YOASOBI、岡村靖幸、GLIM SPANKY……名曲を再構築する独自性 『ユーミン乾杯!!』を聴いて
2022年7月にデビュー50周年を迎えてなお精力的に活動する松任谷由実。徹底的なリミックス&リマスタリングを施した集大成的ベストアルバム『ユーミン万歳!〜松任谷由実50周年記念ベストアルバム〜』を同年10月にリリースし大ヒットを記録したこともいまだ記憶に新しい。Apple Musicではドルビーアトモスミックスもあわせて配信された同作は、オリジナルミックスの大胆な改変までを含むサウンドのアップデートを通して、ベストアルバムの存在意義を改めるような意欲作だった。
そして、2023年末にリリースされた『ユーミン乾杯!!〜松任谷由実50周年記念コラボベストアルバム〜』は、『ユーミン万歳!』のコンセプトを引き継ぎ拡張するようなアルバムだと言えよう。10組のアーティストを招き、「ユーミンのオリジナルマルチテープを開放し、今のアーティストがそれぞれの解釈でスクラップ&ビルド、楽曲を再構築」(※1)した、リミックスアルバムとトリビュートアルバムの中間のような作品だ。
参加アーティストのラインナップは豪華なものだが、なかでも異彩を放つのはニーナ・クラヴィッツだろう。J-POPのアーティストに混じってひとりだけロシア出身のテクノDJが名を連ね、しかも提供しているのは「春よ、来い」を硬質なアンビエントに換骨奪胎したトラック。きれぎれのベースリフと生々しく不規則なビートがクールで、いい意味で予想を裏切られる出来だった。
アルバムの冒頭をかざる岡村靖幸による「影になって」は本作のベストトラックと言っていいだろう。80’s~アーリー90’sのR&Bサウンドを下敷きにしつつ、エレクトロニカ的なグリッチをさりげなく曲全体に散りばめたリアレンジはきわめて巧みだ。近過去をシミュレーションするレトロ志向と思わせて、時代感覚をほどよく混乱させる岡村らしいアイデアが光る。さらに、松任谷のボーカルに憑依するように寄り添うクライマックスでの岡村のボーカルは、派手ではないが名演だ。岡村が得意とするエネルギッシュな節回しを抑制したことでちょっと意外な印象も覚えるが、見事に功を奏している。
ボーカルという点では、GLIM SPANKYによる「真夏の夜の夢」の再構築は、ロック色を強めたアレンジに加え、松尾レミのボーカルとの相乗効果もあり、ポップな軽やかさを湛えた原曲の松任谷のボーカルがもともと持つワイルドさがぐっと引き出されているのが面白い。岡村やGLIM SPANKYに聴かれる、こうしたボーカルの「読み替え」にも近い翻案は、単なるリミックスやカバーではなかなかできないことでもあり、今回のアルバムならではのものではないだろうか。小室哲哉がプロデュースし乃木坂46のメンバーが歌唱に参加した「守ってあげたい」も、壮大なアレンジに気を取られるが、そうした角度で聴くと興味深い。