9mm Parabellum Bulletが進む「Brand New Day」とは? バンドの原点と今、9年ぶりの武道館公演――菅原卓郎がすべてを語る

9mmが進む「真新しい日」

 今年、結成19周年を記念して毎月“9”のつく日に全国でツアーを繰り広げている9mm Parabellum Bullet。すでにライブを目撃した人は、今の彼らがいかにいい状態で走り続けているかを目の当たりにしていることと思うが、そうなのだ。今の9mmは非常に調子がいい。コロナ禍を経てお客さんの声が戻ってきたこともあって、各地のライブ会場ではとても熱くてフレンドリーな空気が生まれ、そのなかでバンドも躍動している。

 そして、そんな充実の19周年を彩るニューシングルとしてドロップされるのが新曲「Brand New Day」だ。〈向かい風〉や〈嵐〉をものともせず前に向かって走り、タイトルどおり「真新しい日」に突き進む、痛快なエネルギーに満ちたこの曲には、9mmの原点と今が詰まっている。その原点と今、そして9月19日の日本武道館公演(9年ぶり!)に向けた思いを菅原卓郎(Vo/Gt)に聞いた。(小川智宏)

バンドとして「死にづらくなった」感じがする

――現在『19th Anniversary Tour』の開催が続いていますが、いかがですか?

菅原卓郎(以下、菅原):今回のツアーは毎回セットリストが違うから、どんなふうに演奏するかということにいちばん力を注がないといけなくて。日程も(一定のスパンでひとつに)繋っているわけじゃないから、実はツアー感があんまりなくて、一つひとつが特別なライブで、その塊という感じになっていますね。毎回、別のお祝いをしているような気がする(笑)。凱旋ライブでメンバーの地元ホール公演での滝(善充)地元の茨城と、かみじょう(ちひろ)くん地元の長野も、まったく違ったから。ただ、F.A.D YOKOHAMAみたいなライブハウスでやると、「9mmってやっぱりこのへんの人だったんだよな」という感じがすごくしますね。

――今回のシングルには、まさにそのF.A.Dでのライブ音源が収録されていますが、あれ、すごくいいですね。

菅原:ありがとうございます。本当はもっとフロアの声を入れたかったんですけどね。みんなマスクはしているけど、すでに声は出してもよくなっていたから、熱気がものすごいことになって、マイクがダメになっちゃうんじゃないかという懸念があって。だからあの音源、お客さんの声はステージの後ろのほうから録っているんですよ。けど、みんなの声が入っているのはいいですよね。

――実際にライブを拝見しても、お客さんがめちゃくちゃ歌ったり叫んだりしていて。そのへんの感覚は「やっぱり戻ってきたな」っていう感じですか?

菅原:そうですね。最初は(その感覚を)ちょっと忘れていて、みんなが歌っていることにいちいち感動していたんですけど、最近やっとちゃんと慣れてきて、歌ってほしいところを託せるようになってきました。

――たしかに。「そういえば9mmのライブってこうやってみんな歌ってたよな」っていうのを思い出す感じもありますよね。

菅原:そうですよね(笑)。お客さんのほうでもちょっと忘れてるというか、その感覚と遠ざかっていたからパッと出ないような、お互いびっくりしているようなところがあったんですよ。「あ、ここ、歌うとこだった」みたいな(笑)。でも、だんだんみんなも進んできているから、「ずっとこんなライブをしてたよね」っていうところに近づいてきているなという感じはします。

――今回のツアーを拝見していても思うんですが、そもそも数年前から、9mmのライブ自体もどんどん変わってきている感じがしますよね。そのあたりはご自身ではどんなふうに感じていますか?

菅原:どんどん力が抜けていっているというか。力が抜けたほうが速い球が投げられる、みたいな感覚に近づいている気がしますね。あんまり力まないで激しいライブをするっていう。ガチガチに気持ちも演奏もすべてが固まっているより、今のほうがバンドの表現に合っている瞬間が多いなって思います。打ち込みが一緒に鳴っているようなバンドじゃないから、やっぱり曲のなかで演奏が速くなったり遅くなったりして当然なんです。昔はもっとソリッドにやらなきゃいけないと思っていて、タイトに「このBPMを目指してやろう」という感じだったんだけど、今は膨らんだり縮んだりしてもいいようにしていて。「これを基準にしておこうぜ!」って言って、いざライブになったら違ってしまうようなことがあっても、それもありだと思えるようになってますね。

――いつ頃から、そういう意識になってきたんですか?

菅原:滝がライブに復活してからかな。どんなふうにライブをしていくかを考えながらやっていた流れのなかで、変わっていった気がしますね。サポートメンバーが変わる時もあるし、コロナ禍にはライブの前半で『BABEL』(2017年リリース/7thアルバム)、後半はインディーズ時代の『Gjallarhorn』『Phantomime』の楽曲をやる再現ツアーをやったりして。そこでは、前半は6人編成なのに後半は4人だけになるっていう、演奏メンバーの触れ幅があったんですよ。それでも、どの状態でも曲は9mmとして表現するために、「自分たちがどんなふうに演奏していくか」「今の僕ならどうやって歌うか」を試していった結果かなと思います。不思議なんですけど、4人のほうが(6人で演奏する時よりも)音がデカくなったりするんですよね。それは、やっぱり“9mmのアンサンブル”というものがあるからなんだなと、ツアーのなかで感じたんですよね。

――ちょっと抽象的な言い方をすると、“9mm”という生き物がいたとして、ライブを観ると、その生命力が上がってきている感じがするんですよね。エネルギーがすごく増しているような感じがして、それがすごく楽しげに見えるんですよ。

菅原:そうですね、楽しんでる感じはあります。その「生命力が増してる」って見えているのは、自分としては「危ない状態になりづらくなった」っていう感じなんです。「死にづらくなった」っていう感じがする。

――「死にづらくなった」?

