“関西ゼロ世代”のDNAはどう受け継がれた? GEZAN、おとぼけビ~バ~、モーモーから新世代バンドまで

 その昔、「関西ゼロ世代」というムーブメントがあった。2000年以降に結成され、主に難波BEARS、新世界BRIDGE(2007年に閉店)などのライブハウスで活動していたアーティストたちのことだ。あふりらんぽ、ZUINOSIN、オシリペンペンズの御三家を筆頭として、どのバンドもアバンギャルドな音楽性とアナーキーな感性をぶつけ合いながら、観客を大いに沸かせていた。

 ゼロ世代以降、ミドリ、クリトリック・リス、ワッツーシゾンビ、neco眠る、DODDODOなどジャンル、世界観も違うが、イズムを共有したバンドたちが関西から次々と登場。また石井モタコ(オシリペンペンズ)、森雄大(neco眠る)、DODDODOの3人は音楽レーベル・こんがりおんがくを立ち上げ、ムーズムズ、And Summer Club、CASIOトルコ温泉といったアーティストを輩出してきた。

 今回はこの「関西ゼロ世代」のDNAが今どのような形で引き継がれているのか、そして2020年代における「ゼロ世代」的立ち位置にいるアーティストについてを論じていきたい。

ゼロ世代の熱狂を伝えるGEZANとおとぼけビ〜バ〜

 ゼロ世代のDNAという点で、まずおさえておきたいのはGEZANとおとぼけビ〜バ〜であろう。

 GEZANは2009年に大阪で結成。難波BEARSを中心に活動を行い、2012年に拠点を東京に移し、現在は全国各地でライブ活動をしている。痛みを感じるようなハードコアから、全て包み込むような優しい音楽まで、そのサウンドは枠にとらわれずに奏でられる。だが一貫して歌っているメッセージは社会における残酷さと、そこからどう共生していくかということ。メッセージの強さもさることながら、『狂(KLUE)』(2020年)ではBPMを100で縛る、最新アルバム『あのち』(2023年)では総勢15名のコーラス隊・Million Wish Collectiveを率いて爆音と無数の声が飛び交う作品を作るなど、常に自身の音楽を更新し続ける点も面白い。

GEZAN with Million Wish Collective 「We Were The World」(Official Music Video)

 おとぼけビ〜バ〜は2009年に結成された京都出身のバンドだ。現在では世界中を飛び回り、アメリカの『コーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)』(2018年)や、スペインの『プリマヴェーラ・サウンド(Primavera Sound)』(2022年)等にも出演。熱狂的なファンを獲得している。彼女たちの魅力はステージ、観客席関係なく全力で暴れまくるところだ。その姿はライブハウスやフェスが自由な遊び場であったことを思い出させてくれる。また音楽的な面でいうと、思っていることを歯に衣着せぬ表現で歌にする点や、変拍子を多用しながらも同じワードを何度も繰り返して使い、口ずさみたくなるようなリズムを作り出している。

PARDON? [OFFICIAL PV]

ゼロ世代をポップに広げたモーモールルギャバン

 おとぼけビ~バ~やGEZANだけではゼロ世代のイズムは「局所的なものでは?」と感じる人もいるかもしれない。しかし個人的にはそのイズムは、あるバンドにより、特に昨今の音楽フェスにおけるアーティストのパフォーマンスに大きな影響を与えていると考える。そのバンドこそモーモールルギャバンだ。

モーモールルギャバンLIVE「野口、久津川で爆死」2018/2/9

 同バンドのライブはインパクトがすごい。デビュー当初から「サイケな恋人」での“パンティーコール”や、パンツを脱ぐ・脱がないというパフォーマンスを仕掛けるなどして、他のバンドとは一線を画すスタイルを確立して話題となった。そしてこのライブの影響源にあたるのが難波BEARSである。モーモールルギャバンもまた、関西ゼロ世代のライブを観て育ったバンドなのだ。

 重要なのはこのゼロ世代イズムをまとったライブが、音楽フェスでのパフォーマンスにおいて1つの基準になったこと。モーモールルギャバンが登場して以降の関西バンド、例えばキュウソネコカミ、ヤバイTシャツ屋さんなどは演奏だけでなく、「いかにインパクトを残して、観客を沸かせるか」ということを念頭に置いたライブを行ってきた。そういう意味では音楽フェスが「演奏を聴かせる場所」としてだけでなく、「自由な遊び場」でもあることを再定義する流れを作ったのは、モーモールルギャバンが一つの発端であったと言えるかもしれない。

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