向井太一×T.Kura×michico、内なる欲求に正直である大切さ 互いの想いに深く歩み寄った「TRUE YOU」制作を語り合う

 シンガーソングライターの向井太一が、5曲入りのミニアルバム『CANVAS』を6月28日にリリースした。昨年リリースされた通算5枚目のアルバム『ANTIDOTE』以来、およそ1年2カ月ぶりとなる本作には、TVアニメ『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』(テレビ東京系列)の2年目エンディングテーマに起用された「Cosmos」や、 アニメ『TIGER & BUNNY 2』(パート2)エンディングテーマ「Pilot」などを収録したバラエティ豊かな1枚。

 そして、書き下ろしの新曲3曲のうちの1曲「TRUE YOU」には、これまで安室奈美恵やCrystal Kayなどのヒット曲を手掛けたT.Kuraとmichicoが、作詞作曲にクレジットされている。「BABY CAKES」「99' feat. CrazyBoy」に続いて3度目のコラボとなる「TRUE YOU」は、メッセージ性の強い歌詞と少し低めのトーンで歌うメロディが印象的。向井の新たな一面にフォーカスしたようなこの曲を、3人はどのようなプロセスで作っていったのだろうか。現在はアトランタに拠点を構えるmichicoとはリモートで繋ぎ、3人にじっくりと語り合ってもらった。(黒田隆憲)

夢だったT.Kura&michicoとのコラボに至った理由

──向井さんの楽曲にT.Kuraさんとmichicoさんがクレジットされるのは「TRUE YOU」が3度目となります。初回は2021年にリリースした「BABY CAKES」でしたが、それはどのような経緯で実現したのでしょうか。

向井太一(以下、向井):僕は小学校1年生くらいの頃から日本のR&Bが好きになり、クレジットをチェックしてみると好きな曲の大半をT.Kuraさんとmichicoさんが手掛けていることに気がついたんです。本場のR&Bテイストを色濃く出しつつ、J-POPのフォーマットに落とし込むことを、お二人は常にやってこられた印象があって。だからこそメジャーアーティストの方々も、お二人に楽曲をお願いすることが多いのでしょうね。自分もシンガーソングライターとしてデビューしてからは、「いつかお二人とコラボがしたい」ということを目標の一つにしていました。なので、当時はダメ元でお願いしたのを覚えていますね(笑)。

向井太一

──T.Kuraさんとmichicoさんは、向井さんに対してどんな印象を持っていたのでしょうか。

T.Kura:最初はとにかく爽やかな印象でした(笑)。それに、こんなに若いのにどうして僕らのことをそんなに知ってくれているのだろう? と。

michico:GIANT SWING(T.Kuraが自身の作品をリリースする際に用いるアーティスト名)が好きな高校生なんてなかなかいないもんね(笑)。ませているというか、その頃からすごくセンスがあったんだと思う。私が太一くんの歌を初めて聴いたときの印象は、R&Bマナーがしっかり身についている人だということ。間違いなく洋楽志向なのだろうなと思ったし、それがファッション的にも表れていて。存在そのものがアートという感じ。

向井:ありがとうございます。僕が初めてお二人のソングライティングを意識し始めたのは、Crystal Kayさんの楽曲を聴いてからなんですよ。兄がCrystal Kayさんの3rdアルバム『almost seventeen』(2002年)を買ってきて、それを二人でよく聴いていましたね。「Girl U Love」とか大好きでした。

T.Kura:Crystal Kayと仕事をするようになったのは、ちょうど僕らがアトランタと東京を行き来するようになった頃でしたね。確か1stシングル『Eternal Memories』(1999年)が出た頃だったから、彼女はまだ13歳。「もっとR&B色を強く出していきたい」と言っていたのを覚えています。当時はかなりポップな曲を歌っていたんだよね。で、僕とmichicoもちょうどその頃、本格的なR&Bを日本語で作ってみたいと思っていて。今と違って当時はまだ、日本にそういうジャンルがほとんどなかった。「だったら僕らがやろう」ということになったんです。

T.Kura

michico:その頃、彼女に書いていたのは大人でも歌いこなすのが難しそうな楽曲。それをレコーディングしているときに、「魂が入らない」と言って泣くわけ。私も思わず一緒に泣いちゃうの(笑)。二人で泣きながら「私たち、なんで泣いてるんだ?」みたいな……そのくらい入魂していましたね。今もプライベートでもお付き合いがあって、親戚みたいな気持ちになっていますが。

「『CANVAS』はアーティストとしての基本姿勢」(向井)

──では、3人での初のコラボ曲「BABY CAKES」はどのように作っていったのでしょうか。

向井:とにかく「BABY CAKES」は、お二人の作風を色濃く出していただきたくて、歌詞やトップラインに関しては完全にお任せしました。

michico

T.Kura:向井くんは“歌える人”なので、スタジオに一緒に入って、michicoとはオンラインでつないでの作業でしたね。僕らが昔作っていた楽曲を、太一くんがすごく気に入ってくれているという話だったので、「久々にそういう感じをもう1回やってみようか」というところから作り始めました。

michico:「BABY CAKES」って、一口で食べられるくらいの小さなお菓子のことなんですよ。パンケーキをたこ焼きの型で焼いたみたいなやつで、日本でいうと人形焼きみたいな。アメリカ独特の文化だし、恋人や結婚相手のような、自分にとって愛おしい相手のことも「BABY CAKES」って呼ぶんです。それがすごく素敵だなと前から思っていたし、「BABY CAKES」自体は日本で馴染みがなくても、「BABY」と「CAKES」は言葉としても馴染みがあっていいかなと。

──でき上がったトラックに関して向井さんはどう思いましたか?

向井:レコーディング中も思ったのですが、僕が普段やっているコーラスの積み方や声の入れ方とは全然違ったんですよ。最初はそれがどんな効果を生み出していくのかを完全に把握していたわけではなかったからこそ、仕上がったときに「こんなふうになるんだ!」という感動がすごく大きくて。あとは、とにかくお二人とご一緒できて夢のようでした。

向井太一/99’ feat. CrazyBoy(Official Music Video)
向井太一 / BABY CAKES(Special Live Video)

──今作「TRUE YOU」は、「99' feat. CrazyBoy」を経て3度目のコラボとなります。まずはミニアルバム『CANVAS』のテーマやコンセプトなどを聞かせてください。

向井:これまで僕はEPやミニアルバム、アルバムと、作品ごとにコンセプトやテーマを明確に決めていたので、サウンド面はもちろんアートワークやビジュアルなど、前作とはイメージをガラッと変えていくことをずっとやってきました。それが自分の“強み”でもあったのですが、「そういうやり方って器用貧乏とも言えるよな」とネガティブに考えてしまった時期があり、しばらく悩んでいたんですけど、今作を作っているときにはそこを一段乗り越えたというか。作品ごとに自分を新しく塗り替えていくことって、ちっとも悪いことじゃないなと思えるようになったんですよね。

 例えば絵画も、まっさらなキャンバスの上に色を塗っていくわけじゃないですか。そこにどんな色を載せようが、土台となるキャンバスは常に変わらない。自分自身も“キャンバス”であればいいんじゃないか、アーティストとしてのそういう基本姿勢を表明するつもりで今回は『CANVAS』というタイトルを掲げることにしました。

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