ワーナーミュージック発ディストリビューション事業“ADA”は日本でどう戦う? 今メジャーレーベルに求められるもの

ADA エリック・ジュ氏インタビュー

「今日作って、明日出す」ができるシステムが必要

Alice Peralta - PRIORITY(Official Music Video)

ーー個々のアーティストとの契約も増えていて。Alice Peralta(アリス・ペラルタ)さんもその一人です。

エリック:Aliceさんは2015年からインディペンデントで活動していたのですが、ポテンシャルの高いアーティストということもあり、ADAでサポートすることになりました。楽曲の配信はもちろん、MVの制作も共に行ったり、弊社のアーティストとつなぐことも行っています。ただ、ブランディングに関してはかなり気を付けているところがあって。我々のブランディングに合わせてもらうのではなく、アーティスト自身がしっかり自分自身のブランディングを表現しなくてはいけないと思っています。UNLAMEもそうですが、メンバーたち自身がやりたいことをヒアリングしたうえで、「それを実現するために、ADAとして何ができるか?」を提示するべきだなと。それはインディペンデント・レーベルと提携するときも同じですね。現在も数多くのアーティストやレーベルからディストリビューションの話をいただいていますが、基本的にはすべてお受けしているし、展開や方向性の議論を続けていて、今年だけで約5,000トラックを配信しています。

【MV】The Biscats /「ノッてけ!Sunday」

ーーさらに若手ロカビリーバンド「The Biscats」の全楽曲配信もスタート。ロカビリーに着目したのはどうしてですか?

エリック:現在、ロカビリーはかなりニッチなジャンルだといわれるのですが、実は日本でも1950年代に大きな流行になったことがあります。その後、山本リンダさん、郷ひろみさん、中森明菜さんなどがロカビリー調の楽曲をヒットさせましたし、日本の音楽シーンとロカビリーの親和性はとても強いと歴史が証明しています。だからこそ、今も需要があるはずだと思っているんです。The Biscatsはロカビリーを復活させるポテンシャルを持ったグループですし、ADAとしても精いっぱいサポートさせていただきたいと考えています。

ーーかつてのムーブメントをリバイバルさせることもADAの役割の一つかもしれないですね。

エリック:そうですね。よく言われるように、流行は何度も巡ってきます。音楽におけるデジタルトランスフォーメーションの結果、各音楽配信サービスを利用して昔の楽曲にアクセスしやすくなりました。既存の顧客層も、Z世代といわれる現代の層も、簡単にアクセスができて聴くことができる。昔ならCDを借りるとか、MDにコピーして聴くとか、手間が必要だったのが、こうも簡単に聴けるのです。その環境のおかげで過去のトレンドに再び注目が集まることも増えていて、実際数字でも表れているんですよね。なのでADAは、EDMから演歌まで、ジャンルに関係なく、過去のカタログを発信することにも力を入れたいと思っています。

ーー莫大な数のコンテンツが存在するなかで、ユーザーの可処分時間の奪い合いが続いています。音楽の存在感が低下しているのではないか?ということも言われますが、エリックさんはどう考えていますか?

エリック:音楽は24時間使えるコンテンツだと思っています。寝るときに聴いてもいいし、仕事をしながら、通勤中でも、通学中でも、運転しながら聴いてもいい。映像コンテンツやゲームなどに比べても、利用頻度は高いはずなんです。しかも音楽コンテンツはほとんどが3分から5分なので、短時間でのサーキュレーションがよく、リピートもしやすい。そう考えると、とんでもなく大きなマーケットがあるんですよね。市場のポテンシャルを活かすためには、流行曲だけではなくて、過去のカタログを利用することも必要。それもディストリビューションサービスの役割だと思っています。

ーー今後の活動ビジョンについても教えてもらえますか?

エリック:いろいろ仕込んでいることがありますが、私自身がやりたいことはまずPodcastですね。アメリカや韓国ではPodcastがすごく盛んで、それが楽曲のリスニングにつながっている側面もあるんです。我々も独自のポッドキャストを立ち上げて、アーティストのみなさんに自由に話していただけたらなと。海外に比べると、日本のアーティストの方々は“はっちゃけて”喋ることが少ない気がしていて。イメージを気にしているのかブランド管理なのか、いろいろな理由があると思うんですけどね。ただYouTubeチャンネルなどでは面白いコンテンツが増えているので、これから変わってくるのではないでしょうか。

ーーアーティスト自身の発信力も問われそうですね。

エリック:そうですね。そこも若い世代のアーティストに期待しているところです。世界の音楽シーンのことをよく知っているし、私達の世代とは見ている世界が違う。新しい制作スタイルも学んでいて、私自身も学ぶことが多いんです。これまでと同じようなやり方は間違いなく通用しなくなる。いや、もう通用しないですね。個人でやれることが増えているなかで、ディストリビューションやレーベルの役割は何だろう? ということも常に考えていますね。

ーーADAの活動は、メジャーレーベルの未来を先取りしているところもあるのでは?

エリック:私自身はそういう側面もあると思っています。そして、情報通信産業が発達するにつれて、必ず必要になるのが、意思決定の速さだとも思っています。ADAの組織を作るときに気を付けたのは、社内の承認決済ラインを最小限にすること。もう一つは社内業務のスピードを上げていくことでした。たとえば制作期間に半年かけてしまうと、世の中のトレンドはすっかり変わってしまう。そうではなくて、「こういうテイストの曲を作る」と決めたら、「今日作って、明日出す」ということができるシステムが必要なんです。そこも我々の強みだと思っています。

ーースタッフの皆さんのアイデアも大事になってきそうですね。

エリック:ADAのスタッフは音楽が大好きだし、全員が何かの本物のオタクなんですよ。アニメ、ゲームにめちゃくちゃ詳しい人もいるし、作曲のオタクもいて。なにより、いい意味でも悪い意味でも音楽バカなスタッフが揃っています。それぞれの専門分野を活かしながら、一丸になって動けるチームだと自負しています。アーティストから楽曲をお預かりして、ストリーミングサービスで配信するのが我々の基本的な業務ですが、それだけでは気が済まないと言いますか。私自身もいろいろなライブに足を運んでいますし、渋谷のクラブにも行ってるんですよ。現場を知ることで「影響力のあるDJの選曲をプレイリストとして配信できたら面白いだろうな」といったアイデアも出てくるんですよね。そういう感覚は大事にしたいと思っています。ディストリビューションが主な役割とはいえ、クリエイティブを忘れないで、むしろディストリビューションに適用していく。そういう組織になれるようにこれからも頑張っていきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

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