Wakana「光の“そのさきへ”、みんなと一緒に歩いていきたい」 願いを込めて歌い上げたビルボード横浜公演
3年連続での開催となった、Wakanaによるビルボード横浜とビルボード大阪でのライブ『Wakana Billboard Live 2023 ~そのさきへ~』。音楽と食事が愉しめるクラブ&レストランでのライブは、これまでは生音のアコースティックセットでの演奏だったが、今回は音楽監督でピアノの武部聡志、ギターの遠山哲朗に加えて、キーボードも担当するマニュピレーターの前田雄吾も参加。後のMCでも語っていたように、5月31日にリリースされた3rdのフルアルバム『そのさきへ』の再現に焦点が当てられていた。
このライブの白眉は、清塚信也が作曲し、鳥山雄司が編曲した超絶技巧の難曲「KEMONO feat.清塚信也」だ。高速で早口のボーカロイド曲のようであり、ジャズのスキャットのパートに日本語の歌詞を載せたようでもある。どちらにしても生で歌いこなすことが困難な楽曲で、アルバムのインタビュー時には本人も「今までに経験のない速さと難しさだった」(※1)と語っていたのだが、2カ月後のライブのセットリストにはしっかりと組み込まれていた。
本稿では7月6日公演の2ndステージをレポートする。アルバムでは、光が射す明日への希望を追い求める旅路が描かれた全11曲の前半と後半をつなぐインタールードの役割を果たしていたインストゥルメンタル「そのさきへ〜Interlude〜」がプロローグとなり、バンドメンバーに続いて、Wakanaが客席に手を振りながらステージに上がった。オープニングナンバーは、人間に恋をした蝶の独占欲を描いたダークファンタジー「Butterfly Dream」。Wakanaはビブラートの効いた歌声で観客一人ひとりを夢の世界へと誘うように〈君が今一番 欲しいものは何?〉と繰り返して問いかける。そして、一青窈とマシコタツロウのコンビによる「Rapa Nui」で、異国情緒あふれるサウンドとWakanaが伸びやかに歌う〈僕を呼ぶ声〉によって、新しい風景が目の前に広がり、観客はここではないどこか遠くへの旅へと誘われていった。
「ビルボードライブ横浜に1年ぶりにまた戻ってくることができて、みなさんのお顔を見ることができて嬉しいです。ぜひ今日はこの近い空間でたっぷりと音楽を楽しんでいただきたいと思います。今回は、アコースティックだけでなく、打ち込みの音や弦の音、リズムの音など、いろんな音と一緒に届け、できるだけアルバムの音を再現できるようなライブにしたいと考えています」
そんなMCを経て、珍しく序盤にバンドメンバーが紹介された。アルバムのプロデュースを手がけた武部は「すごくいいアルバムができたと自負しています。1曲たりとも手を抜いていないし、全力で取り組んだ曲ばかり。今日、ライブでお披露目するのが楽しみだったし、燃えますね」と熱く語る。そして、「武部さんが初めて描いてくれた『翼』の続き」だというラテン歌謡の「殻」では、フラメンコギターに乗せて、怒りや不信感を優しさで包んだような、これまでにないアグレッシブな歌声を展開した。
アルバムと同じ曲順による3曲が終わったところで、武部が「まさかライブでやるとは思わなかった。ここでWakanaさんの実力が試されますよ」とプレッシャーをかけ、Wakanaは「はぁ……。怖いんですよ」とため息をつきながらも、「行ってみましょうか!」と気合を入れて、いよいよ「KEMONO」へ。ダイナミックに広がっていくロングトーンや、癒しのボタニカルボイスと称される彼女の特徴をあえて封じた楽曲ではあるが、速いパッセージでメロディの上下動も激しいジャズナンバーを正確に歌いこなすだけでなく、言葉の一つひとつをしっかりと発音しつつ、母音と子音の連なりが生み出すグルーヴも体現。場内からはまるでクライマックスのような拍手と大歓声が沸き起こり、Wakanaは「最初は自信がなかったけど、良かったです」と胸を張り、「これからも歌い続けていきます!」と宣言した。