『プロセカ』ワンダーランズ×ショウタイムが持つ二面性 空想とリアルから紡がれるユニットの魅力
今やVOCALOIDシーンの人気に欠かせないコンテンツである、iOS/Android向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)。今年9月にリリース3周年を迎えた今作の物語を動かすのは、多彩なキャラが所属する5つのユニット。そのうちのひとつが、「ワンダーランズ×ショウタイム」(以下、「ワンダショ」)である。
当初は寂れたテーマパークステージの再建を目的として集った、天馬司、鳳えむ、草薙寧々、神代類の4人。ショーを通して大勢を笑顔にしたい、という共通の思いを持って活動する彼らによる7th Single『Mr. Showtime/箱庭のコラル』が12月20日にリリースされた。
今回の2曲は司と寧々それぞれが主役のゲームイベントに際してリリースされたものだ。ユニットの行く先が揺れ動く渦中の出来事かつ、両名のアイデンティティを問う物語となった今回のストーリー。それに因んだ曲ゆえに、ファンにとっても非常に印象深い作品になったのではないだろうか。
ボカロシーンでも複数シンガー曲の名手として知られる、ひとしずく×やま△による「Mr. Showtime」。ホーンサウンドが主となる本格的なジャズの華やかな響きに耳が奪われる一方、歌詞の冒頭にはこれまでの彼らとは少し趣の異なる、後ろ向きでネガティブな言葉が並ぶ。
加えて今作はいわばユニットの支柱的存在であり、普段ならばエネルギッシュさに満ち溢れた司にまつわる楽曲だ。〈あれもこれも できやしない? 回る回る 思考回路(メリーゴーランド)〉〈焦げ付いてく 敗北の味(フレーバー) 苦くてたまらない〉などといった歌詞は、これまでの彼のイメージとはやや結びつかない印象がある。
ストーリー当初は向こう見ずな自信家の気質も強く、誰よりも自分自身がスターであると信じて疑わなかった司。しかし今イベントでは、幾多の経験を経て真に実力を伴い始めたからこそ彼が得た気づきと挫折、そしてさらなる成長が描かれる。
そんな司の、そして同じくワンダショの面々の内省的な一面も大きく反映された本楽曲の歌詞。イベント前には彼の悔しげな涙が描かれたイラストも話題を呼んだが、今回の出来事を経てまさしく彼が本物の“Mr. Showtime”となる一歩を踏み出した。そう感じたリスナーもきっと多かったに違いない。
一方の「箱庭のコラル」は、寧々のイベントストーリーを彩る楽曲である。自信家の司とは対極的な性格ながらも、長年経験を積み重ねた歌唱力に自信を持っていた寧々。しかし新たな公演の稽古を積み重ねる最中、自身の一番の武器であるはずの歌に“とある欠点”を指摘された彼女の葛藤と進化が、今イベントの物語では描かれる。
誰にも負けない己の強みをもってしても、上には上がいる。芸を磨く人間特有の、終わりのない高みを目指す茨の道へ足を踏み入れ始めた寧々だが、それもまた先述の司と同じように、彼女が本気で世界に通用するパフォーマーを志し始めたがゆえに直面した壁だ。幸いにも寧々の場合、ユニット外の協力者にも恵まれている。彼女の成長を時にライバルとして、時に味方として支える人々の力を借りつつ、寧々もまた静かに夢への情熱を燃やし着実に前進していく。その過程が、曲中の歌詞には鮮明に表現されている。
もとより軽快なバンドサウンドを強みとするkoyori(電ポルP)だが、今曲はそれに解放感・透明感が加わったより涼やかな響きが印象的だ。寧々の内なる情熱を反映した歌詞との対比も際立つ爽やかで綺麗なサウンドは、おそらく今イベントタイトルのカナリア、引いては歌姫・草薙寧々の歌声を連想させる構図ともなっている。