Wakana、美しい歌声で呼び起こす記憶の中の原風景 多彩なカバーでメッセージ伝えた『Wakana Anime Classic 2021』

Wakanaが9月4日に東京・紀尾井ホールにて、アニメソングをクラシックアレンジでカバーするコンサート『Wakana Anime Classic 2021』の東京公演を行った。
2020年12月9日にカバーアルバム『Wakana Covers ~Anime Classics~』をリリースしたWakanaは、同年12月22日に女性4人組のクラシカルユニット・1966カルテットの演奏によるコンサート『Wakana Anime Classic 2020』を開催していた。2度目となった今回のアニメクラシックコンサートは、音楽監督の橋本しん(Sin)(Pf)、室屋光一郎(Vn)、結城貴弘(Vc)といったアルバム制作にも携わったメンバーを迎え、大阪で1公演、東京は昼夜2公演の合計3公演を開催。新型コロナウイルス感染症防止対策として、キャパシティの半分の人数を収容した有観客ライブに加え、東京公演では2公演ともオンライン生配信が行われた。本稿ではその夜公演をレポートする。

さらに、『となりのトトロ』から「風のとおり道」をアカペラで歌い始めると、楽器陣はそれぞれが森の音を表現し、彼女のハミングはその森の中を抜けていく風へと変化。「もののけ姫」でも声で森の風景を連れてきてくれたが、その響きはとても美しく力強く、息をすることを忘れるほど引き込まれてしまった。次第に歌声一つでスケール感を拡大していき、音が消える直前、最後の一音まで聴かせるパフォーマンスとなっていた。そして、「大切な思い出をずっと大事にしている人になりたいなと思います」という言葉から、『紅の豚』エンディングテーマの「時には昔の話を」へ。まさに昔話を語るかのように歌っていたが、情景描写をしっかりと伝える彼女の歌声にはやはり空や風を感じられ、伝書鳩を空に放つように歌った〈どこかで〉というフレーズをもって、第一部は幕を閉じた。
場内換気による20分の休憩を挟むと、「みんなの心の中にあるアニメソング」がテーマの第二部がスタート。私の好きなものから、“あなたの好きなもの”へ。アニメソングでありながらポップソングとしても愛されている楽曲たちで、しかも全てが男性アーティストのカバーになっていた。新海誠監督の映画『言の葉の庭』主題歌として秦 基博がカバーした「Rain」(原曲は大江千里)、湯浅政明監督の映画『夜明け告げるルーのうた』の主題歌として起用された斉藤和義「歌うたいのバラッド」、細田守監督の映画『サマーウォーズ』主題歌として書き下ろされた山下達郎「僕らの夏の夢」。ピアノ、バイオリオン、チェロが時に雨を降らし、時に青空に入道雲を描くように鳴り響く中で、Wakanaは“夢”や“約束”、“愛”といった歌の言葉を丁寧に観客に届け、それぞれの記憶の奥底に眠っている思い出や原風景を呼び起こしていった。
