サザンオールスターズ、新曲三部作で貫く攻めの姿勢 世界中の音楽からインスパイアされて歌う“故郷への想い”

サザン、新曲三部作で貫く攻めの姿勢

 「歌えニッポンの空」は、その“故郷(ふるさと)”というテーマをより前面に押し出した1曲だ。

サザンオールスターズ - 歌えニッポンの空 [Official Music Video]

 「盆ギリ恋歌」がインドネシア歌謡ならば、この曲はいわばラテン〜ハワイアン歌謡。ラテンと言ってもブラジルのサンバのような情熱的でダンサブルな曲調ではなく、爽やかで開放感あるゆったりとしたサウンドが特徴だ。ベースになっているのはメキシコの代表的な音楽ジャンル、マリアッチだろう。MVでもマリアッチ楽団に扮したミュージシャンの姿が登場する。〈ありがとう!!〉と歌うところでは「ARIGATTO!」という文字も浮かぶのだが、ここの「ありがっとう!!」と歌うフロウもメキシカンな雰囲気を醸し出している。加えて、メロディの大らかな響きにはハワイアンに通じるテイストもある。

 歌詞には〈ここで生まれて育って/夢見ることを学んだ〉〈ここが故郷(ふるさと)/歌え日本の空!!〉と、故郷への愛着あふれる思いがストレートに描かれている。〈騒ぐ潮風に乗って/『浜降り』の音が〉という歌詞にある〈浜降り〉とは、毎年7月に茅ヶ崎で行われる「浜降祭」のこと。ただ、この曲のポイントは、茅ヶ崎を指し示す固有名詞や具体的な描写というよりも、日本のどんな場所にも当てはまるような夏の情景が歌われていることだろう。それぞれの聴き手が思う故郷の情景や記憶、大切な人とのつながりを想起させるような1曲だ。

 そして、「Relay〜杜の詩」は、これもサザンの真骨頂と言えるドラマティックなミディアムバラード。

サザンオールスターズ - Relay〜杜の詩 [Official Music Video]

 明治神宮外苑の再開発をきっかけに制作されたというこの曲。再開発に伴う樹木の伐採については、今まさに様々な意見がメディアを飛び交っている。神宮外苑のすぐそばにあるビクタースタジオを長年拠点にしてきたサザンオールスターズにとっては、外苑前から国立競技場に至る青山のエリアは、もう一つの“故郷(ふるさと)”と言っていい場所だ。そこへの思いを綴った曲という意味では、まさに2023年に生まれた必然性のある社会的な歌と言える。〈地球が病んで/未来を憂う時代に/身近な場所で何が起こってるんだ?〉という率直な問いかけが歌われている。

 ただ、一聴して感じたのは、単に神宮外苑の再開発への憂いというような切り口だけにとどまらない、この曲の持つ射程の広さだ。ゴスペル調のこの曲は、ピアノのノスタルジックな響きに始まり、包容力あるストリングスとクワイアが広がる。曲後半では力強いビートが印象に残る。後期The Beatlesを彷彿とさせるような壮大なスケール感がある。

 作られたきっかけこそ時代性を強く反映しているが、曲そのものの持つエネルギーや情感には、そこを超えるタイムレスな響きがある。

 「盆ギリ恋歌」「歌えニッポンの空」「Relay〜杜の詩」という三者三様の曲が揃ったことで、“故郷(ふるさと)”という共通するキーワードと、バンドの持つ多彩な音楽性が改めて見えてきた感がある。時代を切り取り、かつ時を超えるポップソングとしてのアプローチの巧みさも感じる。

 9月27日、28日、30日、10月1日には、神奈川・茅ヶ崎公園野球場で『茅ヶ崎ライブ2023』が開催される。10年ぶりに“聖地”で行われるスペシャルなライブは大きな盛り上がりを見せるだろう。そして3曲の新曲も大きな見せ場となるはずだ。

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