HANCEが作り上げた短編映画集のようなアルバム『BLACK WINE』 意外な海外人気の理由も明かす

HANCEが作り上げた1stアルバム

その土地独特の「匂い」を作品や活動を通して伝えていきたい

HANCE

――そういうふうに聴き直すと、曲順にも流れがあるように聴こえますね。スローでアコースティックな「眠りの花」をアルバムの最後に置いたのは、もちろん曲調もあるんでしょうけど、一つの物語のエンディングという意味もあるわけですか。

HANCE - 眠りの花 / sleeping flower (Official Music Video)

HANCE:おっしゃる通りです。1曲目の「BLACK WORLD」は、どちらかというと今の混沌とした「世界」そのものを表していて、逆に「眠りの花」はその「世界」と対峙した時に、小さな存在である自分というフィルターを通して「世界」を見ているという。

 〈今日も雨が降って部屋にいる 虚像になって扉を閉めればいい〉という歌詞があるんですけど、毎日変わらない、変わることが出来ないちっぽけな自分と、膨れ上がっていく「この世界」の不安定な未来を対比的に表しています。

 一見、逃避的に見えるかもしれませんが、こんな世界に押し潰されるぐらいなら「戦わずに逃げたっていいじゃない、生きてさえいれば」という想いもそこにあるかもしれません。

 ちなみに、この曲は7分ある曲ですが、たった4つのコードでループしていきます。淡々と続く日常が、少しずつ侵食されていく。「狂気」の一歩手前で折り合いをつけながら、最終的には、希望を携えて昇華していく。

 1曲目の「BLACK WORLD」から始まって「眠りの花」でエンディングを迎えるというのは、仰々しく聞こえるかもしれませんが、人生そのものを表現しようと思いました。微かだとしても、そこに希望を感じてもらえたら嬉しいですね。

――非常にコンセプチュアルな作品ですね。もともとアルバムを作る前から、そういうイメージはあったんですか。

HANCE:そうですね。1stの時も、アルバムを通して「架空の映画のサウンドトラック」というイメージで作ったので、2ndもそうしようと思っていました。僕は自分の音楽を「シネマティックミュージック」と呼んでいるんですけど、12曲であるならば12話の短編映画を一つのアルバムとしてまとめた、ということですね。

――アレンジ面でも、たとえば「モノクロスカイ」がファンク、「Dancing in the moonlight」がエレクトロスウィングEDM、「螺旋」がラテンなど、1曲ごとにカラフルに変化していくのも、シネマティックだなと思います。

HANCE:こんなにいろんなジャンルのことを、一つの枠組の中でやっている人はあまりいないでしょうね(笑)。

――それこそ、世界を旅している感覚というか。

HANCE:そうですね。僕自身が20、30代で、仕事やプライベートで色々な国を旅してきました。異国の地で感じ取った現地の空気感や、その土地独特の「匂い」みたいなものを、自分の作品や活動を通して伝えていきたいところもあったんです。そういう部分が、作品の節々から滲み出ているといいなとは思いますね。

――おそらくファンク、ロック、ジャズとかは、もともとルーツにあるんだろうなと思って聴いていました。

HANCE:世代的には、90年代後半のロック全般のシーンで育ってきたというか。初期の頃の『フジロック』に、僕自身も行っていたりしたので。

――え、あの場にいたんですか? あの伝説の。

HANCE:記念すべき第一回は二日目に参加予定だったんですが、電車に乗ってたら場内アナウンスがあって「中止になりました」と。やむなく、途中で引き返しましたけどね(笑)。でもあの当時は、ロックシーンはどのジャンルも活気づいていましたので、夢中になっていましたね。30代ぐらいからは、自分が遊びでDJをやっていたこともあって、クラブミュージックを多く聴くようになって。ダンスミュージックをベースとしたラテンやジャズなど今まであまり通ってこなかったものも聴くようになりました。

――そのあたりの要素は、今回強く感じますね。

HANCE:もっとさかのぼると、母が敬虔なクリスチャンだったので、賛美歌やクラシック、教会音楽のようなものは小さい頃から自然と聴いていました。また、母方の祖父はクラシックの指揮者でありながら、レコードコレクターだったので、クラシックだけでなく、シャンソン、ブルースなど、色々なジャンルの音楽が流れていました。もちろん、当時の日本の歌謡曲やポップスなども聴いていたので、色々なジャンルの音楽が自然と吸収されていったのはあると思います。なので、雑多な音楽が出てくるのは割と自然な感覚ではあるんですよね。

――地層になっているわけですね。そのすべてがあって、今のHANCEの音楽がある。

HANCE:そうなんですよ。特に今回のアルバムは、その傾向が強いかもしれませんね。

――言われてみれば。かといって洋楽っぽいかというとそれだけではなくて、「炎心」とか、ドメスティックな匂いを強く感じるドラマチックなミドルバラードもあったりして。

HANCE - 炎心 / enshin (Official Music Video)

HANCE:「炎心」は、アルバムの中ではわりと異質な曲で、いわゆるJ-POPのフォーマットにすごく近いと思っています。そこはもう振り切ってやろうということですね。

――個人的には「left」にハマりました。80’sというか、メロウというか、“ブラコン”と言われていた時代の雰囲気がドンピシャで、すごくいい曲だなと思います。

HANCE - left (Official Music Video)

