「センチメンタル・キス」が話題の汐れいら、同世代の共感集めるポイント 生々しくもドラマティックな歌詞を紐解く
汐れいらというシンガーソングライターを知ったきっかけは、ABEMAオリジナル恋愛番組『彼とオオカミちゃんには騙されない』に起用された「センチメンタル・キス」のアコースティックバージョンだった。情景描写のリアルさ、物語性あるせつない歌詞が共感を集め、2022年のワンシーンを切り取ったポップナンバーとなったのである。
……ここまではよくある話かもしれない。
だが、汐れいらは単純にショート動画やタイアップで人気となった弾き語りシンガーとはどこか違うなと思った。それは、歌詞における心と身体の距離感の変化、別れた後の恋人同士の残り香とでもいうべき淡い感情を見事に表現していたからだ。「センチメンタル・キス」は、番組の展開と見事にシンクロし、同世代を中心にバイラルヒットを記録。恋愛関係にあった二人の終わりを煙草やドラマに置き換えて間接的に表現することで、エモーショナルかつ繊細な心の機微を伝えてくれた。結果、共感は連鎖を生みバズが生じてTikTokでカバーするUGC動画も増え、ネット上での盛り上がりがランキングによって可視化されるSpotifyバイラルチャートで1位へと上り詰めた。同楽曲のヒットの背景は番組との親和性の高さはもちろんだが、日常に根差した歌詞が同世代のリスナーの心に刺さったことが大きいだろう。そこで今回は歌詞に着目して汐れいらの魅力を紐解きたい。
東京都江戸川区出身。汐れいらは、16歳の頃から作詞作曲をはじめ、文章を書くことも好きだったことから小説も書いていたが、音楽にのせて言葉を伝える手法に魅力を感じ、シンガーソングライターへの道を選んだ。余白を活かせることが、音楽表現が持つ魅力なのだという。
汐れいらによる作品は、楽曲ごとにさまざまな主人公が存在する。“この世界のどこかにいるかもしれない誰か”を作品にするという考えを持つからだ。それは、実体験をもとに曲を作らないタイプのシンガーソングライターということである。自分の気持ちを乗せるのではなく、言葉とメロディによって世界そのものを創出する。ゆえに、ありきたりではない楽曲のテーマ性、物語には他ではないオリジナリティがあり、歌詞における言葉遊び含め、さまざまなギミックが練られている。
小説や映画のワンシーンを、ヒリヒリとドラマティックに想起させる生々しい歌詞の魅力。まずは、ライブでも人気なナンバー「タイトロープ」(2022年7月20日リリース)を聴いてほしい。“ただ愛されたいだけなのに、先に体の関係を持ってしまうことによって大切にされないアタシ”というテーマによって、主人公の感情を赤裸々に表現した作品だ。
受け入れてほしい誰だって
寂しさを愛しさと履き違えて
口だけなんて慣れてしまって
ヒールのあと 傷だらけだったまだら模様 だらしがないから
フルコース 安いベッドまで
渇いてた心を
アルコールなんかで鈍らせるティッシュに包む まっさらな愛でも
腐って臭ってしまう生ゴミだよ後悔役に立たず 賢者になりたかった
だからアタシ すぐ酔うなし 用無し「タイトロープ」より
赤裸々かつ刺激的な描写がギターの歪みとともに心にぶち刺さる。それは映画のワンシーンへの没入感と近い感覚だ。もちろん、受け手によっては小説や漫画なのかもしれない。汐れいらによる楽曲は世界と物語を生む。単純なラブソングや応援ソングなどではなく、人それぞれの感動を生み、衝動を残す。言葉遊びを頻繁に取り入れており、歌詞と向き合う喜び、楽しさも与えてくれる。