ジャンル&年代特化型フェスの増加理由は、ノスタルジーだけではない メタルレジェンド集う『パワー・トリップ』に向けて
『デザート・トリップ』から7年、レジェンドが再び『パワー・トリップ』に集う
2016年10月、The Rolling Stones、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニー、ニール・ヤング、ロジャー・ウォーターズ、The Whoというロック界の大御所が集結した音楽フェスティバル『デザート・トリップ』が開催された。会場及び運営会社(Goldenvoice)が同一ということもあって、当時は『Oldchella(老人版コーチェラ)』と揶揄されることもあった同フェスティバルだが、蓋を開けてみれば圧倒的な実力と話題性によって大盛況のもとに幕を閉じ、終演後は早くも次年度のラインナップがどうなるかという予想が盛り上がるほどだった。だが、翌年以降に『デザート・トリップ』が開催されることはなく、やがて、たまに復活の噂が出てきては消えていく、「あの日だけの特別なフェスティバル」として語り継がれるようになっていったのである。
だが、あれから7年の時を経て、そんな『デザート・トリップ』の続編的位置づけとなる音楽フェスティバルが遂に開催される。その名も『パワー・トリップ』。今回も『コーチェラ・フェスティバル』と同じ会場を使い、10月6日から8日の3日間に渡ってロックレジェンドたちが集結する。出演するのはGuns N' Roses、Iron Maiden、AC/DC、Judas Priest、Metallica、Toolの6組を予定しており(オジー・オズボーンは出演辞退)、1960~70年代を代表するロックバンドから、70年代~80年代を代表するハードロック/ヘヴィメタルバンドに軸を移したような形だ。とはいえ、泣く子も黙るレジェンドが勢揃いしていることには変わりなく、期待以上に「本当に集まるのか?」という疑問を抱いてしまうくらいには、とんでもなく豪華なフェスティバルである。
「ジャンル/時代特化フェスティバル」の流行
ただ、近年の大規模な音楽フェスティバルといえば、BLACKPINKやバッド・バニーといったアーティストをヘッドライナーに迎えた『コーチェラ』を筆頭に、ジャンルや出身地域、世代や言語など、会場に訪れるさまざまな客層に合わせた幅広いラインナップを揃えるのが基本だ。ジャンルどころか年代まで特化している『デザート・トリップ』や『パワー・トリップ』のようなフェスティバルは、そういった考え方に逆らっているかのように捉えることもできるだろう。
だが、ここ数年のフェスティバルの動きを見ていると、実はむしろそうした“年代/ジャンル特化型フェスティバル”の方が話題を目にする印象が強いようにも思える。
大きなきっかけとなったのは、『デザート・トリップ』を手がけたGoldenvoiceが2020年に立ち上げた2つのフェスティバル、『Cruel World』と『Lovers & Friends』だろう。モリッシー、Bauhaus、Blondie、Devo、Public Image Ltd.といった80年代のニューウェーブを中心とした『Cruel World』と、ローリン・ヒル、TLC、アッシャー、ミッシー・エリオットなどの90年代~2000年代前半のR&B/ヒップホップを中心とした『Lovers & Friends』は、ともにそのラインナップの(分かる人には分かる)豪華さから絶大な反響を巻き起こすことになる。
この2つのフェスティバルはどちらもパンデミックの影響によって2022年に開催が延期となったが、当初予定していたチケットが速攻でソールドアウトし、ただちに追加日程がアナウンスされるほどの大成功を収めた。両フェスティバルは今年も引き続き開催されており、相変わらず豪華なラインナップを実現している。
実は『Lovers & Friends』に関しては2022年の開催へと延期するにあたって、運営会社がLive Nationへと変わっている。それが影響したのかは定かではないが、この勢いに乗るかのように同社は2022年にさらに2つのフェスティバルの開催を発表する。『When We Were Young』(2022年10月開催)と『Sick New World』(2023年5月開催)だ。My Chemical RomanceとParamoreをヘッドライナーに迎え、アヴリル・ラヴィーン、Jimmy Eat World、A Day To Rememberといった2000年代前半のエモ/ポップパンク系のアーティストが集結した『When We Were Young』と、System of a Down、KoЯn、Deftones、Incubus、Evanescenceといった90年代後半〜2000年代前半のニューメタル勢が集う『Sick New World』は、やはりどちらも大きな反響を巻き起こすことになる。特に『When We Were Young』については、近年のポップパンクリバイバルの潮流と合致したことも相まってか、当初1日だけの開催予定だったところを3日間に拡大するほどの大成功を収め(初日は天候の事情により中止となったが)、今年も10月にGreen DayとBlink-182をヘッドライナーに迎えての開催が予定されている。このように、この数年で“ジャンル/年代特化型フェスティバル”が次々と開催され、いずれも大きな反響を巻き起こすという状況となっているのだ。『パワー・トリップ』は、まさにこの流れの源流にある『デザート・トリップ』の続編的位置づけであり、満を持しての帰還とも言えるだろう。