状況を暗に示す雨や曇り空といった天気や、人間の力ではどうすることもできない圧倒的な断絶の象徴としての大きな壁の存在だ。

 この曲は、人が生きていくうえで立ちはだかるそうしたさまざまな困難に対して、多面的な見方の提示という形でリスナーにある種の救いを与えてくれる。ある意味、“絶望への向き合い方の歌”と言ってもいいだろう。今あなたが陥っている状況は、視点を変えればそこまで悲観する必要はないのだ――と。

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