菅原:たとえばダンゴムシだったら、危ないと思ったらキュッ!って丸まっちゃうじゃないですか。でも、そうはならなくなったんですよ。ずっとフニャフニャしているというか(笑)。こんな音を出していてアレですけど、すごく柔軟性が高くなって、どういう形になろうとしても平気っていう感覚。

――『TIGHTROPE』(2022年リリース)っていうアルバムも、まさにそんな感じでしたもんね。「綱渡りをしている」という語感からは、なんか危なっかしい印象もあるけど、意外とそれを楽しんじゃってもいる感じというか。

菅原:そうそう。綱渡りもギュッと体を固めていると絶対に落ちちゃうから。『Man on Wire』っていう、ビルとビルのあいだで綱渡りをする人のドキュメンタリー映画を観たんですけど、その人はバランスを取る棒を持ったまま、ロープの上で前転とかしてるんですよ。それができるのは、やっぱりリラックスしているからで。『TIGHTROPE』も、タイトロープの上に置かれた状況をどうやって乗り切るか――というアルバムだったというか。コロナ禍の2、3年、そういうふうに過ごしてきた9mmとして作れたひとつの形だったから。それはたしかに繋がっている気がしますね。

――そうですね。

菅原:高いところ苦手なのに、その映画を飛行機の上で観ちゃったんですよ(笑)。二重苦、三重苦みたいな感じで「やめろよ!」って思ったんだけど、でもそれくらいの気分でバンドについてもやれているというか。ステージに出ていくことにすごく緊張する人もいるけど、僕は全然しないほうで。だから、ステージをタイトロープだと思うんじゃなくて、そこでどうやって自分の場所という気持ちでいられるかが、いい演奏することにはとても重要な要素だなと思ってる。そういう部分も表れてるのかもしれないですね。

――そういう気分の持ちようって、やっぱり演奏にも反映されていくものですか。

菅原:そうですね。ちょっと話がズレちゃうけど、F.A.Dでのライブは「少年の声」から始まる、本当にインディーズの頃にしかやってこなかったような曲順で演奏したから、ライブをやっていてもなんとなく気まずい、みたいな(笑)。MCでも「その気まずさをもはや楽しんでもらおう、“F.A.Dでのライブはこうだったんだよ”と体験してもらおうと思ってやりました」と話したんですけど、そういう感じ。あの感覚は、ちょっと想像以上でしたけど。

――だから、「今の9mmはこうだから」っていう凝り固まった感じじゃなくて、そういう意外性も含めて楽しめちゃう感じというか。今回のツアーもかなりレアな曲をやっていますしね。

菅原:うん。久しぶりの曲をやったりすると「なんでこんなことしてたんだろう?」って思うことばっかりなんですけど(笑)。すごく性急な演奏が多いんだけど、それは昔はそうすることでしか激しさを表現できなかったからなんだろうなって思いますね。さっき話した、「今は力を抜いているほうが激しくやれる」というのもまさにそれで。前はワーッ!って心臓がすごい速さで動いてないと盛り上がった気がしない感じだったんだと思うけど、今はそんなことなくて。9mmはすごく激しい演奏をして暴れたりしてるけど、実はお客さんをすごく見ているんです。お客さんが波打つようなテンポや演奏を、最近は気にしながら演奏できるようになってきたから、聴いている方の印象は変わらないと思うんですけど、昔の曲についてはテンポとかをかなり調整して演奏し直すようにしてるんですよね。

――ああ、なるほど。

菅原:フレーズとかも無茶しすぎてるな、これは本当に意味がないなと思うことも時々あって。コードの積み方も「なんでこんなことしちゃったんだろう?」っていうものもあるんですけど、でも分解した時にその曲の面白さがなぜか減っちゃうこともあるから、そこは本当にせめぎ合いなんですけど。自然と、今いちばんいい形になるようにしているのが面白いですね。新曲を作るとまでは言わないけど、毎回新しいお題を出されて、「じゃあやってみましょう!」って挑戦しているような感覚はあります。

――そうすることで、過去の曲もあらためて楽しめているというか。

菅原:そう。長くやっていると、なかなか昔のアルバムの曲を演奏しなくなっちゃって、それはもったいないとみんな思っていると思うけど、自分たちも思ってたから。それを掘り起こしてきて「こんなよさもあるじゃん!」って自分たちも9mmを楽しめているなって。昨日もスタジオでリハをやっていたんですけど、「これいいじゃん!」っていうのがやっぱりあったから。そうやって、ちょっとずつ「なんでこの曲はしょっちゅうライブでやるんだろう?」っていう昔のアルバムの曲が増えて、来年までかけて、そのリストが作れたらいいなって思ってるところです。

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