TOMOO、初のフルアルバム『TWO MOON』全曲レビュー:ひとりぼっちの“星”が暗闇の中で繋がり“星座”となるまでの軌跡

 「待望の」という言葉がこれほど似合う作品もそうないだろう。2022年8月にシングル「オセロ」でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター・TOMOOによる、初のフルアルバム『TWO MOON』がついにリリースされた。彼女の名を広く知らしめた「Ginger」をはじめ、前述の「オセロ」はもちろん名曲「Cinderella」などの既発曲に加え、先行シングルの「Grapefruit Moon」、そして「Super Ball」や「窓」といった新曲を含む全13曲は、どこから切り取っても「TOMOO印」というべきオリジナリティに溢れている。キャロル・キングやトッド・ラングレン、Chicagoといった主に1970年代の洋楽を基軸としつつ、ジャズやソウル、J-POPにニューミュージックなどのエッセンスをも受け継いだメロディラインやアレンジ。そこに現代社会で生きづらさを抱える聴き手の心に寄り添うような、等身大かつ内省的な歌詞を乗せた唯一無二の楽曲で、着実にファンベースを広げているTOMOOの「今」をぎゅっと詰め込んだようなアルバムだ。

 さっそく1曲ずつ紐解いていこう。アルバムの冒頭を飾る「Super Ball」は、サウンドプロデュースに小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)を初起用。跳ねるようなリズムに歯切れの良いブラスセクションを絡ませつつも、抑制の効いたアンサンブルがTOMOOのアルトボイスを引き立てる。このままクールに終わるのかと思いきや、エンディングに向け徐々に熱を帯びていく彼女の歌とともに、カオティックに展開していくサウンドスケープは圧巻だ。

TOMOO - Super Ball【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 続く「オセロ」はアレンジャーにmabanuaを起用。Chicagoの「Saturday in the Park」を彷彿とさせる、コンプレッションの効いたピアノイントロに心弾ませるのも束の間、セクションごとにプログレッシブな展開をみせるバンドアンサンブル、メジャーとマイナーの狹間で漂うようなメロディは、曲名どおり強さと弱さ、光と闇といった、相反する要素が隣り合う自分自身をオセロの石に例えた歌詞の内容と見事に呼応している。

TOMOO - オセロ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 まるでハンマーを打ち鳴らすような強烈なピアノバッキングでスタートする「Ginger」は、The Jackson 5の「Never Can Say Goodbye」あたりを彷彿とさせるTOMOOの初期代表曲。まるで鍵盤の上を歩く猫のステップのように、軽やかなメロディが心踊る。この曲を書き上げた直後、Official髭男dismの「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」を聴いたTOMOOは、彼らのブラックミュージックに対する距離感や、それをポップスのフォーマットに落とし込むセンスに「強烈なシンパシーを感じた」という(※1)。のちにヒゲダンの藤原聡が、この「Ginger」を絶賛したのはある意味必然といえるかもしれない。

TOMOO - Ginger 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 「酔ひもせす」もリズミカルなピアノのバッキングと、キャロル・キングやジェームス・テイラーら1970年代シンガーソングライターを思わせるメロディが印象的なナンバーだ。以前のインタビューでTOMOOが、「一度めちゃめちゃ落ち込んだ後に、反動で『明るい感情も切り取りたい!』となり、それで書いてみたちょっと珍しいテンションの曲」(※2)と述べていたように、ちょっとラブコメ仕立てとも言えるような歌詞がユニークだ。

TOMOO - 酔ひもせす【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 公式コメントによれば、「ストレスフルな状況の中で拭えない枯渇感や憔悴感をもったまま、どう日々を満たすか、どう自分を癒していくか。良くも悪くも、そうやって苦い経験や事柄も楽しめるようになるのが大人」という、そんな着眼点から生まれた先行配信曲「Grapefruit Moon」は、「Super Ball」と同じく小西遼によるプロデュース曲だ。〈満たされるほどに熟れる果実じゃない/なら悪くない ちゃんと今/乾いてるって 欲しいんだって わかるでしょう〉〈もう苦いのも食べられると/気がついた頃に思う/それはさ、豊さ? 鈍さか? なんてね〉と歌われる歌詞は、今年6月に誕生日を迎え、ただ「若い」わけでも「若くない」わけでもない年齢を迎えたTOMOOだからこそ書けるものだろう。

TOMOO - Grapefruit Moon (Official Audio)

 トオミヨウがアレンジャーとして参加した「17」は「人が大人になれるのは、隣に誰かいるから。でも人がこどもに帰れるとしたら、それもまた隣に誰かがいるから」というテーマで書かれたというミディアムバラード。以前のインタビューによれば、彼女が本格的に音楽活動を始めたのが17歳で、27歳のうちにこの曲を出したいという思いがあったとのこと(※3)。コード進行は入り組み、譜割もセクションごとに変化する、それでいてメロディはリズミカルでキャッチー。まさにTOMOOのメロディメイカーとしての面目躍如といった曲だ。さらに、〈大人になるのも 子供になるのも/きみとがいいよ きみとがいいよ〉と歌う「ベーコンエピ」も、「17」で言いたかったことと通じるものがあるだろう。ライブではすでに何度も披露されているこの人気曲を、sugarbeansがシンプルにアレンジ。地声とファルセットを巧みに使い分け、聴き手の予想を心地よく裏切っていくメロディは一度聴くと耳から離れない。

TOMOO - 17【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

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