Linked Horizonと『進撃の巨人』の10年 Revoが最後の2曲で描ききった一大音楽巨編を徹底レビュー
そして、「完結編(後編)」のメインテーマ「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」である。こちらはアニメの集大成というよりも、エンドロールの映像に合わせた楽曲というほうが正しいだろう。それゆえに「最後の巨人」とは対照的に、場面場面で曲調が大きく変化していくストーリー性を帯びた楽曲展開となっている。
ミカサ・アッカーマン役の石川由依が歌い出し、そこにエレン役の梶裕貴が歌を重ねていく。そして再びミカサパートとなり、最終的にRevoが歌い継いでいくパート分けは、ミカサの前に現れたエレン、2人で過ごした時間があって、再びミカサ1人となる。そしてミカサも居なくなった未来をRevoが歌う、という解釈ができるだろう。
同曲には過去曲「紅蓮の弓矢」、「13の冬」(2019年リリース、シングル『真実への進撃』収録)、「暁の鎮魂歌」(2018年リリース、Season 3エンディングテーマ)のオマージュが随所に鏤められている。冒頭の「弔いの花の名前も知らず 飛び去りし鳥の残したあとに」は、「紅蓮の弓矢」の「踏まれた花の名前も知らずに地に墜ちた鳥は風を待ちわびる」の続きになっている。
さらにミカサの心情を綴ったパートは「13の冬」のオマージュというべきもので、曲調や「今年もまた春が来る…冬を置き去りに…」というフレーズが共通したものになっている。ミカサがひとりで歌っていた「13の冬」に対し、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」では先述の通り、途中からエレンがミカサに寄り添っていくようにメロディをなぞっている。「震える首筋を…包み込む温もり…」のパートだ。これはミカサの視点から“エレンが巻いてくれたマフラー”という描写だろう。ミカサはエレンが居なくなった心の内を「13の冬」では、〈震える首筋を…包み込む温もり…私はあと何度…この寒さに耐えられる?〉と歌っているのに対し、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」では「震える首筋を包み込むぬくもり 私は何度でもこの寒さに立ち向かう」という強さに変化している。
楽曲はさらに進み、ミカサの死によってRevoが「棺には君が愛した花を」と歌い継ぐ。「暁の鎮魂歌」を想起するしめやかなセクション。さらにそこから一変して再び戦いのモードに突入、「紅蓮の弓矢」の雰囲気が楽曲を支配していく。「産めよ増やせよと」聖書の言葉のようであり、ジーク・イェーガーの言葉のようでもあるワードが戦いを想起させる。物語では自由の象徴であった“鳥”が、「鋼鉄の鳥を空へ放った」と歌われている。これは戦闘機を意味しているのだろう。さらに「紅蓮の弓矢」の最後にも登場している「冥府の弓矢」は巨人に立ち向かう調査兵団のことを指していたが、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」でそれが意味するのはおそらくミサイル、軍事兵器のことだ。「歴史は繰り返す。そしてまた《無(ゼロ)》になる」と続く。
アニメでラストに描かれた戦争描写からのポストアポカリプス。森に迷い込んだ少年と犬。「紅蓮の弓矢」では、「奪われた其の地平 『自由』を望む《あの日の少年》」と歌われている。今度は少年に向かって「聴こえるか? モリを出ろ」とRevoは歌う。「最後の巨人」と共通している部分だ。
「結局...…森を出たつもりが、世界は命ん奪い合いを続ける巨大な森ん中やったんや」
「The Final Season #12(通算72話)『森の子ら』」での、サシャ・ブラウスの父親の言葉にあるように、森は強者が弱者を喰らう終わらぬ命の奪い合いが行われる場の象徴として描かれている。「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」の中で歌われている「モリ」というワードには、メメント・モリ、「モリ(死)から出ろ」という意味合いも込められているかもしれない。
そして、少年はエレンの首が眠る大樹の洞(うろ)に入っていく……。
アニメにはなかったが、フルバージョンの音源ではエレンの声で「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」というセリフが……こうして、楽曲は終わる。
「最後の巨人」はエレンの心情を歌い、最後はアルミンが締めくくる曲。そして、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」はミカサの心情を歌い、最後はエレンが締めくくる。この2曲は対になっている曲であり、エレン、アルミン、ミカサ、幼馴染3人の関係性を描いた2曲である。
「紅蓮の弓矢」に始まった鎖地兵団の長い戦い、Linked Horizonの『進撃の巨人』もこの2曲を以って終わりを告げた。
『進撃の巨人』という作品を、音楽を通じて表現したLinked Horizon。それはアニメの描写と表現に華を添えた以上に、作品の深み、素晴らしさを教えてくれた。ストーリーを呑み込み、噛み砕き、音楽に落とし込みながら次の展開までも予感させていく。さらに物語にとどまらず現実社会へのアンチテーゼを投げかけてくる。アニメ音楽やサウンドトラックであるとか、そこに収まることのない一大音楽巨編を聴いている、見ているようであった。
音楽としての『進撃の巨人』の世界を見事なまでに表現しきって完結に導いた、Revo、Linked Horizon。そのクリエイター、コンポーザーとしての力量と、アーティストとしての音楽性と表現力の高さに、最後の最後まで驚かされっぱなしだった。アニメ同様、Linked Horizonの10年にスタンディングオベーションで拍手を送りたい。
■リリース情報
「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(後編)主題歌
配信リンク:https://lnk.to/LH_ds01_N
「最後の巨人」
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(各話版)のオープニングテーマ
配信リンク:https://lnk.to/LH_ds02_S
■関連リンク
Linked Horizon Official Website:https://linked-horizon.com/
Linked Horizon楽曲配信アーティストリンク:https://lnk.to/LinkedHorizon
Linked Horizon公式X(旧Twitter):https://twitter.com/L_Horizon_info
Linked Horizon YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@linkedhorizon0822
Linked Horizon10周年プロジェクト:https://shingeki.linked-horizon.com/
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season公式サイト:https://shingeki.tv/final/
TVアニメ『進撃の巨人』公式X(旧Twitter):@anime_shingeki