ミン・ヒジン、NewJeansを成功に導いた異端の発想 「トレンドを無視した方がむしろ創意に富む」

ミン・ヒジン、NewJeans成功の発想

自分だけの感覚が通じる可能性も世の中に存在する

ーーこれまでミン・ヒジンさんは、様々なカルチャーを時代・文脈を超えて融合させることで、世間が驚くような作品を生み出してきたと感じています。今注目しているカルチャーや音楽はどんなものですか?

ミン・ヒジン:そうですね……私が思うに「注目される何か」は概ね本能的な直観に自信が加わって完成度が出てきたと思います。したがって、ある特定のジャンルや文化に影響を受けることよりは、好みに基づいた多様な文化的ソースをどのように再解釈、再構成し、新しい手段として完成度の高い表現をするのかに集中する方だと言えるでしょう。そのため、常にすべてのことに対して開かれていて関心が高かったりもしますが、逆にすべてに関心を失ったりもします。

ーープロデューサーとしてのルーツを教えてください。

ミン・ヒジン:幼い頃の私は音楽、映画、本が特に好きでした。特に音楽は幼い頃から、特定のジャンルに限られない自分だけのスタイルというものが明確にありました。例えばFrancis Lai、 Antonio Carlos Jobim、 Bruno Nicolaiなどです。それぞれフランス、ブラジル、イタリアのミュージシャンなんですが、特に様々な第三世界の音楽に夢中で、熱心に探して聴いていた記憶があります。その中でもAstrud Gilbertoの「The girl from ipanema」は私の人生最高の曲とも言えますが、楽しくもあり、仕事においてもとても大きな勇気になってくれた曲です。1964年に発表された「The girl from ipanema」は、当時ビルボード「HOT 100」で5位、アルバムチャートで96週間ランクインし、歴史上最も売れたジャズアルバムとして記録され、グラミー賞でも「今年のレコード」を受賞しました。ジャズという主流でないジャンルが大衆的に大きな異変を起こしたという事実が、私のビジョンにも触れていて、暗黙的に大きな力になりました。素敵な音楽はジャンルや時代を問わず、いつでも愛されることができるという確信を得ることができたのです。Astrud GilbertoやDusty Springfieldなどの淡泊で雰囲気のある歌唱スタイルを好む傾向が、グループのメンバーを選抜、構成する上でもある程度適用されていたような気もします。

 13歳の頃だったと思うのですが、ラジオで偶然耳にした歌をどうしても探したかったことがありました。ところが当時はインターネットやスマートフォンがある時代ではなかったので、歌を探す方法がなく、あてもなく近所のレコードショップに駆け込み、恥ずかしさを押し切って店員さんの前でしゃがみ込んで歌を歌いました。もちろん歌詞も知らなかったし、聴いた記憶をたどって適当に口ずさんだのですが、そのレコードショップの店員さんが見事に探し当ててくれて、そうやって知ったミュージシャンがEarth, Wind & Fireでした。その店員さんがEarth, Wind & Fireの数多くのアルバムの中から、六本木ヴェルファーレ公演のライブアルバムを選んでくれたんですよ。そのライブアルバムでEarth, Wind & Fireというバンドに初めて接したんです。今でもEarth, Wind & Fireのすべてのアルバムの中で、あの時のヴェルファーレのライブアルバムが一番好きです。カセットテープが伸びるほど聴いて、そのアルバムの全曲すべてのアドリブを真似できるほどでした。私はもともときれいにレコーディングされたスタイルが好きな方ですが、あのライブアルバムがあまりにも印象的だったために、後日正式レコーディングバージョンのアルバムを聴いた時には少しがっかりしたほどでした(笑)。幼い頃に刺激を受けた様々なことが私の人生と仕事に影響を及ぼしたことはあまりにも明らかです。

ーー2ステップやドラムンベースをはじめ、NewJeanの楽曲には多彩なリズムアプローチが見られます。それらがここまでリスナーの熱狂を呼ぶと予想していましたか?

ミン・ヒジン:NewJeansのデビュー前は、誰も私たちの「多様なアプローチ」について予想することができませんでした。おそらく「期待」よりは、既存のものとは違う見慣れない異質感を憂慮する声を多く聞かなければいけませんでした。ところが大衆的に成功すると、その心配が歓迎の声に変わりました。結果的に成功がトレンドを牽引したわけですが、NewJeansが成功するかどうかについての多くの予測が虚像だったように、今後のトレンドの変化を予測するということも、どれほど意味のあることなのかわかりません。成功に牽引されたトレンドに従うよりは、持続的に新しい個性が市場に多様に広がることを願います。 NewJeansの成功が証明するシグナルはひとつです。「予測とは違う、自分だけの感覚が通じる可能性も世の中に存在する」ということ。

ーーダンスにおいても、ガールズクラッシュ的な攻撃性やクールさではなく、無邪気なかわいさやメンバーのナチュラルな表情を引き出そうという意図が感じられます。振り付けは、どんなところにこだわりを持っていますか?

ミン・ヒジン:私は総じて人間味が感じられる自然な動きが好きです。また、極端に女性らしい動作よりは中性的で淡泊な動きを好み、曲と相まって総合的な心地よさを生み出すことができるスタイルを追求します。同じダンスを踊っても人によって表現や雰囲気は変わるので、スキルに重点を置いた定型化された動作を磨かせるより、実際にメンバーたちが音楽を感じながらステージごと楽しめる形を作りたいと思いました。

ーーNewJeansは韓国におけるアワードでの複数受賞をはじめ、NewJeans 2nd EP『Get Up』が全米アルバムチャート(Billboard 200)で首位を記録、『Billboard Music Awards: 2023(BBMAs)』にて「Top Global K-Pop Artist」受賞、『2023 MTV Video Music Awards』ノミネートなど、輝かしい記録を次々と残しています。こういったアワードや記録を振り返った際に、NewJeansが世界的に高く評価された理由はどんなところにあると考えますか?

ミン・ヒジン:ある特定の集団をターゲットにしたというより、普遍的な感情に集中したからだと思います。私はいつも「私が必ず欲しい何かは、他の人々にとっても必ず欲しい何かであるだろう」という前提で仕事をする方です。

ーー日本デビューや単独公演などを心待ちにしているファンも多いのですが、NewJeansに対して我々はどんなことを期待していれば良いでしょうか?

ミン・ヒジン:大いに期待してくださってもいいと思います。

NewJeans、世界的ブレイク果たした2023年を振り返る グループの個性は「楽しさと自然な雰囲気」

NewJeansメールインタビュー。世界的ブレイク果たした2023年を振り返る。

「NewJeansの成功は100%予想通り」 総括プロデューサー ミン・ヒジン×シン・ウソク監督に聞くiPhoneで撮影した「ETA」MV制作秘話

2023年7月26日に2nd EP『Get Up』をリリースしたNewJeansが、今作の収録曲「ETA」のMV全編をiPhon…

※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。
(2024年2月19日12:12、リアルサウンド編集部)
誤:後日正式レコーディングバージョンのアルバムを聞いた時にはとてもがっかりしたものでした。
正:あのライブアルバムがあまりにも印象的だったために、後日正式レコーディングバージョンのアルバムを聴いた時には少しがっかりしたほどでした(笑)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる