KREVAは全てを受け入れてネバり続けていく “気持ち”を乗せるリリックへの鍛錬、OZROSAURUSとの制作秘話も振り返る

 KREVAが9月8日、“クレバの日”に新曲「Expert」をリリースした。メロディアスなラップに乗せ、聴き手を奮い立たせるような熱量のあるリリックを歌う、KREVAの王道とも言うべき1曲。〈どこに向かうかなんてのは/後でわかるから進め〉というサビのフレーズ、そして曲後半で転調を織り込んだテクニカルな楽曲構成が印象的だ。この曲がどんな風に生まれたのか、そして大きな反響を生んだOZROSAURUS「Players' Player feat. KREVA」の制作秘話、ライブについても語ってもらった。(柴那典)

「カッコ悪くないネバり方をしたい」

――新曲「Expert」ですが、ここまで言うべきこと、メッセージ性を引き受ける曲をど真ん中で放ってくるのは久しぶりな印象があります。

KREVA:メロディ、フロウと歌詞にちゃんと気持ちがくっついてるものしか乗せたくなくて。言いたいこと、言いたくないこととかじゃなくて、ちゃんと気持ちが乗った歌ができるまでネバって完成させた感じですね。

ーー曲の種ができた時に、これは大切なものになるぞという直感があったんでしょうか。

KREVA:曲をまとめて作ろうという時期があって。いつのインタビューでも言ってるけど、トラックはいっぱい作ってるからいっぱいあるんです。その中でストックにないものに言葉を乗せてみたり、作ってはすぐ言葉を乗せてみたりしたんですけど、やればやるほど、やっぱりこれが一番いいなって思うようになってきて、「じゃあ大事に作っていこう」っていう感じでした。他のものが瞬発的に言葉を乗せたりしたのに対して、これは言葉を乗せるぞと思える状態になるまで、まずトラックの方を納得行くまでいじって。そういう作業をして辿り着いた感じですね。

ーーまとめて曲を書くっていうのは今年に入ってからだった?

KREVA:そうですね。この曲に辿り着くまで何曲か作ってたんだけど、やっぱりこれかなって思うようになって。出し尽くした感はありました。

ーーどの段階でこれだという感じがありました?

KREVA:言葉を乗せてからかな。乗せた結果、こういう転調してキーが上がる曲になった感じです。軽く書いて歌ってみたら、最初の高さも、最終的に上がっていって到達する高さも、どっちもいいなあと思えたんです。じゃあどっちも入れるには転調すればいいんじゃないかと思って作ってみて、ブリッジの部分のラップを書いたり歌を少し直したりして、完成したという感じですね。

ーー転調のところは、特に「お!」と思わせる仕掛けになっていますよね。ブリッジで2回キーが上がっている。

KREVA:今までだったら、例えば最初に歌う高さがAで最終的に辿り着くところがBだとしたら、AかBかどっちか悩んで、誰かに意見を聞いたりして「Bかな」みたいになってたと思うんですけど。それが今はAからBに転調していくこともできるようになった。両方を活かしたいって思えるようになったんですよね。それはコロナ禍で技術的に成長した部分が大きくて。機材の使い方が上手くなってきた、特性を掴んだっていうのもあるし、バンドでいろいろやってきて、いろんなアレンジの方法とか転調の仕方を学ぶところもあった。その2つが合わさってこういう形ができるようになったんだと思います。

ーー転調するポイントと曲のメッセージ性、意味合いが噛み合ってますよね。

KREVA:結果的にそうなりましたね。タイトルになる言葉も出てきてるし。こうなって良かったなと自分でも思います。それこそ〈調子悪い日もあるがネバり抜こう〉という歌詞もあるけど、この曲に関しては結構ネバって可能性を追求してました。

ーー気持ちの乗っかる言葉だけを選ぼうとした結果、聴く人を奮い立たせるような曲になった理由はどんなところにありますか?

KREVA:なんでそういう曲にしようと思ったのか、覚えてないんですよね。〈どこに向かうかなんてのは/後でわかるから進め〉というサビの1行目の言葉がまず出てきたんだけど、どうしてか思い出せなくて。ただ、書き出した時は、自分より一回りも下の世代、若い世代にストレートに響くような歌になればいいなと思って書き出したっていうのは覚えてるんですよ。だけど、書いて歌っていくうちに、全部自分に言ってる気がしてきて。言葉に気持ちが乗るってそういうことだったのかなって、今は思ってます。

ーー〈調子悪い日もあるがネバり抜こう〉とか、KREVAさんが普段インタビューで「なかなか調子が出ない時はスタジオの掃除したりしてる」とか、そういう話をしているテンションの言葉ですよね。

KREVA:まさに。

ーー自分がこういうふうにやってきた/やっているという、自分の言葉になっている感じがします。

KREVA:なんというか、カッコ悪くないネバり方をしたいなっていう気持ちがあるんですよ。ネバってないと、ほんとすぐ消えていくような世界だと思うし、ラップに限って言えばどんどん若いヤツが出てきて、若いヤツのものみたいなところもあるから、ネバってないといけない、ネバらないのはカッコ悪いと思う。ただ、ダサいネバり方っていうのもあると思っていて。何かにすがってるとか、利子だけで生きてるみたいな。そうじゃなくて、状況とか全部を受け入れて、それでもまだネバってる、頑張ってるっていうのが、今自分が下の世代、年齢離れた世代に残せるものなんじゃないかって最近すごく思ってて。それが言いたかったことなのかなっていうのは感じているところです。

ーーダサくないネバり方って難しいですよね。

KREVA:そう思う。これをダサいと思う人もいるのかもしれないけど、俺はどっちかというと、そうだとしてもまだネバりたいかな。やりたいこと、やってみたいこともまだあるし。それをやらないで余力だけでやってるとか、「MCバトル3連覇してるんだ」みたいなことを急に声高に言い出して、そこだけで生きていくのも嫌だし。

毎朝ノートに向かうことで広がっていく歌詞

ーー毎朝起きたらすぐノートに文章を書いているという話を聞きましたけど、これは今年に始めたこと?

KREVA:そうですね。それをやるといいって本に書いてあって、今年の頭から始めました。文房具が好きなんで一石二鳥っていうか、毎日いろんなペン使えるし、いいかなと。

ーーもしかして『The Artist's Way』(邦題『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』/ジュリア・キャメロン著)という本のことですか?

KREVA:そうです。最初は結構真面目に、書いてある通りにやってたんです。毎朝1時間半かけてノートに3ページ書いてたんですよ。だけどその本のパート2、パート3を読んでいったら、最初の本から20数年経って、「毎朝そんなことに1時間半使うのはナンセンス」みたいなことが書いてあって、愕然として(笑)。あとは、英語の感覚と日本語の感覚って違うんですよね。英語の筆記体でバーって殴り書きみたいにすればA4で2ページとか3ページとか到達すると思うんですけど、漢字だと1ページが限界かなと思って。だから今は目標30分で毎朝書いてます。それはずっと続けてますね。

ーー実はジュリア・キャメロンの“モーニングページ”、僕もやってるんですよ。ちょうどKREVAさんと同じくらいのタイミングで始めたんですけど、たしかに30分で1ページが一番しっくりきます。

KREVA:そうですよね。考えてること、頭の中にあることを出すにはちょうどそれくらいで。ただ、俺の感覚で言うと、1時間を超えたところ、2ページを超えた3ページ目に入ったあたりで、心の中で本当に辿り着きたかった思いがポロッと出てくる瞬間があって。それは作詞に役立ったような気はします。「Expert」を書く時に、何かにすがるつもりでそれを見てみたんです。書き記したことは基本的に振り返らないってあの本では書いてたけど、ある時期が来たら見てみるのもいいだろうって書いてあったのを思い出して。そういえば、歌詞のきっかけになったサビの1行目も、たしかその中に書いてあった言葉だったかもしれない……そこからこの歌詞が広がっていった。そうだ、思い出しました。

KREVA 「Expert」 MUSIC VIDEO

ーー「Expert」というタイトルの言葉は最後の方に出てきた?

KREVA:最後の最後ですね。このブリッジを作ったのが最後だから。タイトルは何だろうってなった時、これは「Expert」かなって思いました。

ーーそれはどういう意味合いで?

KREVA:ハマり具合かな。この言葉が曲の全部を言い表してるとかじゃないんだけど。この曲で一番フックになったのは〈どこに向かうかなんてのは/後でわかるから進め〉なんですよ。韻も踏んでないし、これが言いたかったことだから。でも、これをタイトルにするかというと、それは違うと思うんです。例えば俺がデザイナーだとして「このタイトルのジャケ写をデザインしてください」って言われたら、ちょっと考えちゃうから、いろんなことを考えた結果「Expert」がいいかなと。どんな歌だろうと思わせられるし、タイトルだけなら、俺がラップのエキスパートだって歌っているテクニック系の歌を連想する可能性もあるかなっていうのも、一瞬頭によぎった気がします。

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