HANCE:ありがとうございます。歌に関して言えば、ある意味一番自分らしくないのが「left」だと思います。「聴く人は、たぶんこういう声で聴きたいのかな」ということを、リスナー目線で考えました。

HANCE

――「大人の、大人による、大人のための音楽」という、HANCEの掲げるテーマに寄り添った全12曲。タイトルの『BLACK WINE』はどんなイメージでつけたものですか。

HANCE:実は、種明かしをすると『BLACK WORLD』にするか『BLACK WINE』にするか、ずっと迷っていたんです。今のリアルな世の中を表すなら『BLACK WORLD』でも良かったんですけど、やっぱり僕は、ドキュメンタリーではなく、フィクションを作りたかった。自身の音楽を「シネマティックミュージック」と呼んでる以上、アート作品ならではのロマンティシズムや物語性があった方ががしっくりくるなと思ったんです。

 僕は普段、お酒がとても好きで、もちろんワインも良く飲むのですが、時間が経つと熟成されていったり、葡萄の収穫時期や場所、年代によって味が違ったり。人の経年と似ている部分もありますが、その在り方そのものがとてもドラマティックだと思っていまして。

 しかもワインって、お酒を飲まれる方はたぶんわかると思うんですけど、ビールや日本酒と、何か違った味わいみたいなものがある気がするんですよね。飲む時の心境も含めて。

――そうですね。わかります。

HANCE:特に今回は、ヨーロッパに撮影に行くことが多かったので、いろんな場所で現地の方がワインを飲んでいらっしゃるシーンを、すごく素敵だなと思うところもありまして。そして今回は、ある種ダーティー、ダークな部分も作品の中に入れているので、ブラックとワインを掛け合わせたということですね。フィクションというニュアンスも自分の中にはあるので、そこも味わっていただきたいという思いがあります。

HANCE

――みなさんぜひご賞味を。そして1月27日には東京・青山の月見ル君想フで、リリースパーティーがあります。東京では1年ぶりのワンマンライブです。

HANCE:そうですね。月見ル君想フには今回初めて今回出演させていただくんですけど、HANCEの曲には月という言葉がよく出てくるので(笑)。ステージ後方に大きな月が飾ってあると聞いていますので、すごく楽しみですね。

――2024年はどんな目標をもって、どんなふうに進んでいく予定ですか。

HANCE:今は国内メインで活動しているんですけれども、実はHANCEのリスナー層は海外のほうが多くて、ストリーミングで再生されている地域を見ると、東京は5番目とか6番目ぐらいなんですよ。音楽は国境を越えるということを自分で体感したいので、いろんな国や地域に演奏しに行きたいなという気持ちがあります。

――海外公演もすでに発表されていますよね。2月ですか。

HANCE:2月17,18日にスイスのローザンヌで開催される音楽フェスティバルに出演することが決まっています。7月には、ハンガリーのブダペストで、同様に音楽フェスに出演させていただく予定です。

――海外の方にHANCEの音楽が受け入れられる理由は、何だと思いますか。

HANCE:Spotifyなどの傾向を見ると、現時点で一番聴いていただいているのは、チリのサンティアゴ。ブラジルとかメキシコとか、ラテン系の国の方は多く聴いていただいていますね。確かに僕の曲にはラテンの要素も入っているんですけど、もろにラテンの曲をやろうという気持ちはなくて、本人としては、あくまでもエッセンスとして滲み出ているという感覚なんです。その中には歌謡曲の要素もあれば、ジャズの要素もあれば、日本っぽいメロディもあって。僕はよくパスタを例に例えるんですけど、パスタは日本発祥ではないですが、パスタからヒントを得て、ナポリタンという日本独自の料理を生み出しましたよね? 恐らく、海外の方は「ナポリタン」を食べている感覚なんじゃないでしょうか。食べたことあるような気がするけど、違う料理だよね? みたいな(笑)。

――HANCEさんの持っている様々な音楽性のどこかに反応するんでしょうね。とても面白いですし、素晴らしい可能性だと思います。これからの海外での活躍を期待しています。まずは1月のライブ、楽しみにしていますので。

HANCE:ありがとうございます! 今回は総勢8名のフルバンドでお届けしますので、みなさん、是非ライブ会場にお越し下さい!

■リリース情報
アルバム『BLACK WINE』
HANCE
2023年12月13日 DIGITAL RELEASE
<収録楽曲>
1.BLACK WORLD
2.モノクロスカイ
3. Dancing in the moonlight
4.螺旋
5.シャレード
6.或る人
7.left
8.炎心
9.十字星
10.シャーロックの月
11.snow sonnet
12.眠りの花

ダウンロード&ストリーミングはこちら
https://linkco.re/bdmfvtBH

■公演情報
『HANCE〜Premium LIVE in Tokyo』
2024年1月27日(土)
東京・月見ル君想フ
OPEN 18:00〜(メンバーシップクラブ会員)、18:15〜(一般客)
START 一部 18:30〜 / 二部 19:25〜
チケット:7,000円

チケット購入はこちら
https://hance-tokyo-live.peatix.com/view

■関連リンク
HANCEオフィシャルサイト:https://www.hance.jp/
HANCE YouTube:https://www.youtube.com/@HANCE_Official
HANCE Instagram:https://www.instagram.com/hancevalencia/
HANCE X(旧Twitter):https://twitter.com/hancevalencia1

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