矢沢永吉が日本武道館に刻んだ新たな伝説 1年越し達成の150回目公演に「男として最高だよ」

 ドラムのフィルを合図に、ダーティなギターリフが鳴る、ステージ後方のどデカいLEDスクリーンには“E.YAZAWA”のロゴが映し出される。矢沢永吉がゆっくりと登場した。2023年12月14日『EIKICHI YAZAWA CONCERT TOUR 2023「Welcome to Rock'n'Roll」』——。矢沢永吉、前人未到の150回目の日本武道館公演は「さまよい」で幕開けた。

「ようこそいらっしゃい! たまんねぇよ! たまんねぇよ!」

 得意のマイクターンを2回転半決め、のっけから絶好調の矢沢はゴキゲンに声を上げた。昨年、喉の不調により断念せざるをえなかった150回目の武道館が今ここに。矢沢にとっても、日本の音楽シーンにとっても、新たな伝説が刻まれる。

 野太いバンドアンサンブルが「ROCK ME TONIGHT」を掻き鳴らす。5年ぶりにバンドに帰ってきたジェフ・ダグモア(Dr)のずっしりとしたビートが心地よい。長年矢沢バンドのビートを刻んできた安心と信頼感。スティックを天へ突き上げるよう高らかに、そこから振り下ろされていくジェフの右手の軌道がバンドのみならずオーディエンスの士気を司どり、ダグ・ラポポート(Gt)の骨太なギターサウンドがうねりをあげる。アージー・ファイン、モニーク・ディヘイニー、ヴァージニア・ウィルソン、3人のコーラス隊の歌声が力強くも美しい。そうした海外アーティストに囲まれながら、この日の朝矢沢に「日本武道館150回目おめでとうございます」と電話をしたという野崎森男(Ba)がアンサンブルの土台をしっかりと支え、今年の夏、初の『FUJI ROCK FESTIVAL』出演を支えた外園一馬(Gt)の粘りのあるボトルネックが吠える。矢沢はマイクスタンドとワイヤレスマイクを巧みに使いわけながら、エレガントにステップを踏み、ワイルドに歌声を響かせていく。

「コロナが来て、ライブができない。たとえできたとしても全員マスクで“永ちゃん”コールもすみません、って感じで。よくみんな我慢してここまで来てくれました、ありがとうございます!」

 コロナ禍の制約のあったライブをそう振り返る。その言葉に続いて歌われた「愛はナイフ」。矢沢の情感たっぷりの歌声にオーディエンスは静かに耳を寄せる。その歌声の余韻をグスターボ・アナクレート(Sax)のアルトサックスが美しく引き継いだ。

 コロナ禍におけるコールや合唱といった声出しに規制のあるライブは、一体感に欠けるといった弊害も懸念されたが、得たものがあった。「歌がちゃんと聴けてよかった」「バックバンドの演奏の素晴らしさに気づいた」という声が多く寄せられたという。それを踏まえ、今回のツアーにおいても本編での声出しは禁止、開演前とアンコールのみ声出しOKという制約が設けられていた。聴くところはしっかり聴く、みんなで騒ぐところは思いっきり、というアフターコロナにおける新しいコンサートの愉しみ方だ。

 「我が親友、ジョン・マクフィーが僕のために書いてくれた曲です」という「ROCKIN' MY HEART」を軽快に歌うと、矢沢は観客に改めて感謝を述べる。

「昨年、50周年をやりました……50年だよ? 改めてこの場で、YAZAWAを応援してくれて、応援してくれて、応援してくれて……ありがとうございます! それで、今日150回目の武道館を迎えることができた、男として最高だよ」

 その言葉に満杯の武道館は、大きな大きな拍手に包まれた。さらに「永ちゃん、74歳って本当かよ? 周りの70代は間違いなく爺ちゃんです」というファンメールの話から、周りの70代に比べて若い矢沢のことを「変だ」と友人に言われたことを明かし、会場の笑いを誘う。74歳のロックスターは「KISS YOU」「Love Chain」と90年代の楽曲を色気たっぷりに歌い、1万4千人のオーディエンスはその艶やかなボーカルに酔いしれた。

 この日のハイライトというべき、中盤に贈られた「Please, Please, Please」。まどろむように妖艶に歌う矢沢を彩る紫色のレーザーと、夜空を描いた照明が幻想的な世界を作り上げた。

 昨年2022年に行われたツアー『EIKICHI YAZAWA CONCERT TOUR 2022 「ONE FIFTY」』のツアーファイナル、12月20日が150回目となる武道館だった。その直前の朝、起きたらうんともすうとも言わなかった喉。「ダメなときは何やってもダメなんだよね」と中止を決めたことを思い返しながら、1年越しの喜びを噛み締めるように語った。

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