Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸が向き合う、音楽を介した他者との繋がり方 「“個”が強化されても意外と自分は幸せになっていない」

ラッキリ熊木幸丸、他者との向き合い方

モヤりを“なかったこと”にはできない

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

ーー「無限さ」では〈Feel this love〉と歌われますけど、「love」、あるいは「愛」という言葉って、熊木さんは昔から歌っている印象があるんですよね。人によっては躊躇する言葉でもあると思うんですけど、熊木さんは、そこに対してあまり躊躇いはなさそうだなって。

熊木:やはり、ハウスミュージックやダンスミュージックには“LOVE”を掲げる曲が多いですからね。愛について歌い、愛を称賛している……ダンスミュージックのその感じがカッコいいなとずっと思っていて。その痛快さ、気持ちよさがあるので、僕は、抵抗はないんです。ダンスの中で歌う単語として、“LOVE”や“愛”はすごく親和性が高いと思います。

ーー「無限さ」は、音楽的にはどのようなイメージがありましたか?

熊木:『Kimochy Season』もそうでしたが、基本的にはUKのハウスミュージックがずっと好きですし、自分にしっくりくることが多くて。フレッド・アゲインのように、エモーショナルにダンスミュージックを表現する人。UKではないですけど、ポーター・ロビンソンとかもそうですね。そういう感覚に共鳴している曲だと思います。元々、僕はAMERICAN FOOTBALLとか、ボン・イヴェールとか、オルタナティブロック、ポストロックみたいなジャンルが好きだったので、自分の中にある感覚とも接続しているんだろうなと思うんです。突然自分の中で出てきた音楽感覚というよりは、これまで自分が好きになってきた音楽への感覚が、ふわっと落ち着いた曲だったのかなと。

ーーある意味では、熊木さんの原点的な部分も出ている曲というか。

熊木:こういう音楽で自分の気持ちが晴れるような感覚って、ずっと自分が音楽に求め続けたものだったような気がします。「楽しい」だけじゃなくて、「辛いな、もやもやするな……」という感情に対して、音楽が寄り添ってくれること……それは、その感情をなくしてくれるのか、考え直させてくれるのか、別の道を見つけてくれるのかわからないですけど、そういう部分に僕は音楽の素晴らしさを感じ続けていたので。

ーー「靄晴らす」の音楽性に関してはどうですか?

熊木:歌詞にも実は入れているんですけど、2019年の『FRESH』という作品に「初恋」という曲があって。その曲がUKガラージライクな楽曲で、昨今のUKガラージやテン年代ハウスミュージックの盛り上がりに乗じて、「初恋」も今出せばよかったなぁと思っていて(笑)。

ーー(笑)。

熊木:そんなことを思いながら、最近ガラージを書いていなかったですし、「今の俺がガラージを書いたら、どんな曲を作るんだろう?」という好奇心から、書いてみたのが「靄晴らす」の音楽的なバックグラウンドなんです。

ーーなるほど。そして歌詞は、先ほども少しおっしゃっていたように、「怒り」というか、自分の中にある不穏な感情に向き合っているような部分がありますね。

熊木:僕は、日常的にモヤっていることが多くて。それは自分に対してもそうですし、他人に対してもそうなんですけど、そのモヤる瞬間……オセロでまとめて黒にされてしまうような、すべてがひっくり返ってしまうような瞬間がすごく嫌で。それについて書きたいなと思ったんです。

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

ーーこの曲を書いていた時期に、特にそういう感情になることが多かったんですか?

熊木:いや、ほぼずっとモヤっているんですよ(笑)。今日もこの後きっと、「インタビュー、ちゃんと話せなかったな」と思いますでしょうし、人に「こういう曲書いてみたらいいよ」と言われると、「うるさいな!」と思いますし(笑)。

ーー(笑)。

熊木:もちろん、考えていった先に「そういう意見もあるか」と思って考え直すこともありますけど。とにかく、いろんなことでモヤっている。こういう感じって、あまり曲にしてこなかったと思うんです。今までは、モヤっていることに対して、「こうして解決していこうよ」というスタイルの曲が多かったと思うんです。でも、今回はただひたすら「モヤり」を曲にしていて。「並走する」って、必ずしも解決するだけではなくて、モヤっていること自体を共有してくれることも並走のひとつの在り方なのかなと思うんです。すぐに解決できない複雑な問題だってありますし、そういうものは時間をかけて向き合っていかなければいけないわけで。それを忘れさせてくれる楽しい思いだけでは、どうしたって太刀打ちできないことはありますから。

ーーわかります。一過性の逃避だけではどうしたって無理がくる。

熊木:だからこそ、「解決策はわからないが、とにかく話を聞いたり、話をすることはできるよね?」という感覚で、「靄晴らす」を書きました。きっとみんな、モヤることってあると思うんです。モヤっている中で、何とかバランスをとってやっている。モヤりを「なかったこと」にはできない。だからこそ、今回は一旦、「モヤるよね?」という同意や許容をお客さんとお互いにしたかったんです。

ーー解決が欲しいタイミングもきっとあると思うんですけど、解決するのではなく、まず、その感情やその人が「存在すること」をお互いに認め合う……そういう感覚を抱くことができるのは、音楽のよさですよね。

熊木:はい、そうですね。「悲しい」という思いを、「悲しい」という思いのまま音にすることって、大事なことだと思いますし。

ーー最後に、表題曲の話に戻っちゃいますけど、「無限さ」というタイトルが印象的で。「無限」という言葉がこの曲にフィットすると思ったのは何故ですか?

熊木:元々のこの曲のインスピレーションが、トム・ミッシュが今やっているダンスミュージックプロジェクト・Supershyの、「Feel Like Makin’ Love (feat. Roberta Flack)」だったんです。すごく好きな感じの曲なんですよ。フィルターハウスの感じと、ロバータ・フラックのサンプリングの感じが大好きで、「この曲、何時間でも聴けるな。無限だな」と思って。それで、この曲を入れた「無限だ」というプレイリストを作ったんですけど(笑)、この「無限に踊れる感覚」を僕も醸成したいなと思いまして。そこから、「人と無限に踊るってどういうことなんだろう?」とか、「無限を感じるくらい、可能性を感じる瞬間ってどういうときなんだろう?」ということを考えて、この曲の歌詞は広がっていったんです。その中で、「無限さ」っていう、広がりのある口語の感じがカッコいいなと思って。まだ歌詞がしっかりとできていない段階から、この曲のタイトルは「無限さ」でした。

ーー10月の後半からは新たなツアー『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “YAMAODORI 2023”』も始まりますね。

熊木:『YAMAODORI』は去年からやっているツアーで。今持っているLucky Kilimanjaroの曲でいかに踊らせるライブをしっかりと作るかに注力したツアーなんですけど、今回は最初にも言ったように、「いかに接続するか」にしっかりと向き合いたいなと思います。それは僕らとお客さんもそうですし、お客さん同士も含めて。どうしたら、Lucky Kilimanjaroのコミュニティにみんなが「無限感」を感じてくれるかが、今回のツアーのキーになるだろうなと思います。

■リリース情報
デジタルシングル『無限さ』
配信はこちら
https://lnk.to/LK_mugensaYA

<収録曲>
01.無限さ
02.靄晴らす

■関連リンク
オフィシャルサイト:https://luckykilimanjaro.net/
Official Fanclub「LKDC」:https://fc.luckykilimanjaro.net/

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