原口沙輔によるボカロ曲「人マニア」バイラルチャートイン VTuberらカバー動画も話題、ウェットな要素が楽曲に奥行き

人マニア - 重音テト

 そして、今回特に注目したいのは、3位にランクインした原口沙輔「人マニア」。タイトルが特徴的なこの楽曲を詳しくチェックしてみよう。原口沙輔は、トラックメイカー、作詞家、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、レコーディングエンジニア、シンガーソングライター、ダンサー、DJ、ドラマーと、さまざまな顔をもつマルチアーティスト。以前はSASUKEの名義で活動していたが、2023年5月より現名義で活動している。「人マニア」は、そんな彼が今年ニコニコ動画に公開したボーカロイド楽曲である。ボカロ文化の祭典「The VOCALOID Collection(ボカコレ)」が2023年夏に発表した合成音声ソフトウェアを使用したオリジナル楽曲ランキングでは、11位にランクインする人気楽曲だ。

人マニア / 原口沙輔 - 月ノ美兎withブラクラーズ(cover)

 この楽曲のヒットに一役買っているのは、SNSや動画共有サイトでのVTuberらによる「歌ってみた」動画の投稿である。もともとボーカロイド楽曲ということもあり「歌ってみた」のような二次創作とは親和性の高いこの楽曲。カバー動画が投稿されることで、拡散が拡散を呼び、加速度式に楽曲の人気が広まったようだ。ボカロ楽曲と聞くとキャッチーでポップなイメージをいだかれることも多いが「人マニア」は、少し様子が違う。トラックに注目してみると、その質感は非常にハードでインダストリアルテクノの雰囲気さえ感じさせる。清涼感のある歌メロとは対照的な無機質で硬いトラックが何度もリピートしたくなるいい違和感を演出しているのだ。また、重音テトの無機質な歌声で歌われるシュールな歌詞もトラックと同様に、独特の印象を残す。それでも、よく歌詞を読み込み単語単位で拾い上げると〈愛〉〈悪意〉〈恥〉〈償い〉のようなウェットな言葉が散りばめられていることに気づく。この隠し味のように忍ばされたウェットな要素が楽曲の奥行きを創り上げているように感じる。

 「人マニア」のカバー動画が拡散されていることを紹介したが、楽曲の人気が高まるに連れそのカバーの種類にも変化がでてきている。動画共有サイトを覗いてみると、「歌ってみた」動画だけでなく、ピアノ演奏カバーや、文字PV(リリックビデオ)など、さまざまな切り口のカバー動画、二次創作動画が投稿されているのだ。原曲を軸に多方面へ派生した動画が日々投稿されていることを考えると、原口沙輔の「人マニア」がみんなの「人マニア」になりつつあるように感じる。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2023-10-04

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